chapter 12


 ハボックは給湯室でカップを洗いながらため息をついた。ざあざあと流れては排水溝に吸い込まれていく洗剤の泡を見つめたハボックは、先ほどのロイの言葉を思い出していた。
『お前はそれでいいのか?』
「それでいいのかって、何がいいって言ってんだろ…」
 ハボックはそう呟くとまっすぐに見つめてきたロイの黒い双眸を思い描く。強い意思を秘めた黒曜石の瞳。とても綺麗で、もしその宝石を手に入れることが出来るとしたら自分はどうするのだろう。
「バッカじゃねぇのオレ…」
 手に入れてどうしたいと言うのだ、そもそも手に入れることなど出来るわけもなく。
『ハボック、私は――』
 そういいかけたロイは結局最後まで言うことは出来なかった。
「何を言いたかったのかな…」
 ハボックはため息と共にそう呟くとガシガシと乱暴にカップを洗い出す。
「オレ、頭悪いんだから、謎かけみたいのやめてくんないかな」
 くそ、と呟きながら力任せに洗っていたハボックの手の中からつるりと滑り落ちたカップは。
「あっ!」
 パリンッ。
 シンクに落ちたそれは軽い音と共に割れてしまった。
「やべ…大佐のお気に入り…っ」
 慌てて手を伸ばすハボックの手のひらを欠けたカップがざっくりと切り裂いて。
「あっ…つうっ」
 投げ出すようにしてカップから手を離したハボックの手のひらからどくどくと紅い血が流れていく。
「あ…」
 カップに傷つけられた手が、ロイの言葉の意味を理解しないハボックに怒ったロイ自身に傷つけられたような気がして、ハボックは水と一緒に流れていく紅い血をぼんやりと見つめていたのだった。


2007/6/7