| chapter 1 |
| 午後の陽射しの射し込む穏やかな午後。ロイは執務室の椅子に腰かけてこれからの予定について喋るハボックの顔を眺めていた。ほんの1ヶ月ほど前、護衛官として自分の元にやってきた若い少尉は、まだ慣れない様子でメモを片手に懸命に話している。 東方司令部のロイ・マスタングといえば焔の錬金術師としてその名を馳せている。数々の武勲をたて、年若くして既に肩書きは大佐だ。女性の心を奪うその甘い容姿と他を圧倒する強大な力は、羨望と嫉妬の的でもある。そんなマスタングの元へやってきたハボックを最初見たとき、ロイはデカくてヌボーとした風貌に、護衛として役に立つのかと疑ったものだ。だが、わざわざヒューズが「お前なら使えんだろ」と言ってきたこともあり、試しに置いてみたのだ。 ある日ハボックが会議室の片隅でこそっと煙草を吸っている所に出くわしたロイが、困ったようにへらりと笑うハボックに「好きに吸え」と言った時からハボックの様子が変わってきた。咥え煙草で仕事をする態度はいただけた物ではないが、この飄々とした態度からおそらくこれがハボックの本当の姿なのだろう。小うるさい上司の下ではとてもやっていけないだろうが、仕事さえ出来れば細かなことは気にしないロイにしてみればなんでもないことであった。 メモを見ながら説明するハボックをロイはじっくりと眺めた。最初はボーッとしていると思った容姿も、本気を見せてないだけだと気づいた時、むしろ好ましいものとしてロイの目に映るようになった。いつからかハボックのことを目で追っている自分にロイは自分がハボックに惹かれているのだと気づき、そして。 午後の陽射しを受けたハボックの髪はきらきらと光の滴を集めているように見える。その髪をロイが微笑みながら見ているのに、ハボックが眉を顰めて言う。 「大佐、聞いてます?」 不満そうに唇を突き出して言う様子にロイはくすりと笑うと言った。 「少尉、ここへ」 机を挟んで立っているハボックにロイは自分のすぐ前を指差す。不思議そうな顔をするとハボックはどうしたものかと逡巡した。 「ハボック」 だが、繰り返し呼ばれて仕方ないとばかりに机を回るとロイの前に立った。 「なんスか?」 「しゃがんでくれ」 「は?」 見下ろしてくるハボックにそう言えばハボックは顔中にハテナマークを浮かべる。ロイはそんなハボックの腕を引いて半ば強引に自分の前に跪かせた。 「たいさ?」 不安げに見上げるハボックに微笑んで、ロイはその金色の髪をぱふぱふと叩いた。ぱふぱふと叩き続けるロイにハボックは気味悪そうにロイを呼んだ。 「たいさ…?」 「いや、光で出来ているように見えたのでね。確かめてみたんだ」 「はあ?」 ハボックは上司がまた訳のわからないことを言い出したと内心ため息をついた。初めてロイに会った時は噂の焔の錬金術師と言うことで随分緊張したものだが、ひと月護衛官として側にいるうち、なんて自分勝手で変わった人物だろうと思うようになった。自分もマイペースなところでは人のことを言えた義理でないがここまで変わってはいないと思う。 「やっぱり光で出来ているわけじゃないんだな」 そう言いながらぽふぽふと髪を弄り続けるロイにハボックは今度こそはっきりとため息をついた。 「そんなこと、あたりまえじゃないっスか」 ハボックはそう言うと立ち上がろうとする。だが、ぐいと頭を押さえつけられて床に両手を付くと、恨めしげにロイを見上げた。 「ちょ…も、いいでしょ。やめて下さいよ」 「うるさいヤツだな。別に減るもんじゃなし」 ぽんぽんと叩いていた手がいつの間にか髪を掬い愛しげに撫でるものに変わっている。ハボックは存外に気持ちのよいそれに慌てて首を振るとロイの手を振り払うようにして立ち上がった。 「あと30分したら車回しますからっ」 そうして逃げるように執務室を出て行くハボックの背をロイは楽しそうに見送るのだった。 2007/2/5 |