snow fairy


「う、わぁ、すげぇ…っ」
いつまでもベッドから出てこようとしないロイを放って、起きだしたハボックは窓を開けて大声を上げた。
「大佐っ!ねぇ、起きて下さいよっ!」
窓のところからベッドのロイを振り向いてハボックはロイを呼ぶ。だがロイはうーんとうなってブランケットの中に潜り
こんでしまった。
「ねえ、大佐ってば!すげぇっスよ、一面真っ白!」
ハボックが見下ろす視線の先は、昨日の夜から降りだした雪で一面の銀世界となっていた。
「すげぇ、今年最初の雪がこんなに積もるなんて。」
ハボックは子供のように嬉しそうな声を上げるとロイに言った。
「ねえ、最初の足跡、つけに行きません?」
「…遠慮する…」
弾む声で誘うハボックに、ロイはブランケットの中からくぐもった声で答えた。そうでなくても寒いのは大の苦手なのに
雪だなんてもっての外だ。好都合な事に今日は非番。だったら一日中ベッドの中にいたって文句は言われまい。
「もう、せっかくの雪なのに。」
ハボックは唇を尖らせてそう言うとさっさと着替えて階下へと下りて行ってしまった。ハボックが出て行った途端、
シンと静まり返った部屋に時計の音だけが響く。ロイは逃げかけた睡魔を必死に引き寄せるともう一眠りしようと体
を丸めた。その時。
ぱすん、と音がして何かが窓のガラスに当たった。少ししてまたぱしゃんと何かが当たる音がする。ロイはなんだろう
とブランケットの隙間から窓をのぞき見た。すると、その瞬間同じ音と共に窓ガラスに白い塊りが当たって砕ける。
「雪…?」
ロイはブランケットを体に巻きつけたままもそもそとベッドから下りると窓へと近寄りそっと押し開ける。途端に入って
きた冷たい空気に身を竦めながら見下ろすと、ハボックが庭から手を振っていた。
「たいさ〜。」
ハボックはロイが顔を出したのを見て嬉しそうに笑うと手にした雪だまを青い空に向かって高く放り投げる。そうして
ロイを振り仰ぐと楽しそうに言った。
「ねえ、大佐も出てきませんか?」
そういうハボックにロイはぎゅっとブランケットを巻きつけて嫌そうに言う。
「何が楽しくてわざわざ雪の中へ出て行かなきゃならんのだ。」
心底嫌そうに言うロイにハボックは苦笑した。
「面白いのに。」
そうして、雪の上にぽすぽすと足跡をつけながら歩くと、もう一度ロイを振り仰いで言った。
「ねえ、大佐、雪の妖精って知ってます?」
「雪の妖精?」
「そう。」
ハボックはそう言うとロイを見上げながらそのまま背後に倒れこんだ。
「ハボックっ?!」
ばすっと雪の中に仰向けに倒れたハボックにビックリして、ロイは思わず大声を上げた。だが、ハボックはお構い
なしに雪の中で手足をばたばたと動かしてみせる。そうしてゆっくり起き上がると雪の中で胡坐をかいたままロイに
言った。
「こうやって雪の中に倒れて手足を動かすと、残った跡が妖精みたいだって言うんですよ。」
だから雪の妖精、と笑うハボックにロイは呆れてため息をついた。ハボックは「よっ」と立ち上がると数歩歩いて
ぱすんと雪の中にダイブする。そのまま雪の中で仰向けになってロイを見上げるハボックに、ロイはため息をついた。
「おい、雪まみれじゃないか。いい加減にしないと風邪引くぞ。」
そういった途端、ロイはくしゃんとクシャミをする。ぶるりと身を震わせて、閉めるぞ、と言うと窓を閉じてしまった。
ロイはそのままブランケットごとベッドに戻る。シーツに残る温もりを求めてロイはブランケットの中に頭まで埋めると
ほっと息をついた。

暫くしてカチャリと扉が開く音がしてベッドに近づく気配がした。ロイがブランケットの中から顔を出さないのにため息を
つくと毛布の中へと手を差し込んでくる。冷たい手がロイの背中に触れて、ロイは思わず飛び上がった。
「うひゃあっ」
氷のようなその感触にロイはブランケットを握り締めて飛び起きると、空色の瞳を輝かせてにやにやと笑うハボックを
睨みつける。
「何するんだ!心臓が止まったらどうしてくれる!」
そう言えば、ハボックは楽しそうに答えた。
「大丈夫っスよー。大佐の心臓、毛が生えてますもん。」
楽しそうに笑って答えるハボックの腕を咄嗟に掴むとロイはハボックをベッドに引きずり込む。その冷たい体にロイは
目を瞠るとため息をついた。
「冷え切ってるじゃないか。」
「アンタがあったかいんですよ。」
そう言って見上げてくる空色の瞳に、ロイはうっとりと囁いた。
「暖めてやろうか?」
黒い瞳を細めてそう囁いてくるロイに、ハボックはくすりと笑うとロイをやんわりと押しのける。
「遠慮します。」
「なんで?」
「アンタが一緒に雪の妖精に会いに行ってくれるなら、その後に考えてもいいです。」
そんなことを言うハボックにロイはため息をついた。
「お前な…。」
自分がどれだけ寒さが苦手か知ってるくせにそんなことを言うハボックに、ほんの少し呆れてしまう。だが、ハボック
はにっこりと微笑むとロイを引き寄せて軽く唇を合せた。
「ね、たいさ。いいでしょ?」
甘えた声で強請られてロイはやれやれとため息をつくと身を起こしてハボックの腕を引いた。
「まったく世話の焼ける犬がいると、せっかくの休みにもゆっくり寝てられん。」
それでもベッドから下りて身支度を始めるロイにハボックは嬉しそうに笑う。そのハボックの後ろで窓越しに冬の青空
が綺麗に広がっていた。


2006/12/16


冬企画でテーマ「初雪」です。「初」はなくてもいい気がする話だな(汗)珍しくエッチのないロイハボ。え?物足りないですか?
まぁ、たまにはこういうのも(苦笑)