さくらさくら
ワイワイと賑やかな宴会の席から離れて、ロイはいつの間にかいなくなっていた金色の頭を探す。満開の桜の
間を抜けていけば、少し離れた所にそれは見事な桜の古木があった。その根元に座り込んで煙草を燻らす姿
を見つけてロイはホッと息をつくと近づいていく。
「こんな所にいたのか、ハボック。」
ロイの声に頭上の桜に向けていた視線を下ろして、ハボックはにっこりと微笑んだ。はらはらと花びらが舞い散る
中、歩いてくるロイを目を細めて見つめる。
「何をしている?」
「桜を見てました。」
そう言って再び桜に戻されてしまった空色の瞳を、ほんの少し残念に思いながらロイは頭上の桜を見上げた。
「見事な木だな。」
そう言うロイにハボックが自分の横を指差す。
「座りませんか、大佐。」
言われてロイが隣りに座るとハボックが聞いた。
「あっちはいいんスか?」
今夜はセントラルから来ていたヒューズも交えて夜桜見物の宴会が催されていた。無礼講の席に酒も入って
宴会はかなりヒートアップしている。ロイは苦笑しながら答えた。
「ヒューズがいるからな。私がいなくても大丈夫だろう。」
きっと今頃ヒューズは山ほど持ってきた愛娘の写真を並べて騒ぎ立てているだろう。ハボックはげんなりとした
顔で酒を煽るちょっと太めの友人の姿を思い浮かべてくすくすと笑った。そんなハボックにロイが聞く。
「お前こそいつの間にやらこんな所にいるし。今夜の幹事だろう?」
「いいんスよ、もう、アソコまで盛り上がっちまえば。」
幹事なんているだけ邪魔ですから、とそう言ってハボックは桜を見上げて言葉を続けた。
「それに、ここにいれば大佐が来てくれると思ったし。」
ね、と笑う空色の瞳にロイは僅かに目を瞠る。その黒い瞳をじっと見つめてハボックは言った。
「ホントは2人きりで来たかったんです。」
真剣なハボックの目にロイの心臓がとくりと鳴る。
「まだ片想いだった頃、いつか2人でここに来られたらいいなぁってずっと思ってたんスよ。桜の下のアンタは
きっと凄く綺麗だろうなって。」
思ったとおり凄く綺麗っス、と笑うハボックにロイはたちまち真っ赤になった。
「何、馬鹿なこと言ってるんだ、お前は。」
照れ隠しのように乱暴に言うとロイはうろうろと視線を彷徨わせる。
「大体男に綺麗って、使い方が間違ってるだろう?」
「だってホントに綺麗なんですもん。」
さらりとそう言ってのけるハボックにロイの頬がますます紅くなった。ハボックは紅くなってソッポを向くロイの
顔を下から覗き込んで言う。
「ね、こっち向いてくださいよ。」
「桜を見てるんだ。」
「そんな事言わずに。」
「うるさいな、花見の邪魔をするな。」
意地になってハボックを見ようとしないロイにハボックはくすりと笑うと腕を伸ばした。
「じゃ、こうしましょ。」
そう言ってロイをぐいと引き寄せると抱き込むようにして押し倒す。
「な…っ!」
「これなら花見もできるでしょ?」
桜の花を背景に自分を見下ろす空色の瞳から顔を背けようとするロイの顎をぐいと掴んでハボックが笑った。
「ダメ、お花見するんでしょ。」
「…お前が邪魔で見えない。」
頬を染めながらハボックを睨みあげるロイにハボックは苦笑する。
「可愛くないなぁ。」
「悪かったな、可愛くもないし綺麗でもないんだ、私は。」
「綺麗っスよ。」
甘い声でそう囁かれてロイは息を飲む。ハボックは優しく微笑みながら囁いた。
「やっとアンタと桜が見られてすげぇ嬉しいっス。」
そんな風に囁かれて自分も嬉しいと思うのに、ロイは素直にそう言う事ができない。
「うそつけ。桜なんて見てないじゃないか。」
「見てますよ、アンタの目に映ってますもん。」
アンタも桜もとても綺麗だ、と笑うハボックの優しい空気にロイはホッとため息をつくとハボックの首に腕を
まわした。
「馬鹿だな、お前は。」
そう言って身を寄せてくるロイにハボックは嬉しそうに笑った。
2007/4/9
遅くなりましたがようやく桜ネタupです。桜をバックにロイを見下ろすハボが書きたくて…。是非想像してくださいねv