mission 2


「なんだって自分とこで片付けてくんないんスかね」
「仕方あるまい。それにこっちで解決してやれば貸し一つということになるしな」
「で、なんでオレなんスか?」
「適任だからだ」
「え゛〜〜っっ」
 思い切り嫌そうな顔をするハボックにロイは思わず苦笑する。
「うだうだ言うな、少尉。作戦は頭に入っているな?…中尉!」
「Yes, sir!」
「援護を頼む」
「位置につきます」
 そう言ってホークアイがライフルを片手に司令室を出て行くのを横目にハボックは装備の点検をする。最後に胸ポケットをパンと叩くとすっとハボックの瞳から表情が消えた。
「それじゃ行きますっかね」
 そんなハボックにロイが薄く笑う。
「作戦成功の暁にはご褒美があるかもな」
「…へぇ、そりゃやる気倍増」
 ロイの言葉にハボックがにやりと笑って。
「行って来い、少尉」
「Yes, sir!」
 ハボックは司令室を飛び出した。

 事の起こりはセントラルで軍事機密が盗み出されたことだった。盗難の事実を知ったお偉方がオタオタする間に犯人は完成しきらぬ包囲網を抜け出し、ここ、イーストシティのアジトまで逃げ果せてしまったのだ。
「ったく、いい迷惑だっての」
 ハボックは指定された建物へむけて身を隠しながら足早に進む。ハボックの任務は機密の奪還。犯人がセントラルから持ち帰り、今はそのアジトの最上階に保管されているとの情報が入っている。ハボックが指定の位置に付くと、すぐ、耳につけたコムからノイズ交じりの声が入った。
『少尉?』
「位置に付きました」
『10分後に最初の贈り物に火が付くわ。次がその10分後。最初のに火が付いた時が突入の合図よ。いいわね』
「Yes, mum!」
『頼んだわよ』
 ぶつりと接続が切れ、辺りを静寂が包む。ハボックは銃を取り出すとその銃身に口付けた。目の前の建物を見上げるが、目標物があると思われる6階はここからでは影になって見えなかった。瞬く間に時が過ぎ、花火が上がる時間が迫って来る。ハボックの体からふっと力が抜けた。
(5、4、3、2、1…)
ドオ…ッン―――ッッ!!
 建物の窓から幾つも火柱が上がった。ハボックは目の前の扉から体を滑り込ませ中へと侵入する。突然起こった爆発に、建物の中は混乱を極めていた。飛び散ったガラスやガラクタを踏み越えハボックは奥へと走りこんでいく。時折侵入者に気づいた敵が銃を向けてくるが、相手が構えきらぬうちにハボックの銃が火を噴き、物言わぬ塊へと変えていった。通路の角を曲がろうとした途端、銃の連射を浴びそうになり、ハボックは慌てて物陰へと身を潜める。
「3、2、1」
 Go!の合図と共にハボックは床へと身を投げ出し、斜め下から銃弾を撃ち込んだ。血しぶきを上げて倒れこむ敵を手を付いて立ち上がると同時に銃底で殴り飛ばし、すぐ後ろのヤツ目がけて銃弾を撃ちこむ。あっという間に数人をなぎ倒すとハボックは上への階段を探そうと視線を走らせた。と、その時、倒れた敵の手からころりと何かが転がった。
(手榴弾!)
 目で見たものが頭に信号として送られて認識するより早く、ハボックは3歩走って通路に面した部屋の窓ガラスに身を躍らせる。と同時に手榴弾が爆発し、ハボックの体は爆風と共に窓ガラスを付きぬけ、部屋の中へ叩きつけられた。
「…っっつぅ…っ」
 叩きつけられた勢いで一瞬息が止まる。ハボックは床に倒れたまま自分の体に意識をめぐらせた。
「腕…右、左。脚…よしっ」
 飛び散ったガラスを踏みしめて立ち上がると、部屋の外に上への階段を確認し、ハボックは銃を構えて階段へと向かった。階段の下で古いマガジンを捨て、新しいものと交換する。呼吸を整えると両手で銃を構え階段の下へ立ち、踊り場にいる敵めがけて銃弾を叩き込んだ。もんどりうって頭上から落ちてくる相手を交わして階段を駆け上っていく。次の階でも同様に敵をなぎ倒し、ハボックは奥へと進んで行った。階段を駆け上り、通路を走りぬけ、ある扉の前にたどり着く。この扉の向こうは外になっていて遮るものが何もない通路を突っ切ると次の階への階段のある建物へと繋がっているはずだった。
「Mum?」
 ハボックがコムに向かって話しかけるとすぐ応答があった。
『いつでもいいわよ』
 ハボックはニヤリと笑うと扉を蹴破り、少し身を屈めて通路を突っ走る。途端に建物の上から銃弾が降ってくるが、すぐさま降ってくるのは悲鳴と撃ち抜かれてもんどりうって窓から落下してくる敵の体に取って代わった。
(流石、中尉!)
 ハボックが通路の半ばを過ぎた時、コムから「あっ」と叫び声が上がった。ハッとしたハボックが頭上を見上げると落下してきた敵の体がすぐ目の前を通りすぎる。
「うわっ」
 咄嗟にかわしたものの通りすぎる体に手にしていた銃を叩き落とされてしまった。
「…っ!」
 銃が通路を逸れて屋根の上を滑り落ちていくのをハボックは滑り台の要領で自分も滑り降りながらその後を追う。
