鏡開き
やっと一日の仕事を終えて、ホッと一息ついていたロイの耳に何やらどっと笑いあう声が聞こえてきた。
「あいつら、また何をやってるんだ…?」
とりあえず就業時間は終わったとはいえ、ここは東方司令部の司令室だ。ロイはため息をついて立ち
上がると執務室の扉を開けた。
「何をやって…」
と言いかけたロイは、机の上にどんと載った白い塊りに口をつぐんだ。普段書類が散乱している机の上には
何やら丸い形をした白い物体が2段重ねで置いてある。
「なんだ、コレは?」
ロイが胡散臭げに聞くとハボックが楽しそうに答えた。
「鏡餅っスよ。」
「鏡餅?」
「そうです。かつて東の国の武士の家では新年にこのような餅を神仏に供える習慣があったそうです。
そして、今日、1月11日の鏡開きと言って、その餅を一年の健康と発展を祝って皆で食べるんです。」
ウンチクを語りだすファルマンを片手で制してロイは、とりあえず聞きたいことを聞く。
「それは判った。だが、どうしてその鏡餅とやらがここにあるんだ?」
「ファルマン准尉の家で飾っていたものを持って来てもらったんです。ぜひその鏡開きっていうのをみんなで
やってみたくて。」
にこにこと言うフュリーに司令室の面々がうんうんと頷く。ロイは額に指を当ててため息をつくとちらりと
ホークアイを見やった。
「中尉…。」
どうして止めないんだと暗に匂わせて名前を呼べば、ホークアイはにっこりと笑った。
「たまにはいいじゃありませんか。それに。」
私も食べてみたかったし、と微笑むホークアイは最強だ。たとえロイでも彼女にそう言われれば、最早反対
することは出来なかった。
「とにかく、早くやりましょうよ、大佐。」
ハボックはにっこり笑うと、テーブルの上の木槌を取った。ぽんぽんと手のひらを木槌で叩くハボックに、
ロイは不思議そうな顔をして聞いた。
「それをどうするんだ?」
「これで餅を割るんスよ。」
そう言って、広げた紙の上に2段あるうちの一つを置くとハボックは餅を軽く叩いてみる。
「随分乱暴だな。ナイフで切ればいいじゃないか。」
そういうロイにハボックはちっちっと言って指を振った。
「それはいけません。ナイフで切るのは縁起が悪い…だったよな、ファルマン。」
ハボックに聞かれてファルマンが頷く。
「そうです。『鏡開き』と言って『切る』と言う言葉を使わないのも、縁起を担いでのことなんです。」
ファルマンの言葉に「ね?」とロイに向かって首を傾げると、ハボックは徐に木槌を振り上げた。
「それじゃ、ジャン・ハボック少尉、行きま〜すっ!」
バコンッ!!
ハボックが木槌を振り下ろすと、威勢のいい音がして見事に鏡餅が割れた。
「「「おおっっ!」」」
誰ともなく歓声が上がると、みんなは割れた餅を手に取った。
「で、これ、どうやって食うんだ?」
ブレダが問えば、ハボックが
「焼いたり煮たりすればいいんだろ?」
とファルマンに聞く。頷くファルマンにハボック達は早速割れた餅を給湯室に持ち込んでなにやらごそごそと
やり始めた。
暫くして、餅の焼ける匂いやら海苔の匂いやらなにやら沢山の美味しい香りを引き連れてハボック達が
司令室に戻ってきた。トレイの上には焼いて醤油をつけて海苔を巻いたものや、きな粉を塗したもの、大根
おろしであえたものやピザ風にアレンジしたものなど、ありとあらゆる餅料理が載っていた。
「よく作ったな。」
ロイが目を丸くして言えば、ハボックが
「ファルマンに聞いていろいろ作ってみたんスよ。」
と自慢げに答える。早速あちこちから手が伸びて、司令室のメンバーは思い思いに餅を頬張り始めた。
「うわ、この大根、辛ぇけど美味いっ」
「海苔を巻いたのもシンプルで美味しいですよ。」
「私はこのピザ風のが美味しいと思うわ。」
などなど。
ハボックは皆から少し離れたところで餅を食べているロイのところへ行くと話しかけた。
「大佐は?どの餅が好みっスか?」
「…あんこ。」
そう言って最後の一口を放り込むロイにハボックはくすりと笑う。
「アンタ、甘いの好きですもんね。」
そう言うハボックをロイは睨みつけると言った。
「いいだろう、別に。」
拗ねたように言うロイにハボックはにっこりと微笑む。
「今度ぜんざい作ってあげますね。」
「…栗ぜんざいがいい…」
にこにこと幸せそうに笑うハボックに、ロイは目元を染めるとそう呟いたのだった。
2007/1/11
冬ですね企画ss、テーマは「鏡餅」で。今日が鏡開きだってこと、すっかり忘れていて慌てて書きました。なので、なるべくカプ色をつけずに
私にしては珍しく「×」でなく「+」な感じの話にしたつもりです。(2本書く時間がさすがにないので)みんなで餅食べるだけの話…(苦笑)
相変わらず、ここは一体どこの国??な内容なのは皆様の広いお心でさらりと流していただけるとありがたいかなぁと(苦笑)
個人的には海苔を巻いたヤツと砂糖醤油つけて食べるのが好きです。