new year's eve


「はい、大佐の分。」
目の前に差し出された椀に盛ったヌードルをロイはしげしげと見つめる。
「またファルマンの受け売りか?」
「ヤな言い方しますねぇ。」
ハボックはそう言ったが敢えてそれを否定しようとはしなかった。
「年越しそばって言うんですって。」
「年越しそば?で、それを大晦日に食べる理由は?」
「理由聞くより、食べません?」
錬金術師って言うのはどうしてこう、好奇心の塊りなんだろうとハボックはため息をついた。せっかく作ったのだから
まず、味わって欲しいと思うのはいけないだろうか。
「ハボック。」
催促するように呼ばれて、どうせ熱い内は猫舌なこの人は手をつけないだろうという事に思い至り、ハボックは口を
開いた。
「そばって細長くのびてるじゃないですか、そこから縁起をかついで、寿命や身代を伸ばすって言う意味があるとか、
 そばが切れやすい事にあやかって、1年の苦労や厄災や借金を断ち切るって意味があるとか、まあいろいろある
 みたいっスよ。」
「ふうん。」
ロイは頷くと箸でそばを1本引き上げるとつるんと飲み込んだ。それから、上に載せてある何やら野菜を寄せ集めて
黄金色の衣で包んであるものに齧りつく。さくりと軽い食感に、ロイは軽く目を瞠った。
「美味しい。」
「でしょっ?だから早く食べてって言ったんスよ。」
汁を吸ってしまってはせっかく上手に揚げたものも美味しくなくなってしまう。ロイに食べさせたくてファルマンに色々
教わってきたのだ。どうして食べるかなんて理由はハボックにとっては正直どうでもよいことだった。
ハボックは熱いそばをはふはふと一生懸命食べるロイを、可愛くて仕方ないというように見つめながら、自分もそばに
手をつける。そうして暫くさくさく、ちゅるんと食べる音だけが響き、二人はハボックが愛情込めて作ったそばを腹に
収めたのだった。

「じゃあ、お参りに行きましょうか。」
クッションを抱えてソファーでうとうとしていたロイにコートを手にしたハボックが言う。
「え?」
「だからお参り。」
寝ぼけ眼で見上げてくる幼い顔にハボックは笑って手を伸ばした。
「さ、行きますよ。」
「これから?」
「だって、今から行かなかったら2年参りにならないでしょ。」
「でも、寒い…」
「大丈夫、手袋もマフラーも用意しました。」
そう言って微笑むハボックに家にいる、と言う選択肢はないことを察して、ロイは渋々立ち上がる。ハボックは楽し
そうにロイにコートを羽織らせると、マフラーを巻きつけ手袋をはめてやった。
「じゃ、行きましょうか。」
そう言って差し出してくる手を、ロイは少し逡巡してからそっと握る。嬉しそうに笑う蒼い瞳にロイは僅かに目元を
染めて俯いた。

ひんやりとした空気の中へ足を踏み出して、ゆっくりと歩き出す。あと残り僅かになった1年の最後の日を、こうして
一緒に過ごせる事にロイは胸がホンワリと暖かくなった。
「どこまで行くんだ?」
半歩前を行くハボックにそう問いかければ、ハボックは肩越しに振り向いて言った。
「少し歩きますけど、東の国の神様を祭ったお社があるんですって。せっかく年越しそばも食べたことだし、そこまで
 行ってみませんか?」
ハボックの言葉にロイはげんなりとした顔をした。
「なんだかすっかり東洋かぶれだな。この寒いのにわざわざ行かなくても…」
「早足で歩けば温まりますよ。ほら、1、2、1、2。」
そう言って殆んど駆けんばかりの勢いで歩き出すハボックに、半ば引き摺られるようにしてロイは歩いた。ハボック
の方が背が高い分、コンパスも長い。自然、ロイはハボックについて行くために小走りにならざるを得なかった。
「ハボック、もう少しゆっくり…」
息を弾ませてついてくるロイにハボックは呆れたように言う。
「これくらいで息が乱れるなんて、運動不足じゃないっスか、アンタ。」
そう言うハボックにロイはムッとするとハボックの手を振りほどいて凄い勢いで歩き出す。気がつけば辺りはだんだんと
人の姿が増えて、目的地が近いことを知らせていた。
「ハボック、もう近くまで来てるのか?」
ロイはそう言って足を止めると後ろを振り向く。だが、そこにはハボックの姿はなく。
「ハボック?」
ロイは慌ててきょろきょろと辺りを見回す。いくら人ごみの中でもあのすらりと高い金色の頭を見失う筈もないのに、
ロイは唐突に消えてしまったハボックを捜して、人ごみを掻き分けて歩き出した。よく知らない場所で突然消えて
しまった姿に不安が募っていき、思わず声に出してその名を呼ぼうとした瞬間。
ぐいと腕を引かれてロイは悲鳴を上げた。
「たいさっ」
呼ぶ声に慌てて見上げれば、ハボックが半ば怒った顔で自分を見下ろしていた。
「突然消えないで下さいよ、びっくりするじゃないっスか。」
そう言って自分を責めるハボックにロイはカチンと来る。
「突然消えたのはお前だろうっ!」
ハボックの手を振りほどいて背を向けようとするロイを、ハボックは引き寄せるとぎゅっと抱きしめた。周り中の人から
見られているような気がして、ロイは真っ赤になるとハボックの腕を振りほどこうとする。
「ハ、ハボックっ」
だが、ぎゅうと抱きしめる腕は、緩むどころか更に強さを増して、ロイはハボックの胸に顔を埋める格好となった。
「…びっくりした。」
「ハボック?」
弱々しく呟く声に、ロイはハボックの胸に顔を埋めたまま視線を上げる。ハボックはロイの頭の上で深くため息をつくと
小さな声で言った。
「夜の中に溶けて消えちゃったのかと思った…」
その声が僅かに震えている事に気づいて、ロイは目を瞠る。そうして小さく微笑むと、ロイはハボックを抱き返した。
「バカか、お前は。」
笑いを含んだ声でそう言えば、ハボックが不満そうに空色の瞳を細める。ロイはそんなハボックの目元に唇を寄せると
ハボックの手を取った。
「行こう。もう近くなんだろう?」
手を引いて笑うロイにハボックも優しく笑う。
「そうっスね、早く行かないと、新しい年が来ちゃう。」
そうしてロイの手をしっかり握ると、2人は人ごみの中をゆっくりと歩き出した。


2006/12/25


冬企画ssテーマ「大晦日」です。もう、どこの国の話やら…。ここまで来たらラブラブなら何でもいいわってことで、多めに見てやって下さい〜。