海に降る雨 Roy×Havoc
「大佐、オレちょっと出てきますね。」
そう言って店を出て行こうとするハボックにロイは本を読んでいた視線を上げた。
「雨、降ってるんじゃないのか?」
「降ってますケド。」
でも、じっとしてんのヤダし、とハボックは言うとロイを振り返って言葉を続けた。
「大佐も来ます?」
「なんでわざわざ雨の中。」
嫌そうに眉を顰めるロイに苦笑して、じゃ、行って来ますとハボックは店を出て行った。
久しぶりに非番が重なった日、突然海が見たいと言い出したハボックに連れられてここまでやって来た。予報はよく
なかったし、案の定海に着く頃には低く垂れ込めた空からは雨が落ちてきていた。ロイは海辺の喫茶店に腰をすえると
持ってきた本を読んでいたのだが、ハボックは落ちつかなげに店を出たり入ったりしたあげく、外に出て行ってしまった
のだった。
雨の降り注ぐ音を意識の外で微かに聞きながら、ロイは時間を忘れて本を読んでいた。ずっと忙しくて読む暇のなかった
本を読み終えて、ロイは軽く頭を振る。漸く回りの音が現実となって耳に届くようになって、ロイは先ほどより随分雨足が
強くなっているのに気がついた。店の中に目をやるがハボックの姿はない。
「アイツ、まだ戻ってないのか。」
天気が悪い所為もあり辺りは既に薄暗く、ロイは流石に心配になって席を立った。
差す傘にばらばらと雨があたる音がする。ロイは濡れて色の変わった砂を踏んでハボックの姿を探した。打ち寄せる波
は灰色に沈んで、その手に触れるものを海の奥深くに引きずり込んでしまいそうだ。姿の見えないハボックにロイはだん
だんと不安になって、砂浜を歩く足も自然と速まっていく。砂浜の中ほどに唐突に現れた岩棚の陰に見慣れた金髪を
見つけて、ロイはホッと息をつくと走り寄った。
「ハボック!」
ロイの声に振り向いたハボックがへらりと笑うのを見てロイはムッと眉を顰めた。
「何をやっているんだ、お前は。」
「いや、雨が強くなってきちゃって帰るに帰れなくて。」
「傘を持ってこなかったのか?」
「出てくる時はあんまり降ってなかったんスよ。」
のんびり言うハボックにロイは思わず声を荒げた。
「私が来なかったらずっとここにいるつもりだったのか?!」
「来てくれると思ったし。」
事も無げに言うハボックにロイは言葉もなく目を見開いた。
「大佐、絶対捜しに来てくれるでしょ?」
そう言って笑うハボックにため息をついて。
「…全く、手間のかかる犬だ。」
ロイは僅かに濡れるハボックの髪に手を伸ばした。
優しく見下ろしてくる青い瞳を見返して、ロイはハボックをそっと引き寄せてその唇に口付けた。
2006/7/23
こちらも旅先でチマチマ書いたやつです。ハボロイ版と読み比べてどっちがいいかとかご意見いただけると面白いなぁと思うんですけど。短すぎて良いも
悪いもないか(苦笑)。