竹取


「何見てるんスか?」
窓枠に腰掛けて外を見ている大佐に声をかけた。すると彼は振り返りもせずに空を指差す。
「月。」
その指差す先をみれば黒い闇の中にぽっかりと白い月が浮んでいる。煌々と輝くそれはまんまると大きくて、どんどん
大きくなり続けるのではないかという錯覚を起こさせた。
「満月っスね。」
そう呟けば大佐が答えた。
「満月になると月からの使者が下りてくるって話、あったな。」
問いかける視線を向ければ首を傾げて言葉を続けた。
「おじいさんとおばあさんに育てられた綺麗なお姫様を迎えに、月から使者が来るんだ。」
「ああ、竹取物語。」
そう言うと大佐が空を見上げて言った。
「きっとその時の月はこんな感じだったろうな。」
その視線につられて月を見上げるとさっきよりさらに月が大きくなった気がする。
「そのお姫様にはたくさんの求婚者が来るんだ。」
「輝くばかりに美しいお姫様だっていうんでしょ?」
「そう。でも彼女は求婚者達に無理難題を押し付けて結局全部断ってしまう。」
そう話しながら月を見上げる大佐はそのお姫様みたいに綺麗だった。
「結婚したくなかったんスかね?」
「さあな。」
「オレがアンタに求婚したらどうします?」
「するのか?」
「聞いてんのはオレなんスけど。」
だが、大佐は答えずにただ笑っただけだった。
「帝とはな、文を交わすんだ。」
「文?」
「帝の求婚は断るけどその後、文を交わすようになるんだ。」
「へぇ、なんで?」
会話の流れで何となく聞いただけだったのに、大佐は月を見上げながら答えた。
「好きだったのかもな、その男のことが。」
それから視線をオレにむけて言葉を続ける。
「でも、いずれ月に帰る自分には許されない感情だから…。結局は帝が帰すまいと大軍を送ってもダメだったのだし。」
そう話す大佐の後ろで月がどんどん大きくなる。そうしてその銀色の光の中に大佐を取り込んでしまいそうな、そんな
恐怖に襲われて。
オレは手を伸ばすと大佐の体を抱きしめていた。
「ハボック?」
突然強く抱きしめられて、大佐が不思議そうな声でオレを呼んだ。
「オレだったら行かせたりしない。」
折れんばかりに抱きしめた大佐の耳元でオレは呟く。
「たとえどんな力が働こうとも、相手がどれだけの軍勢を送ってこようとも。」
どんなことがあっても。
「絶対アンタを離さない。」
そう囁いて大佐の髪に頬をすり寄せた。
暫くの間、大佐は何も言わなかった。それからゆっくりと腕を上げるとオレの背を抱きしめる。そして。
「そうだな…。」
そう呟くと安心したようにオレの胸に顔を埋めた。



2006/9/19


秋企画ssテーマ「名月」でございます。ホントはお月見ネタにしたかったのですが、なんか書いてみたら方向性が全然違っちゃったのでとりあえずこっちの
テーマで。ハボロイもロイハボも月夜に不安になるハボの話になってしまいました。月って一種独特の雰囲気があると思うんですよね。綺麗だけど不安を
誘うというか…。満月もいいけど個人的には三日月が可愛くて(?)好きです。