約束の木の下で
「知ってるか、ハボック。ここのツリーはな、イブの夜にしか灯が灯らないんだ。」
ちょうど車で通りかかった先に見えたもみの木を指差して大佐が言った。
「今年は一緒に見られるといいな。」
そう言って優しく笑う大佐をルームミラー越しに眺めて。
だから、イブの夜はきっと一緒にここに来るもんだと、勝手に思い込んでいたオレがいけないのだけれど。
「え?出張っスか?」
「ああ、明後日から2泊3日でな。帰るのは25日の夜遅くになると思う。」
「オレも一緒に…。」
「すまん、ハボック。今回は中尉と一緒だ。」
いつもなら「すまん」なんて絶対言わない大佐が、オレの言葉を遮ってそう言った。なんだかそれだけで酷く拒絶された
気がするのは被害妄想っていうものだろう。そんなことを考えながらふと大佐の方を見れば、大佐が何か言いたげな
顔をしてオレを見ていた。
「悪いな、せっかくのクリスマスなのに。」
ああ、そういえば、この人、こういうイベントはやたら気にする人だっけ。だからモテるとも言えるけど。
「別に、仕事なんだから仕方ないっスよ。それにケーキやらクリスマスディナーやらの用意しなくても済むなら、ラクチン
だし。」
ことさら何でもないように言ってやれば、大佐はちょっとホッとしたようにため息をついた。
「そんなことより急いで出張の用意しないと。書類、何が必要なんスか?」
事務的に話を進めるオレを、大佐は一瞬じっと見つめて、それから同じように事務的に話を始めたのだった。
資料室に出張に必要な書類を取りにきたオレは、書架の中から目当ての書類を取り出してため息をついた。今年は
甘い物好きの大佐の為に、普通のクリスマスケーキの他にドライフルーツのケーキを作ってあげようと、随分前から
フルーツを仕込んでいたのだが、結局ムダになってしまう。それ以外にも、好き嫌いの多い大佐が楽しめるような
メニューをあれこれ考えていたのだけれど。
「仕方ないじゃん、仕事なんだし。」
クリスマスを祝えないにしても、せめて側にいられたらと思ったが、今回の同行者は中尉だ。
「やっぱ、クリスマスは女の人と一緒がいいよね。」
ふと、そんな言葉が口を付いて出て、自分の女々しさに嫌気がさす。オレは急いで必要な資料を取り出すと、足早に
資料室を後にした。
「大佐、これ、言われた資料です。」
「ああ、ありがとう。」
大佐はちらりとオレが置いた資料に目を向けたが、すぐに手元の書類に目を戻す。急に決まった出張を前に、溜まった
仕事を少しでも片付けようと、大佐はすごい勢いで働いていた。
「普段からその調子で働いていれば中尉に文句言われないのに…」
思わず呆れた声でそう言えば、大佐がぎろりと睨んでくる。だが、オレに言い返す時間も惜しいらしく、それ以上は
何も言わずに書類を捲っていた。
「他に用事がなければ、オレ、帰って出張の準備しときますけど。」
「ああ、そうしてくれ。」
視線も上げずにそう言った大佐を少し寂しく思って、オレは家へと帰るのだった。
カバンの中に出張に必要なものを詰め込むと、オレはキッチンへと入っていった。冷凍庫の中から冷凍のピザを出すと
レンジに放り込む。コーヒーを入れるのも面倒で、オレは牛乳を出すとグラスに注いだ。
「帰ってくるの、遅いんだろうな…。」
出来上がったピザをもそもそと食べながらそう呟く。明日、オレは夜勤だから、できれば今夜少しでも話が出来たら
いい。そんなことを考えながら食事を済ませてシャワーを浴びる。本を持ってソファーに座ると、オレは大佐が帰って
くるのを待ち続けた。
ぱたんと本を閉じて窓の外へ目をやれば空がうっすらと白んできていた。結局大佐は徹夜らしい。一緒に住んでても
こういうすれ違いは今までにも何度もあったし、別にどうってことない話じゃないか。今日が最後、二度と会えない
わけじゃあるまいし。オレは立ち上がるとリビングに飾られたツリーのベルにそっと触れて、午後からの勤務に備えて