『少尉っ!』
 コムから上がった叫びを無視してハボックは屋根の上を滑り降りていきながら微かな出っ張りに跳ね返って飛び上がった銃を掴んだ。
「よっしゃ!」
 と、喜んだのもつかの間、勢いが付きすぎて止まらない自分の体に気づいた。
「げっ、止まんねぇっ」
 足首にとめたナイフを引き抜き屋根へと突き立てると同時に体を横に投げ出してブレーキをかけようとする。
 ガガガガガ―――ーッッ!!!
 ナイフが屋根を抉りスピードが落ちる。目の前に屋根の端が見えたと思ったとき。
「と、止まった…」
 ハボックは半身を空に投げ出すような形でかろうじて屋根の端で止まっていた。
「あっぶね…」
 敵を前にしても殆んど出なかった汗がどっと噴き出る。ハボックは屋根の端にしゃがんでずっと上の通路を見上げた。
『大丈夫?!』
 コムから聞こえる声に思わず苦笑して、ハボックは言った。
「上に駆け上がりたいんスけど」
 何事もなかったかのように言うハボックに一瞬絶句してそれでも自信に満ちた声が返ってきた。
『いいわよ、何も気にしないで駆け上がって!』
「Thank you, mum.」
 ハボックは大きく息を吸うと、今自分が降りてきたのより少し左に向けて駆け出した。途端に耳元をチュインという音が掠めるが、すぐさまそれも聞こえなくなった。ハボックは斜めに屋根を駆け上がり、通路に舞い戻ると もともと目指していた建物の扉へとたどり着く。ドアノブに手をかけようとした瞬間、内側から扉が勢いよく開き、ハボックの頭部目がけて弾が飛んできた。身を後ろに反らせて数ミリの差でそれを避けると、ハボックはそのまま腰を落とし膝立ちの姿勢で部屋の中へ滑り込むと目の前の相手に銃を撃ち込んだ。倒れる相手には目も向けず立ち上がると、部屋の中を奥へと走っていく。その時、ドオンと音がして建物がびりびりと震えた。
「第2弾か」
 呟いて次の階段を目指した。第2弾の花火はかなりの数の敵の戦闘力を奪ったようで、先ほどまでよりは敵の抵抗に会わずに先へと進んでいく。だが、ついに最後の階にたどり着いた時には、流石に身を隠した棚の影から出られぬほどの集中砲火を浴びてしまった。
「どうすっかな」
 下手に爆発物を使って肝心の機密までぶっ飛ばしてしまっては、後でロイに何を言われるかわかったもんではない。
 ハボックはふと天井を見上げて僅かに蒸気が漏れ出ているダクトを見つけるとニヤリと笑った。銃を天井に向け数発撃ちこむ。
 ガ、シャーンッッ!!
 物凄い音と共に蒸気を撒き散らしてダクトが敵の上に落ちてきた。高温の蒸気をまともに食らって絶叫を上げて転がり回る敵に向けて、もうもうと籠る部屋の中、情け容赦なく銃弾を撃ちこむ。蒸気が晴れてきたとき、部屋の中で立っていたのはハボックだけだった。ハボックは部屋の中に視線をめぐらすと窓の側に置いたジュラルミンのケースを見つけそれを手に取るとロックを外した。中にある銀色の細いケースを取り出すとラベルを確認し、ベストの内ポケットにしまう。さて、どこから帰るかと辺りを見回そうとした時、首筋をちりと走るものを感じ、その場で腰を落とした。瞬間、ハボックの体があった空間を銃弾が通り過ぎる。
(まだ、いたのかよ)
 ハボックが多少ウンザリして身を隠した物陰から覗くと銃を撃った男はにやりと笑って大声で言った。
「機密を持って帰らせるわけにはいかないっ!このままここで我らと運命を共にしろ!」
 ハボックが銃で相手を撃ち抜くのと、男が手にしたスイッチを押すのが同時だった。崩れ落ちる男の下にハボックは駆け寄り、男が手にしたスイッチを取り上げた。
「時限装置っ!」
 しかも、そのカウントダウンは30秒から始まっている。ハボックはスイッチを投げ捨てると入ってきたのとは反対側の扉へと走った。そこを開けると見晴台のようなスペースがあり、その先に隣の建物の屋根が見えた。その距離2メートル弱。
「跳んでも死にそうだけど、跳ばなかったら確実に死ぬわけね」
 ハボックは困ったように笑うとポリポリと頭を掻いた。手にした銃に軽く口づけてホルスターへ納める。それからふっと息を吐き、軽くジャンプして、次の瞬間少し腰を落とし隣の建物の屋根めがけて走り出すと、ダンっと地面を蹴って宙へと身を躍らせた。だが。
「届かねぇっ」
 ハボックがそう叫んだとき、爆弾が爆発し、その爆風がハボックの体を隣の建物へと吹き飛ばした。
「ぐはっ」
 隣の屋根の淵に腹をぶつけ、そのままずり落ちそうになる所を必死にしがみ付く。なんとか腕の力でよじ登るとハボックは屋根の上に仰向けに寝転がってぜいぜいと息を吐いた。横目で先ほどまでいた建物を見ると濛々と黒い煙を噴き上げていた。
「すげ…生きてんじゃん」
 飛距離が足りないと思ったときは流石にダメかと思った。
(やっぱ、コイツのお陰かも)
 ハボックは微かに笑ってホルスターに納めた銃をそっと撫でた。

