chapter 15


「どうだ?怪我の具合」
「うん、痛みもないし、もう大丈夫」
 ブレダはカウンターに並んで座ったハボックに話かける。怪我人を飲みに誘うのもどうかと思いもしたが、それでもしょげ返っているハボックを放ってはおけず、仕事を終えた後ハボックに声をかけたのだった。
「…大佐の護衛、どう?相変わらず勝手言ってんの?」
「あー、いや、そうでもないな。大人しいもんよ」
「ふぅん、そうなんだ」
 握り締めたグラスをじっと見つめながらそう言うハボックをブレダは見つめて内心ため息をつく。長い付き合いだがこんなに元気のないハボックを見るのは初めてだった。
「お前さ、大佐となんかあったのか?」
「え?」
 あまりに様子の違うハボックに思わずそう聞いてしまってから、ブレダは舌を鳴らした。ブレダにそう聞かれたハボックがまるで親鳥に見捨てられた雛のように不安で一杯の瞳で見つめてきたからだ。
「大佐、なんか言ってたのか?」
「あー、いや…」
「なにか言ってたんだろっ?言えよっ!」
 ダンッとグラスをテーブルに叩きつけるように置くとハボックをブレダを睨む。ブレダは困ったように視線を彷徨わせていたが、ハボックにグイと腕を掴まれてため息をつくと言った。
「お前を護衛に戻すか判らないって言ってた」
「…うそ」
「あ、でも“判らない”だからな。どうせすぐまた“そんな事言った覚えはないな”とか言って――」
「イヤだっ!!」
 言葉を遮るように大声を出したハボックをブレダはびっくりして見つめる。
「オレ以外のヤツが大佐の護衛するなんて絶対に嫌だっ!!」
「ハボ、おい…」
「大佐の護衛すんのも、コーヒー淹れんのも、脱走した大佐見つけるのも、酔った大佐介抱すんのも、全部オレんだっ!!」
「おい、ちょっと落ち着けって、ハ――」
 喚き散らすハボックを落ち着かせようとしたブレダは、大きく見開いたハボックの瞳からはらはらと涙が零れるのを見て伸ばしかけた手を止めた。
「全部オレんだ…だって、だってオレ…」
 驚いたブレダが息を飲んで見つめる先でハボックの唇が微かに震える。
「オレ、たいさのこと…」
「ハボ?」
 綺麗な空色の瞳がなお一層見開かれて。
「ハボっ?!」
 ハボックは席を蹴立てて立ち上がるとそのまま店から飛び出していってしまった。


2007/11/27