仮眠をとるべく寝室へと上がった。
司令室に入ると大佐の姿は見えなかった。それとなくフュリーに聞くと、仮眠室で休んでいるのだという。
「結局大佐、徹夜だったんだろ?」
「みんな、この時とばかりに書類、持って来ましたからね。中尉に出張前に仕事済ませないとダメだって、散々言われて
て、珍しく真面目に仕事してたでしょ?今持って行かずしていつ、大佐にサインもらえるか、ってカンジでしたよ。」
「普段からやってりゃ問題ないのにな。」
昨日オレが言ったようなことをブレダが呆れたように口にした。やれば誰よりも早く仕事をこなせるくせに、なかなか
やってくれない上司にみんな手を焼いてるんだ。オレは誰もいない執務室の扉を見やって、小さくため息を零すと
傍らのフュリーに言った。
「んじゃ、オレ、訓練にいってくるわ。大佐がなんか言ってきたらそう言っといてくれ。」
「わかりました。」
オレはフュリーに手を振ると、司令室の扉をくぐった。
夕方オレが訓練やら打ち合わせやらを済ませて司令室に戻ると、大佐の姿はもうなかった。明日の出張に備えて
今日はもう帰ったらしい。寝室のわかりやすいところに出張用のカバンを置いておいたから多分困ることはないだろう
なと、そんなことを考えながらオレは席についた。フュリーやファルマンも仕事を済ませて次々と帰っていく。オレは
それを煙草をふかしながら見送ると、机の上に書きかけの書類を広げた。書こうとしてペンを取ると、書類の上に
影が差したのでみあげれば、ブレダが何か言いたげな顔をして立っている。
「なんだよ。」
そう言えばブレダが言いにくそうに言った。
「明後日、一緒にパーティするか?」
オレはブレダの言葉に一瞬目を瞠ると、次の瞬間、笑ってブレダの腹をどついた。
「何、言ってんだよ。彼女、いるんだろ?そんな馬に蹴られるような真似、できるかよ。それに。」
小隊の連中と飲みに行く事にしてるから、オレがそう言うと、ブレダはあからさまにホッとしたような顔をした。
「そっか、ならいいんだけどよ。」
「人の心配するより、せっかくのイブ、振られないようにガンバレよ。」
「大きなお世話だ。」
そう言って帰っていく背中を見送って、オレはため息をついた。見かけによらず、意外と気遣いな人のブレダを、オレは
うまく誤魔化せただろうか。確かに小隊の連中にイブのクリスマスパーティに誘われたのは事実だ。でも、とても
そんなところにいく気にもなれず、オレは用事があるからと断ったのだった。
「へへ…たまには一人静かにクリスマスっていうのもオツだろ?」
オレはぽつりとそう呟くと、書きかけの書類を見つめながらペンを握り締めた。
クリスマスなんてものは相手がいようがいまいが、妙に誰もが浮かれるイベントなんだということが、一人蚊帳の外に
いるオレにもよく判った。今夜ばかりは誰もが仕事にならず、また、上司ですら笑って、早々の帰宅を咎めたりしない。
結局オレも、一昨日ブレダに言った嘘もあって、司令室に残っているわけに行かず、誰もいない家への帰宅を余儀なく
されていた。玄関の扉を開けてひんやりとした空気の支配する家の中へ入る。軍服を着替えて、キッチンへ入ると
冷蔵庫の中を覗いて苦笑した。
「なんも食べるもん、ないなぁ。」
クリスマスだって言うのにわびしいものだ。オレは何か腹に入れようと、コートを掴んでクリスマスの街へと出かけて
いった。
明るく賑わう街の中心部まで来て、ようやくオレは出てきたことが間違いだったと気がついた。イブの街はカップルも
友人同士も酷く楽しそうにうかれた気分で通り過ぎていく。楽しい気分を共有する相手のいないオレは、そんな街の
中で一人異端な存在でしかない。こんなことなら家で酒でも飲んで早々に寝てしまった方がずっとマシに違いない、
そう思って家に戻ろうとした時、ふと大佐の声が蘇った。
