大つごもり
「たいさっ!いい加減にして下さいっ!!」
ハボックは部屋の片隅で座り込んで本に没頭しているロイの手から本を奪い取ると言った。
「いつまでたっても片付かないじゃないっスかっ」
そう言われても完全に本の世界に浸りこんでしまっているロイには、ハボックの言葉の意味がすぐには理解できない。
ぼうっとして目を瞬かせるロイにハボックは舌打ちして、そのほっぺたを両手で引っ張った。
「た〜い〜さ〜っっ」
ロイは容赦なく引っ張られて痛む両頬を掌で挟み込むようにしてハボックを恨めしげに見る。
「痛いじゃないか、ハボック。」
「片付けしながら捨てるつもりの本を読んでばかりいる人に、文句を言う権利はありません。」
ハボックはそう言うと両手を腰に当ててロイを睨んだ。
「大掃除が終わらなかったら新しい年は来ないと思って下さいね。」
「別に掃除なんて、この寒い時期にわざわざやらなくてもいいじゃないか。もっと別の日に…」
「今やらなくて、いつやるって言うんですか?こういうキッカケでもない限り絶対やらないくせに。」
ハボックにそう言われてロイは言葉に詰まる。
「お前が手伝ってくれればもう少し効率も上がると思うんだが…。」
そういった途端、ハボックの表情にロイは言ったことを後悔した。
「たいさ。オレは普段の仕事の合間にこの広い家の床やら窓やらを拭きました。庭の雑草も抜いたし、車も磨きました。
今も、ファルマンから教えてもらったおせち料理ってのを、アンタがどうしても食べたいって言うから作ってるところ
です。すげぇ大変だったけど、やっぱりアンタには気持ちよく新年を迎えて欲しいと思ったから頑張りました。全部
一人でやったんです。オレがアンタに頼んだのはアンタの書斎を片付けてくれってコトだけだと思ったんですがね。」
ハボックの言う言葉の一つ一つに小さな刺がいっぱい隠れているように思うのは、決して気のせいではないだろう。
ハボックはため息をつくと、ロイに向かって言った。
「とにかく、片付けて下さい。早くしないと新しい年が来ちゃいますよ。」
ハボックはそう言うとキッチンへと戻っていく。ロイは仕方なしに立ち上がると、積み上げられた本を手に取った。
もう、読まないだろうと思っても、いざ処分しようとするとつい最後にもう一度と本を開いてしまう。もしかしたら読み
残しているところがあるかもしれない。そんな風に考えていると、積み重なった本は一向に減る気配を見せなかった。
「どだい今日一日で片付ける方が無理なんだ。」
ここまで積み上げるのにすでに何週間どころか何ヶ月もかかっているのだ。
「それを片付けないと新年が来ないだなんて、アイツは鬼か。」
ロイはぶつぶつと呟くと、手にした本を山の上に戻す。あ〜あと、ため息をついたロイはふと視線を感じて書斎の入り口
を振り返った。するとそこにはキッチンに戻った筈のハボックが腕を組んで扉に寄りかかるようにしてロイを見ていた。
「ハ、ハボック…っ」
ロイは冷めた目で自分を見つめるハボックの姿に慌てて本を取り上げる。あまりに慌てたので肘で他の山を突いて
しまい、本の山はどどっと音を立てて崩れ落ちた。
「あっ、し、しまった…っ」
慌ててくずれた本を拾い集めるロイにハボックはため息をついて口を開いた。
「アンタに片付けるように言ったオレがバカでした。もうこの部屋は封印していいっスから、これ以上散らかさんで
下さい。オレが今度片づけますんで。」
そういうハボックに、ロイは慌てていいわけをする。
「べ、別にやりたくないわけじゃないんだ。」
「もういいです。」
「ハボック…っ」
情けない声を上げるロイにハボックは仕方ないなと言うように苦笑した。
「ホントにもう、イイっスから。せっかく休みが重なったのに、一緒に年越せなくなっちまうでしょ。」
そう言ってにっこり笑う空色の瞳に、ロイはホッと胸を撫で下ろすとハボックの後について部屋を出た。ダイニングに
行くと、テーブルの上には綺麗に箱詰めされた料理が並んでいる。思わず伸ばしたロイの手を、ハボックはぺちと
叩いた。
「ダメ、それは明日になってから。」
ハボックはそう言うと、今はこっちとキッチンからそばの入った椀を持ってくる。
「年越しそば。」
嬉しそうに言うロイの前に置きながらハボックは言った。
「アンタのリクエスト通りにつくったつもりっスけど、初めて作ったんで…。」
珍しく自信なさそうに言うハボックにロイは一口食べるとにっこりと微笑んだ。
「ん、大丈夫。おいしいよ。」
そう言うロイにハボックも嬉しそうに笑う。そうして食事を済ませてしまうと、手早く片づけを済ませたハボックはロイに
聞いた。
「これから出かけますか?」
その言葉にロイは壁の時計を見る。時計はあと5分ほどで年が変わることを告げていた。
「年越しイベント、駅前のホテルでやってましたよ。」
と言うハボックに、ロイは首を振る。
「いい、寒いし、メンドクサイ。」
ロイの言葉にハボックは呆れたように言った。
「メンドクサイって…。それが名うての女タラシだった人の言うセリフですか。」
それとも、とハボックは言葉を続ける。
「オレ相手じゃ手間かけるのもメンドイってことなのかな。」
呟くように言われた言葉にロイは目を瞠る。ハボックは言ってしまってからしまったという顔をして、視線を彷徨わせた。
「すんません、今のナシってことで。」
早口でそう言うと、ロイの横をすり抜けて階段へと向かう。数歩遅れてハボックを追ったロイは階段の手前でハボック
の腕を掴んだ。ロイに腕を掴まれたまま、それでも体はロイと反対の方へ向けたままのハボックを、ロイはやんわりと
抱きしめた。
「すまない、言葉が足りなかった。」
ロイはそう言うとハボックの耳元に囁く。
「2人きりで新年を迎えたい。」
低く囁く声にハボックの体がゾクリと震える。ロイはハボックを自分のほうへ向かせると、その顎を持って瞳を覗き
こんだ。
「愛してるよ、ハボック。過ぎ行く年もこれから迎える年も、永遠に繰り返して、ずっと…。」
甘く囁く声にハボックの顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。そんなハボックを引き寄せてロイは聞いた。
「お前は、ハボック?」
そう聞かれて、ハボックは俯いたがロイの肩口に顔を寄せると、消え入りそうな声でつぶやいた。
「オレも…」
ハボックの答えにロイが幸せそうに笑う。遠くに響く、新年を告げる鐘の音を聞きながら、二人はゆっくりと唇を重ねて
いった。
2006/12/26
冬ですね企画ssテーマ「大晦日」です。「大つごもり」は「大晦日」のことですー。もう、どこの国の話かわからなくなりつつありますが、その辺は
大目に〜なにとぞー(苦笑)ロイの家はムダに広そうなので掃除するのも大変だろうな、と。