wish on the first snowfall
その日大佐は朝から不機嫌だった。
まずは今年一番の寒気団の到来だ。この冬1番の冷え込みに寒さが超苦手な大佐は、なかなかベッドから出られ
なかった。普段なら多少の遅刻には目を瞑る所だが、この日は朝から会議が入っていたので情け容赦なくベッドから
たたき出した。
それならせめて朝ごはんくらい好きなものを食べてから出かけようと思えば、残業続きでここのところまともに買い物
に行けなかった所為で、家の冷蔵庫の卵入れは空っぽ。おかげでオレ特製のふわふわ卵のオムレツにありつけ
なかった。
それでも必死に司令部までやってきたのに、朝一番の会議は出席する予定だった年寄りの准将が病欠とかで延期。
いっそのこと死んでしまえと大佐が呟いたのも無理はない。
仕事もいつにもまして書類の山・山・山で。いい加減ばっくれてやろうかと思いはしても、眦を吊り上げた中尉にバッチリ
監視されていては、すぐそこの資料室の片隅で昼寝することすら儘ならない。仕事に追われて食堂へ行くのが遅れ
れば、曜日限定のお気に入りメニューは売り切れ。食べたくもないパサパサのサンドイッチで腹を塞ぎ、午後は午後で
またもや書類の山・山・山…。
だから大佐の機嫌が極悪だったのは確かで。
そうは言っても、正直オレの何が大佐の気に障ったのかは全く判らない。夕食が終わってデザートを食べていた大佐
が突然立ち上がったと思うと、食べていたデザートの皿をオレの胸元に投げつけた。そして。
「お前なんて大ッ嫌いだ!!」
そう叫んで夜の闇の中へ紛れていく。オレはと言えば
「たいさ?!」
叫ぶと同時に踏み出した足が胸元から零れたとけたアイスクリームの水溜りに足を取られて、物凄い音と共に床と
オトモダチになっていた。慌てて立ち上がって玄関から外へ出た時にはもう、大佐の姿はどこにもなく。
「何なんだよ、一体…」
オレはそう呟くと、大佐の姿を探して凍える寒さの中走りだした。
その日は朝からサイアクだった。今年一番の寒気団が到来したとかで、この冬一番という冷え込みにとてもベッドから
出る気にならない自分を、ハボックは情け容赦なくベッドからたたき出した。ならせめて、あのふわふわ卵のオムレツを
食わせろと言えば、残業続きで買出しが出来ず、卵が一個もないという。残業が続いていたのは確かなので、仕方
ないと諦めて、必死の思いで司令部にやってくれば、ボケ老人の准将が病欠とかで会議は延期。いっそのこと死んで
しまえば世の中の迷惑も減ると言うものだ。
執務室に入れば机の上はいつにもまして書類がうずたかく積み上げられて。眦を吊り上げた中尉の監視のもと、ただ
ひたすらに書類と格闘させられて。午前中の仕事が長引いて食堂に行くのが遅れれば曜日限定メニューは売り切れ。
これを食べることだけを考えて午前中、仕事してきたというのに何てことだ。しかも残っているのはパサパサのサンド
イッチ。同じサンドイッチでもハボックが作るのとは雲泥の差だ。こんな不味いものを食べるやつの気が知れない。
それでもなんとかそれで腹を塞ぎ、午後は中尉の監視の下、またもや書類の山…。
家に帰るころにはもう、ぐったりと疲れきって、喋るのも億劫だった。ハボックが作ってくれた食事を食べ、アイツの
お手製アップルパイにアイスクリームを乗せて食べていたのだが…。
「今日は一日お疲れ様でした。」
ハボックがそう言って、ソファーに座る自分の頭をそっと撫でてくれる。子供のようなその扱いに不満がないとは
言わないが、それでも触れてくる指が心地よくて。もっと触れて欲しくてハボックが欲しくて。そう思った瞬間。
「それ食べたら、今日は早く休んだ方がいいっスよ。」
人の気持ちも知らないでそんなことを言うから。思わず持っていた皿をハボックに投げつけて叫んでいた。
「お前なんて大ッ嫌いだ!!」
馬鹿ハボ!そんなんだから女にモテないんだ。こんなに一日頑張ったのに、せめてお前をくれたっていいじゃないか。
そんなことを考えながら家を飛び出して。自分を呼ぶハボックの声を背に闇雲に走り出していた。