『ここのツリーはな、イブの夜にしか灯が灯らないんだ。』
この間、車で通りかかったのは確かこの辺りだ。オレは行きかう人々の間をぬけて、大佐が指差した木を探して、走り
出した。
昼間、車から見た景色と、夜、歩きながら通り過ぎる景色とは全然違って見える。やっぱりよく知りもしない場所を
夜、探し当てるのは無理があったかと諦めかけた時、オレの目の前にそのもみの木は立っていた。柔らかい黄色の
光を枝のあちこちに煌めかせて、静かに立っているそれをオレは呆然と見上げる。そうして暫く見上げている内、オレ
は今ここにいない人の不在をより一層強く感じて、緩く首を振るとその場所を離れて歩き出した。必死に探してここへ
たどり着いた時は気がつかなかったが、あたりには何人ものカップルが寄り添うように立っている。こんなところ、一人
で来る所じゃないよな、と思わず自嘲めいた笑みが零れた時、いきなり後ろから腕を引かれてギョッとして振り向いた、
その視線の先に。
「ハボック…っ」
ぜいぜいと息を弾ませながらオレの腕を掴んでいたのは、出張に行っていたはずの大佐だった。
「え…たいさ…?」
呟くようにそう言ったオレをじろりと睨むと、大佐はオレの両肩を掴んで引き寄せる。
「なんで、お前、一人でこんな所に来てるんだ?」
「なんでって…。」
「一緒に見ようと言ったろう?」
「一緒って、大体なんでアンタ、こんなところにいるんです?出張は?」
「私がしなくてはいけない分は済ませて帰ってきた。」
そんなことを言う大佐に思わず目を丸くする。
「たいさ…。」
「まったく、大人しく家で待っていないから散々探し回ったんだぞ。」
そう言って大佐はオレの髪をかき上げて、優しく笑った。
「一緒に見に来ようと約束したろう?」
あの時大佐は「来られたらいい」と言っただけだ。でも、オレは勝手に来るもんだと思い込んでいた。大佐が出張に行く
ことになって悲しかったけど、でもそれを大佐には言わなかったのに。
「約束したろう、ハボック。」
言うべき言葉が見つからずに俯いてしまったオレの顎を持ち上げると、大佐はオレを見つめてきた。その優しい黒い
瞳に思わず溢れた涙を見られたくなくて、オレは大佐の体に手を回すとその胸元に顔を埋める。優しく背を撫でる手に
ようやく心の中が満たされていくのを感じていた。
一緒に家に帰ってきて、オレはすっかり忘れていたことを思い出した。
「そういえば、食べるものないっスよ。クリスマスディナーの支度、してないし。」
もう一回外に行きましょうか、と玄関に向かおうとしたオレの腕を掴むと、大佐は何も言わずにずんずんと2階へと
上がっていく。
「え?ちょっと、たいさ?」
そのまま引き摺られるように寝室まで連れてこられるとベッドの上に突き飛ばされた。ベッドの上で跳ねる体の上に
すぐさま覆いかぶさってくると、にんまりと笑いながら大佐が言った。
「食べるものならここにあるだろう?」
「は?」
「まったく、あそこで押し倒さないようにするのに苦労したぞ。」
泣いて縋ってくるんだからな、と言う大佐にオレは耳まで真っ赤になってしまった。そんなオレのシャツの中に手を
滑り込ませながら大佐は嬉しそうに体を寄せてくる。
「可愛いヤツ…」
そんなことを言われて、大佐のことを押し返そうとしたその瞬間、シャツの中に忍び入った手にきゅっと乳首を摘まれて
思わずびくんと体が跳ね上がった。
「あっ」
それと同時に零れた甘ったるい声に、慌てて唇を噛み締める。大佐はオレの唇を舌で舐めると、耳元に囁いた。
「声を我慢するなといつも言っているだろう?」
そう言って、オレの感じるところに唇を落としていく。我慢するなと言われても、こんなみっともない声、聞かれたくない。
目をぎゅっと閉じて、唇を噛み締めて必死に声を堪えるオレに、大佐は面白くなさそうに舌打ちすると、いきなり下着
