osmanthus fragrans


「うわ…」
些細なことで言い合いになって家を飛び出してきたロイが闇雲に走った先に立っていたのは見事な金木犀の木だった。
そういえば走っている間に甘い香りが漂ってきて、思わずそれに惹かれるようにここへやってきたのだと思い至る。
ロイはゆっくりと木に近づくと、その橙黄色の花に触れた。小さな花を枝一杯につけたその木の側に立つと、まるで
香りのシャワーを浴びているような気になる。甘い香りを胸いっぱいに吸い込めばいらいらとした気持ちも凪いでいく
ように思えた。
思えばいつだって彼は自分のことを一番に考えていてくれる。口うるさく言うことのひとつひとつ、どれもがロイのことを
考えて言ってくれているのだ。さっきだって彼の言うことはもっともだと頭では判っているのに、素直に頷くことが
どうしても出来ず、口汚く罵った挙句飛び出してきてしまった。
きっと今頃ひどく怒っていることだろう。5つも年上であるくせに、まるで道理のわからない我が儘な自分にもう愛想も
尽きてしまうかもしれない。
ロイはひどく沈んだ気分のまま足元に散った花びらへと目を移した。燈黄色のその花は散ってなお色鮮やかに、強く
香りを放っている。まるで絨毯のように敷き積もったその花びらの上へ、ロイはゆっくりと俯せに横たわった。
秋の陽射しを吸ってほんのりと温かいそこは優しい彼の腕を思い起こさせた。自分を酩酊させる彼の香りはこの花の
ように甘く、全てを包み込んでいく。ロイはそっと目を閉じると置いてきてしまった彼のことを思い浮かべた。ロイの言葉
に傷ついたように歪められた青い瞳を思い出して胸がちくりと痛む。今すぐに駆け戻って謝ることができたら。
でも、実際にはロイは身動き1つ出来ずに燈黄色の絨毯に横たわり続ける。
細く息を吐いたその時、甘い香りに混じって決して間違うことのない香りが鼻をくすぐった。僅かに目を見開いたロイは
次の瞬間泣き出しそうに目を細める。微かな足音と共に近づいてくるその香りの主は横たわる自分を見てどうする
だろうか。
微かな不安と期待を抱えたまま香りの絨毯に身を沈めるロイに、一瞬立ち止まった後、慌てて駆け寄ってくる花よりも
甘い香りが届いていた。


2006/9/28

osmanthus fragransは金木犀の学名です。なんか今までで一番短くてワケ判らん話になってしまいました〜。ハボでてこないし。秋の花といえば菊、萩、
秋桜と色々ありますが、どれもなかなか話が思い浮かばず、金木犀にしたのですが、思いっきり滑った様な気がします(脱兎←逃げてばかりだな、自分)