chapter 16


 店を飛び出したハボックは全速力で駈けていく。目的の場所に着いた頃には息はあがり空気もまともに吸えないような状態だった。目の前の木々に囲まれたどっしりとした構えの家はひっそりと静まり返って人のいる気配がない。
「まだ帰ってないのかな…」
 そもそもこんな所まで来て、自分はどうするつもりだったのだろう。気付いたばかりのあやふやな気持ちを伝えようとでもいうのだろうか。その時、どうしていいか判らず立ち尽くしていたハボックの耳に車のエンジン音が聞こえてきた。ハッとしたハボックは慌てて物陰に身を隠す。車は家の前で止まり、運転席から見慣れた金髪の姿が降りてきた。
「中尉…」
 ホークアイは車から降りると後ろに回りロイをおろす。二言三言話したかと思うと車に乗り込んだ。そのまま走り去るのかと思った車は道路の邪魔にならない位置に寄せられホークアイが再び姿を現す。そうして待っていたロイと寄り添うようにして家の中へと消えていった。物陰から一部始終を見ていたハボックの耳にいつか聞いた声が蘇ってくる。
『好きな人がいるんだ』
 そう言ったロイの言葉。
「そうか、そういうことか…」
 どうして気が付かなかったのだろう。誰よりもロイの側にいて、一番に思いついてもいいはずの人なのに。
「はは…、バカみてぇ、オレ…」
 自分の気持ちにやっと気づいた途端、失恋なんて。
 ぽろりと零れた涙を乱暴に手の甲で拭うと、ハボックはロイの家に背を向けてとぼとぼと歩きだしたのだった。


2007/12/12