ごとズボンを引き摺り下ろしてしまった。
「やっ」
慌てて身を捩るオレをベッドに押さえつけると大佐はオレの両脚を大きく開いてしまう。恥ずかしい部分を大佐の目の
前に晒されて、羞恥のあまり涙が滲んだ。きゅっと自身を掴まれて思わず唇から悲鳴が零れる。自身を追い上げる手に
快感と羞恥でぼろぼろと涙が零れた。先端をくりっと押しつぶす様に刺激されて、あっと思ったときには大佐の手の中に
熱を放っていた。あまりにあっけなくイかされて、恥ずかしくて目も開けられない。そんなオレの気持ちに気づいている
くせに、大佐はオレの顔を覗き込んで意地悪く囁いた。
「そんなに悦かったか…?」
悔しくて大佐の肩口に思い切り噛み付いてやったのに、大佐ときたら嬉しそうに笑っている。なんだか馬鹿にされて
いる気がして大佐の体をぐいと押し返せば、大佐に乱暴に体を反された。
「あっ」
ベッドに俯せに押さえ込まれて慌てて逃げようとした腰をぐいと引き戻されて、次の瞬間には濡れた感触が奥まった
ソコにぬるりと入り込んできたのを感じる。
「ひ…っ」
びくんと震える体を身動きできないように押さえ込まれて、大佐の舌がぴちゃぴちゃと蕾を這い回る。
「う…く、ぅん…」
じんわりと広がる快感にシーツを握り締めて顔を埋めた。やがて、濡れた感触が離れたと思うと熱く滾る塊りが押し当て
られる。次にくる衝撃を予想して強張る体に、ぐいと大佐が体を進めてきた。押し広げられる感触に息を詰めるオレを
宥める様に、大佐の熱い掌がオレの体を撫でる。僅かに力が抜けた体を一気に貫かれて、オレの唇から悲鳴が
零れた。
「あああああっっ」
みっちりと狭い器官を埋め尽くす熱い塊りが、濡れた襞をこすって出入りする。そこから湧き上がる強烈な快感に、オレ
はあられもない声を上げ続けた。
「ああっ…あんっ…はんんっっ」
「ハボック…」
耳元で囁く大佐の声に、ぞくりと背筋を快感が走りぬけ、気づかぬうちに熱を放っていた。達してぴくぴくと震えるオレの
中心を大佐の手が容赦なく追い上げていく。後ろを大佐の熱で貫かれ、中心を扱かれて、快感のあまり自分の体すら
支えていられない。ベッドに沈み込みそうになる体を大佐の熱で支えられて、オレは何度もイかされていた。過ぎる
快感に頭も体もついていかない。気がつくとオレは泣きじゃくりながら大佐に赦しを乞うていた。
「あっ…も、やだぁ…っ…もう、イきたくない…っ」
そう呟いたとたん、体を引き起こされて、ベッドに座った大佐の上に跨っていた。自重でより一層深くを犯されて、脳天
を突き抜ける快感に、オレは絶叫をあげながら熱を吐き出してしまう。
「ひあああああっっ」
大佐にぎゅっと抱きしめられて薄れていく意識の中で、体の最奥が熱く焼かれるのを感じていた。
気がついたときには大佐が体を綺麗にしてくれていて、気を失っている間に全てを済まされていた事が気恥ずかしくて
オレは大佐の顔が見られなかった。髪をなでてくる大佐の手は優しくて、その胸に顔を埋めたままでじっとしていると
大佐の指がオレの顎を掴んで視線を合せてくる。
「ハボック…」
囁くように名前を呼ばれて、恥ずかしくてわざと関係ないことを口にした。
「大佐一人で帰ってきて、中尉は怒ってないんスか?」
「だから行く前にちゃんと仕事を片付けていっただろう?」
大佐の言葉に思わず目を丸くした。だから、徹夜で仕事を片付けてたりしてたのか。それなのに、一人で勝手にいじけ
てたオレはなんて馬鹿だったんだろう。
「たいさ…」
泣きそうになってしがみ付くオレを、大佐はそっと抱き返してくれる。下りてくる唇に再びベッドへと体を沈みこまされて
いった。
2006/11/16
冬企画第一弾はクリスマスネタです。イブに一緒に過ごせないかもってことでどちらのカプも書いてみました。まあ最終的には甘々バカップルを目指した
つもりです。楽しんでいただけるとよいのですが。