chapter 14


「ブレダ少尉」
「あ、はい。視察ですね」
 執務室から出てきたロイがブレダに声をかける。答えて書類を重ねて席を立つとブレダはロイとともに司令室を出た。そんな2人の姿を泣きそうに揺れる空色の瞳が追いかける。バタンと扉を閉めることでその視線を遮ったブレダはロイに言った。
「大佐、ハボに何か言ってやりました?」
「何をだ?」
「何をって…」
 司令部の廊下を歩きながら振り向きもせずに答えるロイにブレダはため息をつく。ハボックがロイに心酔していて、自分の不注意から護衛を外されてしまった事に大きなショックを受けているのは誰の目から見ても明らかだ。ここ数日、なんとなく2人の様子がおかしい事に気付いてはいたが、それでもハボックに何か労わりの言葉なりなんなりかけてやってもいいように思う。
「大佐、ハボの怪我が治ったらまた護衛に戻すつもりなんでしょう?」
 ブレダがそう聞けばロイは驚いたように振り向いた。まっすぐに見つめてくる黒曜石の瞳に居心地が悪くなってブレダは言葉を続けた。
「怪我が治ったら護衛として頑張ってもらうから早く治せくらいのこと言ってやったら――」
「護衛として戻すかはわからんな」
 ブレダの言葉を遮るようにロイはそう言うと再び前を向いて歩き出す。ブレダはその言葉にビックリして小走りに走るとロイにならぶようにしてその顔を覗き込むと言った。
「何言ってるんですか。だって、大した怪我じゃないでしょう?精々2週間もあれば治るような怪我だ。それをどうして…」
「ハボックがそれを望んではいないだろう。いや、たとえ今は望んでいたとしても私が考えていることを知れば望みはしないさ。それに…正直もう、限界なんだ」
「え?」
 ロイの言っていることが理解できずにブレダは足を止める。限界だと言ったロイの顔がこれまで見た事もないほど苦渋に満ちていて、ブレダはただ呆然とロイの背中を見つめていたのだった。


2007/11/26