sweet watermelon
「大佐、これ。」
そう言ってハボックがテーブルにどかっと置いたのは大きな丸い西瓜だった。
「…どうしたんだ、買ったのか?」
「いや、アパートで隣の部屋だった人が田舎からごろごろ送ってきたとかで、食べきれないから手伝ってくれって
貰っちゃったんですよ。」
「田舎からごろごろって…どんな田舎だ?」
「さあ、顔、引きつってましたけどねぇ。」
大きな西瓜をぽんぽんと叩きながらハボックは言った。
「…低い音がする方が甘いんでしたっけ?」
「さあな、これ1つで叩いても意味ないんじゃないか?」
比べて叩くから意味があるんだろう、というロイにハボックは然もありなんと頷いた。
「そういえばガキの頃、よく西瓜割りやりましたよ。オレ、結構上手かったんですよね。」
「野生の勘か?」
ニヤニヤ笑って言うロイをハボックはじろりと睨んだが、西瓜を抱え上げると言った。
「今からやりません?」
「今からって、西瓜割りをか?」
「そうそう。」
そういってさっさと出て行ってしまうハボックをロイは仕方なしに立ち上がると追いかけた。
庭の一角に西瓜を置くと、ハボックは庭をうろうろして適当な枝を拾ってくる。そうして「はい」とロイに差し出した。
「私からやるのか?」
「オレがやったら西瓜が割れて終わっちゃうでしょ。」
ハボックの言葉の中に「アンタがやっても割れない」という意味を感じ取ってロイはむっとした。
「はい、じゃ、目隠ししますね〜。」
ハボックはどこからか薄手のタオルを取り出すとロイの目を覆った。
「んじゃ3回まわしますよ。」
そう言ってハボックは「いっか〜い、にか〜い」とロイを回した。
「さんか〜い、はい、がんばって。」
ハボックの手が離れてロイは微かにふらついたが枝を構えると足を踏み出した。
「もうちょっと右。」
ハボックに言われるままに足を進める。
「一歩左。半歩下がって…そこだっ」
勢いよく振り下ろした枝はかつんと地面を叩いた。
「あ…」
ロイはタオルをずり上げると無傷の西瓜を見下ろす。むうっと口を尖らすとハボックにタオルを差し出した。
「もう一回やる。」
ムキになるロイにハボックはくすくすと笑いながらもう一度タオルでロイの目を覆う。そして、同じようにロイを回すと
手を離した。
「もう少し左。そのまままっすぐ。もうちょい右。」
ハボックに言われるとおりに進むが、なかなか西瓜にたどり着かない。タオルの下でロイが眉を顰めるのと同時に
いきなりハボックの手がロイの体を引き寄せた。
「えっ?」
そのまま抱きしめられて唇を塞がれる。
「んっ…ん―――っっ」
深く口付けられて舌を絡め取られて苦しい息にロイは喘いだ。気がつくとタオルが取り去られ、ハボックの青い瞳が
ロイを見下ろしていた。
「たいさ…」
再び口付けてこようとするハボックをロイは持っていた枝で思い切り殴った。
「〜〜っってぇぇぇっっっ」
頭を抱えて蹲るハボックを尻目に枝を放り投げるとロイは家の中へ戻ってしまう。暫く頭を擦っていたハボックも西瓜
を拾い上げるとよろよろと家へと戻った。
キッチンのカウンターに西瓜を置くとハボックはリビングを覗いた。ロイはこちらに背を向けてソファーの上に寝そべって
いる。その背中から怒りのオーラが発しているのを感じて、ハボックは苦笑した。キッチンに戻ると冷凍庫から凍らせた
ハーブティーと氷を取り出しミキサーに放り込むとオレンジの絞り汁を少々加え、ミキサーにかける。出来上がったものを
グラスに注ぐとミントの葉を飾りリビングへと持っていった。
「たーいさ」
ぴくりと動いたものの頑なに背を向けたままのロイの首筋にハボックはちゅっと口付けた。
「何をするっ」
途端に首筋を押さえて振り返ったロイの目の前にハボックはグラスを差し出した。
「はい。」
ロイは一瞬目を瞠ったがむうと口をへの字に結ぶ。
「スキでしょ?シトラススムージー。」
ロイはゆっくりと手を伸ばしてグラスを受け取ると言った。
「こんなもので懐柔されないからな。」
「はいはい。」
グラスに口を付けるロイにそっと手を伸ばして髪に触れる。上目遣いに見上げてくるだけで振り払おうとしないのを
確かめて、ハボックはロイの隣に腰を下ろした。髪に触れた手をそっと滑らせてロイの肩を抱き寄せる。
(なんか、人に慣れない猫を餌付けしてるみたいだ)
ハボックはそう思ってくすりと笑った。途端にロイに睨まれて慌てて顔を引き締める。
「後で西瓜食べましょうね。」
「…うん。」
「皮は漬物にして。」
「…熱いご飯とな。」
「はいはい。」
ハボックは幸せそうに笑うと、ロイの肩を抱く腕に力を込めた。
2006/8/27
拍手リクで夏企画リク「ハボロイで果物」でした。西瓜ではキスが精一杯でした〜。夏になるといつも西瓜割りをやります。今年は割れるまでしつこく子供達に叩かせたら、西瓜の頭がすっかりぐずぐずになってしまい、ちょっともったいないことをしてしまいましたよ…。結構割れないんですよね、いいところに当たるとスパッといくんですけど。ハボがやったら一発で粉々になりそう…。