「くそ、上着くらい持ってくるんだった…」
オレはそう呟くと大佐の姿を探して辺りを見回す。年末の街は、どこか落ち着きがなくざわざわとざわめいていた。
寒さにぶるりと体を震わせて、どこへ行ったか判らないあの人に想いを馳せる。目の前に自分の息が白く広がる
その中に、ふわりと白いものが舞った。
「あ」
思わず空を見上げれば昏い空から白い雪がひらひらと舞い落ちてくる。
「初雪…」
この冬一番の雪は羽根のようにふわふわと舞いながら落ちてきて。きっと寒がりのあの人の上にも舞い落ちている
であろうそれを、一刻も早く払ってやりたくて、オレは必死に大佐の姿を探した。
必死に走って気がついたら川辺に来ていた。はあはあと白い息を吐き出す自分の目の前にひらりと白いものが舞う。
なんだろうと空を見上げれば今年一番の雪が舞い降りてくる所だった。思わず手を出して受け止めれば掌の上で
あっという間に溶けてしまう。そういえば誰かが言っていた。その年一番最初の雪を受け止めた人には、冬の神様が
たった一つだけ望みを聞いてくれるのだと言う。これが一番最初の雪なのか、それはわからないけれど、冬の神様
がいるのなら、ハボックをここに連れてきて欲しい。勝手に癇癪を起こして、飛び出してきてしまったけれど、今すぐに
ハボックに会いたい。それならすぐ家に帰ればいいって言われそうだけど、でも、もうくたくたなんだ。それに、素直に
ハボックが欲しいなんて言えない自分が判りきっているから。
川辺に座り込むと抱え込んだ膝の上に頬を載せてため息をついた。
振り出した時はひらひらと舞うようだった雪が、だんだんと量を増して、今ではかなりの勢いで降ってきていた。街を
行きかう人々も、家路へと急いでいる。オレはいつまでも見つからない大佐の姿に焦ってきていた。
「まさか、何かあったんじゃないよな…」
そう呟くことで、余計に心配が増す。散々街を走り回って、オレは川辺へと足を向けた。水面にはらはらと降る雪は
水に触れるとあっという間に溶けてしまう。オレはあの人の姿も雪のように溶けて消えてしまったような気がして、
唇を噛み締めると必死に目を凝らして川岸に目を走らせる。ここにもいないのかと諦めかけた時、雪を纏った黒い塊り
が僅かに動いた気がして慌てて駆け寄った。
「たいさ?!」
呼びかける声にゆっくりとオレを振り仰ぐ顔が、寒さで青白くなっているのに気がついてオレは大佐をぎゅっと抱きしめて
いた。
「ハボック…」
凍えてよく回らない口でオレの名を呼ぶ大佐を抱きしめてオレは搾り出すように言った。
「なんでこんな所にいるんスかっ!どれだけ捜したと…っ」
オレは大佐の体に積もった雪を払ってその顔を覗き込む。
「こんなに冷えちまって…アンタって人はっ」
責めるオレの顔をじっと見つめていた大佐は手を伸ばしてオレの頭を抱きこむと、そっと唇を合せてきた。そのあまりに
冷たい唇にギョッとしたのもつかの間、対照的に熱い舌が口中に忍び込んできてオレのそれを絡め取る。誘われる
ままに舌を絡めあって、ようやく唇を離すと、大佐はオレの胸に頭を預けてきた。
「寒い…」
そう呟く大佐の声にハッと我に返って、慌てて大佐を立たせる。
「帰りましょう。」
そう言って、大佐の肩を抱けば少しでも温もりを得ようとするように大佐がオレに身を寄せてきた。オレは細い体を
抱き込むようにして、足早に家へと向かった。
家に戻ると真っ先に湯船にお湯を張る。冷え切った大佐をとりあえず暖炉の前に立たせ、キッチンへ行くと暖かい
ココアを淹れて大佐に差し出した。
「もうすぐお風呂沸きますから、これでも飲んでいてください。」
そう言えば、大佐はカップを受け取って口をつけた。微かに震える体に眉を寄せると浴室へ様子を見に行った。
「これくらいならなんとか浸かれるかな。」
オレはリビングへ取って返すと大佐に声をかける。
「そろそろいいですよ。」
そう言っても動き出そうとしない大佐に、苛々としてその手からカップを取り上げるとびくりと震えてオレを見上げてきた。
