chapter 11


「大佐、もう件(くだん)の彼女には告白したんですか?」
 ハボックはコーヒーを差し出しながらロイに言う。驚いたように見上げてくるロイにハボックは困ったように笑いながら言った。
「ほら、この間好きな人がいるって言ってたじゃないっスか」
 どうなったのかなって思って、と首を傾げるハボックをロイの瞳がじっと見つめる。ハボックはその視線の強さに居た堪れなくなって目を逸らすと、呟くように言った。
「すんません、プライベートな事に口出しして…」
 不愉快だったらごめんなさい、と小声で言うハボックにロイはため息をつく。
「別に構わないさ」
 そう言ってコーヒーを一口飲むと言葉を続けた。
「その人にはまだ好きだと言ってないんだ」
「どうして?」
 意外な返事にビックリして思わず言ってしまってから、ハボックは慌てて口を手のひらで覆う。やべぇ、と顔に書いてあるハボックを見て、くすりと笑ったロイにハボックはえいと思って言った。
「まだ言ってないなんて、スゴイ意外っス」
「どうして?」
 逆に聞き返されてハボックは一瞬言葉に詰まったが、ここまで言ったのだからと続ける。
「だって、大佐って恋愛ごとに長けてるし、それに大佐がその気になったらどんな相手だって一発でしょ?」
 まるで自分のことを百戦錬磨の恋の達人のようないい方をするハボックに、ロイは苦笑すると言った。
「そんなことはないさ、ハボック。その人は私のことなど何とも思ってないかもしれないんだから」
 ロイの言葉にハボックは目を見開くと言う。
「またまた、そんなことあるわけないじゃないっスか」
 ハボックはそう言うとほんの少し唇を噛み締め、そうしてロイが手にしたカップを見つめて言葉を続けた。
「大佐が結婚したら、オレの淹れたコーヒーなんて飲んでもらえないかもしれないっスね」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、結婚したらその人の淹れたコーヒーが大佐の一番になるでしょ?そしたらきっと他のヤツの淹れたのなんて飲みたくないですよ、きっと」
 ハボックは自分でそう言っておきながら、鼻の奥がツンと痛くなるのを感じていた。だが、緩く首を振ると胸の痛みを心の隅に追いやろうとする。これまでこんなに近くに居られた方が不思議なのだ。そう考えるハボックの耳にロイの声が聞こえた。
「お前はそれでいいのか?」
「え?」
 ハボックは質問の意味が判らずロイの顔をみつめる。途端、その強い視線に絡め取られて、瞬きすら出来なくなってしまう。
「ハボック、私は――」
 ロイが何か言おうとしたその時。
 リン、とロイの机の上の電話がベルを鳴らして。
 ロイは数度瞬きすると、ゆっくりと受話器を手にした。
「もしもし」
 そう言って電話の相手と話し出すロイをおいて、ハボックは執務室を後にしたのだった。


2007/4/16