ゆう


「あ、お帰りなさい」
ロイが家の扉を開けると、丁度2階から下りてきたハボックが出迎えてくれた。今日は非番だったハボックを半日ぶり
に目にして、ロイの顔が嬉しそうに蕩ける。
「ただいま。」
ロイはそう言うとハボックを引き寄せその唇に口付けた。途端、ふわりと柑橘系のいい香りが鼻をくすぐる。
「…いい香りがする。」
ハボックの髪に鼻を寄せて、くん、と嗅ぐロイにハボックは笑って答えた。
「今日は柚子湯っスから。大佐も入ってきちゃって。」
「柚子湯?冬至か?」
そう答えたロイにハボックはつまらなそうに唇を尖らせる。
「なんだ、知ってたんスか。せっかくウンチクを語ろうと思ってたのに。」
「どうせファルマンの受け売りだろう?」
不貞腐れるハボックに可笑しそうに答えてロイは、ハボックにコートを預けると早速浴室へと向かった。服を脱いで
いるとハボックが着替えを持って来てくれる。
「軍服、寄越してください。」
吊るしときますから、と手を差し出すハボックに軍服を渡しながら、その手をぐいと引き寄せてロイはハボックの唇に
己のそれを重ねた。
「もうっ!さっさと入って下さいよ。」
ハボックは慌ててロイの手を振り払うと真っ赤になって手の甲で唇を拭う。そんなハボックにくすくすと笑いながらロイは
湯気のこもった中へと入っていった。途端に柚子のいい香りが鼻をくすぐる。疲れが融けて流れていくようで、ロイは
ホッと息をつくとシャワーを手に取った。

柚子湯に浸かってさっぱりとしたロイがダイニングに入っていくと、ハボックが早速ロイの前になにやら黄色い薄べったい
物が載った皿と酒のグラスを差し出した。
「それでも食べてて下さい。」
そう言ってハボックはキッチンへと戻ってしまう。ロイは皿の上のものを一口かじると言った。
「かぼちゃのキッシュか。」
「冬至なんで。」
ロイの言葉にキッチンから答えが返る。ロイがキッシュをつまみに酒を飲みながら本を読んでいる内に、テーブルの上に
湯気を上げた料理が並び、ハボックはロイに声をかけた。呼ばれて酒を飲み干すと、ロイは席につく。
「で、今日はかぼちゃ尽くしか?」
「に、しようかと思ったけど、文句言われそうなんでやめました。」
「なんだ。」
「でも、デザートはかぼちゃのパイですよ。」
ハボックはそう答えると「どうぞ」と料理をロイに勧めた。そうして暫く黙ったまま美味しい料理に舌鼓を打っていたが、
ロイは顔を上げるとハボックに聞いた。
「で、どういうウンチクを語るつもりだったんだ?」
「えー?そうですね、冬至の日に柚子湯に入ってかぼちゃを食べると風邪をひかないとか、無病息災を願う行事だ
 とか、昔は新年の始まりだったとか…」
でも、どうせ知ってるんでしょ?と、拗ねたように言うハボックにロイは苦笑した。
「悪かったな。」
「別にいいっスけど。」
そう言いつつ、ハボックはまだ僅かに眉間に皺を寄せている。ロイはそんなハボックを愛しそうに見つめていた。

食事を済ませてリビングで本を広げるロイの前にハボックがコーヒーとパイの載った皿を置く。
「はい、デザート。」
綺麗に盛り付けられた皿を見て、ロイが感心したように言う。
「相変わらず器用と言うかマメというか…」
「今日は非番でしたからね。」
そう答えるハボックにロイは皿から目をあげて聞いた。
「私がいない間、何をしていたんだ?」
「何って…いろいろ。」
「いろいろ?」
じいっと見つめてくる黒い瞳に、ハボックは居心地悪そうに視線を彷徨わせる。そんなハボックにロイは眉を顰めると
言った。
「私に言えない様なことか?」
「まさか。」
ハボックは即、打ち消すと言葉を続ける。
「掃除したり、溜まってた洗濯したり。後はちょっと買い物に行って、そう、パイ焼きましたよ。」
そう言ってハボックは自分の前の皿を手に取った。にっこり笑うと「食べましょ」と言ってフォークを手に取る。それでも
眉を顰めたままのロイにハボックは首を傾げた。
「たいさ?」
「このかぼちゃ、あそこの店のヤツか?」
「え?ああ、そうっスけど。」
「あの店には行くなと言ったろう。」
ロイの言葉にハボックはそういえばそんなことを言われたなと思う。たしか、店員が馴れ馴れしいとか何とか。
「考えすぎっスよ。」
「お前が無頓着なんだ。」
不愉快そうにそう言うロイにハボックは苦笑して、パイを薦めた。
「そんなことはいいから、食べて下さいよ。ほら、厄除け、無病息災っスよ。」
だがロイは皿を置くと立ち上がり、テーブルを回ってハボックの隣に来ると腰を下ろしてハボックの手から皿を取り
上げてしまう。
「たいさぁ」
不満そうに皿を取り返そうとするハボックの体をぐいと引き寄せて、ロイは言った。
「こっちを食べた方がご利益がありそうだ。」
「は?何言ってるんスか、アンタ。」
思い切り嫌そうな顔をして身を捩るハボックをソファーに押さえつけて。
楽しそうに笑うロイの鼻腔を柚子の香りがくすぐった。
「一年で一番長い夜だしな。」
「ちょっ…たいさっ」
真っ赤になって逃れようとするハボックにロイはゆっくりと圧し掛かっていった。


2006/12/21


冬ですね企画ssテーマ「冬至」です。夕飯に煮物を作ろうとかぼちゃを取り出して、「そういえば今年の冬至はいつだっけ?」とハタと冬至のことを
思い出して慌てて書いた二十四節気ネタ。こんな大事なネタをスルーしそうになるなんて、何のための季節ネタなんだか(汗)
そうそう、タイトルの「ゆう」は「柚」と書いて「ゆう」と読みます。でも漢字で書くと「ユズ」って読んじゃうので敢えてひらがなで。