小刻みに震える冷え切った体にため息をついて大佐を引き寄せるとその体を抱き上げる。
「ハボ…っ」
「うるさいっス。」
オレはぴしゃりと言って大佐を黙らせると浴室へと入っていった。大佐の体を下ろし服を脱がせようとすると小さな声で
「自分でやる」と言うので、オレ自身の服をさっさと脱ぎ捨ててしまうと大佐は指がかじかんでうまく動かせないらしく
まだ服を脱げずにいた。
「こっち向いて。」
そう言っても自分でやろうとする大佐の手を払いのけてボタンを外してやる。抗う暇も与えずに全て脱がせると、大佐を
連れて中へと入った。湯船から湯を汲み取って冷えた体にかけてやる。何度かかけてやってから大佐の体を引き
寄せると、大佐ごと湯船のなかへ身を沈めた。
「はあ…。」
その暖かさに思わずため息が零れる。大佐もホッとしたように息をついていた。
「たいさ…」
呼んで、その体を自分の上に抱き上げる。大佐は決まり悪そうに眼を逸らしていたが、少しすると上目遣いにオレを
睨んできた。口をへの字に曲げて睨んでくるその様子が子供みたいで、突然冬の街に消えてしまったことを怒っていた
筈なのに、思わず笑ってしまう。
「全く、アンタは…。」
そう言って小さな白い顔を両手で包んだ。
「言いたいことがあるならはっきり言って下さい。あれじゃ何が何だかわかんないっスよ。」
そう言えば大佐が「だって」と責めるように呟く。それきり黙りこくってしまうその人を抱きしめてその肩口に顔を埋めた。
「まったく、どれだけ心配したと思ってるんです?」
「お前が悪いんだ…っ」
オレの言葉を遮るように大佐が吐き捨てるのを、聞き捨てならないと見つめればまた黙ってしまう。
「たいさ。」
そう呼んだ途端、ぽろりと目の前の黒い瞳から涙が零れて、オレは慌ててしまった。
「え、ちょっと…」
慌てるオレの首に大佐が腕を回して口付けて来る。そうされてやっとオレは大佐がどうしたいのかに気づいた。
「だって、アンタ、疲れてるでしょうに…」
「ばかっ」
目元を染めてオレを詰る大佐に、それ以上言うことの野暮に思い至ってオレは大佐を抱きしめた。
「手加減できませんよ?」
ここ暫く忙しくて大佐に触れることが出来なかった。そうしたいのはオレも一緒だ。でも、疲れている体には酷だと思った
から我慢してたのに。
「いいからっ」
縋りついてくる体を抱きしめて唇を重ねた。
早々に風呂から上がるとハボックが自分の体を抱き上げて寝室へと行こうとする。歩けるから下ろせと言っても譲ら
ないハボックに顔が赤くなるのを止められなかった。ベッドへと下ろされて見下ろしてくる空色の瞳を腕を伸ばして引き
寄せる。深く口付ければ疲れも寒さも溶けていくような気がした。
「たいさ…」
ハボックが囁いてバスローブの中へ手を滑り込ませてくる。大きな手が肌を滑る感触に思わずため息が零れた。
手の動きを追うようにハボックの唇が肌の上を滑る。時折強く吸い上げられて、びくびくと体が震えた。
「あ…ハボ…」
きゅっと乳首を摘み上げられてずんと中心に熱が籠る。ぐりぐりと舌と指の腹を使ってこね回されて、息が弾んだ。
「ん…ふ…」
腕を伸ばして強請るようにハボックの頭を引き寄せる。ハボックが微かに笑う気配がしてぷくりと立ち上がったそこを
甘く噛まれた。
「あんっ」
思わず零れた甘ったるい声に慌てて口を手で押さえる。その手をやんわりと外しながらハボックが囁いた。
「だめ…いつも言うでしょ、声きかせてって…」
そんなこと言われても、こんな恥ずかしい声、聞かれたくない。そう思った途端、わざと声を上げさせようとするみたいに
ハボックの指が乳首を弾いた。
「んあっ」
喉を仰け反らせて喘ぐ自分を楽しそうに見下ろしてハボックの手が中心へと滑る。大きな手で包み込まれて思わず
ため息が零れた。ゆっくりと上下に扱かれて、我慢できずに喘いでしまう。とろとろと零れる蜜が中心を擦り上げる
ハボックの手を濡らして、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てた。
