piping hot


「ハボック、お風呂にみかんが浮いてる。」
風呂に入ろうとして浴室に行ったはずのロイがキッチンで夕飯の支度をしているハボックのところへ来て言った。
ハボックはロイの言葉に一瞬目をパチクリさせたが、すぐ合点がいった様に微笑んだ。
「ああ、それ、柚子っスよ。」
「柚子?」
「ええ、今日、冬至なんで。」
「冬至?なんだ、それは。」
ハボックは料理をする手を止めてロイの顔を見ると言った。
「食事の時にゆっくり説明してあげますから、先に風呂、入ってきちゃって下さいよ。オレもできれば食事の前に入り
 たいし。」
ロイはちょっと不満そうな顔をしたが、それでも「わかった」と頷くと、足早に浴室へと消えていった。ハボックはそんな
ロイにくすりと笑うと、手早く料理をしていく。
「よし、コレで準備終わり。」
そう言ってオーブンの時間を設定してスイッチを入れた。ヴーンと低い音がして動き出したオーブンを確認すると、
エプロンを外してダイニングの椅子にひっかける。
「さ、オレも急いで入ってこよう。」
そう言ってハボックもまた浴室へと向かうのだった。

「あー、さっぱりした。」
ロイと入れ替わりで柚子湯に入ったハボックがわしわしと髪を拭きながらリビングへと入ってきた。ソファーの上で胡坐
をかいた脚の上に本を載せて読んでいるロイの背後に回ると、その漆黒の髪に触れる。
「濡れてる…」
ハボックは眉を顰めると自分が持っていたタオルでロイの髪を拭いていく。
「もう、寒い季節なんスからね。ちゃんと乾かさないと風邪をひくって言ってるのに。」
ぶつぶつ言いながら髪を拭くハボックに任せたきりで、ロイは本を閉じるとうーん、と伸びをした。そうしてハボックの
手に頭を預けるようにして首を逸らすと背後のハボックを見上げる。
「で、冬至ってなんだ?」
「ああ、それね。」
ロイに聞かれてハボックが答えようとした瞬間、チンとオーブンが止まる音がする。ハボックは「先に食事にしましょう」
と言うと、テーブルの上にタオルを放ってキッチンへと入っていった。
鍋つかみでオーブン皿をひっぱってグラタンの入った皿を取り出す。それをダイニングに運ぶと、丁度席に着いたロイ
の前に置いた。
「さ、熱いうちにどうぞ。」
そう薦めればロイは「いただきます」と言ってスプーンを手に取る。グラタンを掬おうとしてそのままの姿勢で上目遣い
にハボックを見てロイは言った。
「で、冬至って?」
子供のように好奇心に目をきらきらさせて聞いてくるロイを、ハボックは内心、かわいいなぁと思いつつ口を開いた。
「東の国の季節を現してる言葉なんスけど…。一年のうちで一番昼が短くて一番夜が長い日のことっスよ。」
ハボックの説明にロイはふうんと頷くとグラタンを口にする。
「あつッ」
途端に口元を押さえたロイにハボックは苦笑して言った。
「ああほら、アンタ猫舌なんだから気をつけないと…」
「お前が熱いうちに食べろって言ったんだろうっ」
眉を顰めてハボックに八つ当たりするロイにハボックはくすくすと笑うとその顎に手を伸ばす。
「口開けて。」
言われるままに開かれたロイの口の中を覗き込んでハボックは言った。
「ああ、ちょっと紅くなってる。」
そう言って椅子から腰を上げると顔を近づけ紅くなった部分をぺろりと舐める。
「っっ!!な、何するんだっ?!」
「消毒。」
「バカか、お前はっ」
真っ赤になってハボックの手を振り払うロイをにやにやと見つめながらグラタンを口に運ぶハボックを睨みつけて、ロイ
はスプーンでぐちゃぐちゃとグラタンをかき回した。
「で?」
「はい?」
吐き捨てるように促したロイにぽやんと答えるハボックを見て、ロイはチッと舌打ちする。
「なんで柚子の入った風呂に入るか説明してない。」
言われて、あれ、と首を傾げてハボックは答えた。
「冬至の日に柚子湯に入ると風邪をひかないって言うんだそうですよ。柚子は『融通が利くように』っていう願いもある
 らしいっス。ちなみに冬至は病を治す湯治に引っ掛けてあるんですって。」
ハボックの説明にロイは感心したように頷いた。
「よく知ってるな。」
「ファルマンの受け売り。」
ハボックの答えにロイは、なんだ、と言う顔をする。
「で、この日にかぼちゃを食べると厄除けや病気にならないって言うんだそうで。」
ハボックの言葉にロイは手元のグラタン皿を見下ろした。
「それでかぼちゃのグラタンか。」
「そういうこと。デザートはかぼちゃのプリンですから。」
ふん、と気がなさそうに返事をしたロイの目が一瞬嬉しそうに瞬いたのを、しっかり見ていたハボックはくすくすと笑う。
そんなハボックをじろりと睨みつけると、ロイは少し冷めたグラタンを口に運んだ。ハボックはそんなロイを愛おしそうに
見つめて、一年で一番長い夜をどうやって過ごそうかと考えるのだった。


2006/12/21


冬ですね企画ssテーマ「冬至」です。あー、危なくせっかくの季節ネタをスルーしてしまうところでした。危ない危ない(汗)なんでも知ってるロイですが、
ここは敢えてハボにウンチクを語らせてみました。たまにはね(笑)そうそう、タイトルの「piping hot」は「熱々の」とかって意味です。