 地上まで降りてくるとそこでは青い軍服を纏った男達が忙しそうに駆け回っていた。生き残ったテロリスト達を纏めて連行し、事後処理に当たっている。その中を歩いて来る黒いコートを着た上司の姿を見つけると、ハボックはゆっくりと歩み寄った。
「はい、コレ」
 胸ポケットから銀色のケースを取り出すとロイの掌に載せる。ロイはそれには目もくれずにハボックを睨みつけた。
「なんで、あんな無茶をした?」
「あんな?」
 どのことだろうと首を捻るハボックにロイはちっと舌打ちして続ける。
「銃を追って屋根を滑り降りただろうがっ」
「ああ、アレ」
 のんびり言うハボックにロイはかっとなった。
「落ちてたらどうするんだっ!銃の代わりくらい持ってるだろう!」
 すごい剣幕のロイにハボックはきょとんとして、だが、すぐ笑って答えた。
「だめですよ。この銃の代わりはありません」
 そこで言葉を切ってロイの瞳をヒタと見る。
「だって、これはアンタがくれた銃ですから」
「銃くらいいくらでも…っ」
「ダメっスよ。これは最初に貰った銃だし、それに、これをもって幾つも修羅場を掻い潜ってきたんスから」
 お守りみたいなもんです、というハボックにロイは思い切りため息をついた。
「お守りの為に死んだらどうするんだ…」
「死にませんよ、お守りなんスから」
 にっこり笑うハボックにロイはもう一度ため息をついてその肩に手をかけるとがっくりと肩を落とした。
「それより、大佐。何かオレ、あっちこっち痛くって、立ってんのツライんですけど…」
 のんびりそんな事を言うハボックにロイは慌てて顔を上げた。
「バカっ、そういうことは早く言えっ!」
「言わせてくれなかったじゃないっスか」
 ぶつぶつ言うハボックを医療班に押し付けて。
 ロイは夕焼けの中黒い煙を上げ続ける建物を振り仰いでうっすらと笑った。


2007/7/12


えっと、突っ込みどころは満載かと思いますが、その辺は温かい目でスルーしていただけると(滝汗)
この間「MI3」を見てきました。面白かったです!で、見た途端「ジャク、書きてぇ〜〜〜っっ」と思ったわけでして。ただ実力が伴いませんで、こんな中途半端なアクション物になってしまいました…。好きなんです、アクション!ビバ!アクション!!でも書けないんだよねぇ…(爆涙)
後日談は記念ssその2に続きますが、ハボロイ、ロイハボ、ジャクロイへと分岐しておりますのでご注意の上、お好きなカプへお進みください。