「ハボっ」
恥ずかしくてハボックを呼べば、ハボックは自分の脚を押し広げると中心を熱い口中へと迎え入れてしまった。
「あっ…ヤダっ」
身を捩って逃れようとしたが離してくれない。じゅぶじゅぶと唇ですられ、袋をもまれて瞬く間に登りつめていく。必死に
耐えようとしたがあまりの快感に耐え切れずにハボックの口の中へ熱を放ってしまった。
「ああああっっ」
びくびくと震えて、断続的に熱を吐き出す。それを全て飲み干されて、恥ずかしさのあまり涙が零れた。ハボックは体
をずらすと唇で涙を拭ってくれる。キスして欲しくて舌を差し出せば、望むとおりハボックの唇が下りてきた。深く唇を
あわせ舌を絡めあう。互いの口中を思う存分味わってようやく唇を離すとハボックが奥まった蕾へと指を這わせてきた。
指先で入り口を弄られて、思わず腰をゆらしてしまった。ハボックはそんな自分に僅かに笑うと、ベッドサイドのテーブル
からクリームを取り出し、ひくつくソコへ塗りこめた。慣らすように差し入れられる指に、中心からとろとろと蜜が零れる。
ぐちゅぐちゅとかき回されて、熱い吐息が零れた。気がつけばもう、ハボックの長い指が3本も埋め込まれている。もう、
これ以上中をかき回されるのが我慢できず、腰を持ちあげると蜜を零す自身をハボックの腹に擦りつけた。
「なに?」
判ってるくせに意地悪く聞くハボックを睨みつけるが、言うまでは入れてくれそうにない。戦慄く唇を舌で舐めると
震える声でハボックに言った。
「も、挿れて…っ」
その言葉にハボックは一瞬目を見開くと次の瞬間嬉しそうに笑った。
「お望みの通りに。」
そう言って沈めていた指を引き抜くと、そそり立ったハボック自身が蕾に押し当てられる。ぐいと押し入ってくる感触に
思わず息を詰めた。
「あ、あ、あ」
熱い塊りがずぶずぶと入り込んでくる。狭い器官がぐぅと押し広げられてハボックがいっぱいいっぱいに埋められた。
「たいさ…」
ハボックが熱の籠った視線で見下ろしてくる。その背に腕を回して促すように腰を揺らせばハボックがグイと突き上げて
きた。
「ああっ」
熱い中を擦られる感触に思わず声が零れる。じゅくじゅくと濡れた音が響き渡り、恥ずかしいけれど、でもそれを上回る
快感に自ら腰を持ち上げた。
「んっ…あんっ…あっあっ…イイっ」
ハボックに縋りついて汗で湿った胸をハボックのそれと合せる。自分とは違った厚い筋肉に覆われた体に、ぞくぞくと
快感が走り抜けた。
「ああっ…もっと…っ」
はしたなく強請る言葉が唇をついて出る。その言葉に中に埋め込まれたハボック自身が嵩を増し、押し広げられる
感触に耐え切れずに熱を放っていた。
「あああああっっ」
達して感じるソコを情け容赦なく抉られて悲鳴が零れる。あんまり悦くてぼろぼろと涙が零れるのを止められなかった。
「たいさ…スキ…」
耳元で囁かれてぞくぞくと背筋を快感が走り抜ける。答える代わりにハボックの腰に脚を絡ませた。
もっともっと奥を犯して欲しくてハボックに縋りつく。心の隅ではしたないと詰る自分がいる一方、それを止められない
自分もいた。
「ハボ…ほしいっ」
もっともっとと貧欲に求める自分を抑える術がない。奥を熱く焼かれて悲鳴を上げながら熱を迸らせていた。
気を失うように意識を飛ばした細い体を抱きしめてため息をついた。思ったとおり手加減できずに、思うままに抱いて
しまった。きっと明日は今日にも増して起きられないだろう。オレは眠る大佐の髪をかきあげてその額にキスを落とす。
ふと窓へ目をやればカーテン越しに雪が舞う気配が感じられた。
明日は真っ白い世界に変わっているであろう事を思い描いて。
寒がりのこの人をどうやって今年初めての白い世界に連れ出そうかと考えながら、眠りに落ちていった。
2006/12/15
冬企画でテーマ「初雪」です。「今年初めての雪を最初に受け止めた人は、云々」って言うの、昔何かで読んだのですが、もうすっかり記憶の彼方で
かなりいい加減です。しかしー。なんかまとまりの悪い話だなぁ。もう少しすっきり書きたかったですぅ。