ハロウィンドリーム
「今日はハロウィンかぁ…。」
ジャンくんは窓辺に肘をついて外を覗いています。10月最後の日、短い秋の日は瞬く間に陽が落ちて、外は刻一刻と
暗くなっておりました。
「あーあ…」
窓から見える家々の玄関先や庭はたくさんのハロウィンの飾りつけがされています。通りにはそれぞれに趣向をこらした
衣装を身にまとった子供たちの姿が見え始めました。
「みんなトリックオアトリートをしに行くんだろうな…。」
ジャンくんは羨ましそうに子供たちを見つめます。今日は町中の子供たちがハロウィンの夜の遊びを楽しむのでしょう。
でも、ジャンくんはそれが出来ません。なぜならジャンくんには衣装を買ってくれるお父さんやお母さんがいないからです。
ジャンくんのお父さん達はジャンくんが小さい時、事故で死んでしまいました。まだ小さかったジャンくんはお母さんの
遠い親戚の家に引き取られましたが、そこではジャンくんはいつでものけものでした。この家のおばさんは自分の3人の
子供をとても可愛がっていて、こんなイベントの時には目一杯お洒落をな衣装を用意してくれますが、ジャンくんには何も
用意してくれません。
『居候にやるものなんて何もないよ。ご飯が出てくるだけでもありがたく思うんだね。』
おばさんはいつもそう言います。そして今日も子供たちに魔女やらドラキュラやらステキな衣装を着せて、ジャンくんを
置いてハロウィンパーティへと出かけていってしまったのでした。
ジャンくんは暫くの間ぼんやりと窓の外を見ていましたが、窓から離れるとキッチンへと入っていきました。いつもなら
そろそろ夕食の時間です。でも今日はみんなパーティに行ってしまっているので夕食は用意されていません。ジャンくん
はコップに水を入れるとコクコクとそれを飲みました。本当はおなかがすいていたけれど、勝手に冷蔵庫にあるものなど
食べたりしたら後で大変な事になってしまいます。ジャンくんは飲み終わったコップを洗って綺麗に拭くと、元あった場所
に戻しました。
「今日はもう寝ちゃおう…。」
街はハロウィン一色に染まり、ウキウキと浮かれていましたがジャンくんには関係のないことでしかありません。
ジャンくんが屋根裏の自分の部屋に行こうと階段を上がりかけた時、コンコンとドアをノックする音が響きました。
「誰だろう…。」
ジャンくんはちょっと悩みましたが玄関に行くとそっと扉を開けます。するとそこには魔法使いの格好をした黒い髪に
黒い瞳のかわいい男の子が立っていました。
「トリックオアトリート!」
男の子はジャンくんの顔を見ると大きな声で言います。男の子の顔に見惚れていたジャンくんは、その声にハッとすると
俯いて答えました。
「ごめんね、お菓子、用意してないんだ…。」
おばさんは自分達が出かけてしまうので、家に訪ねてくるかもしれない子供の為になどお菓子を用意してはいません。
ジャンくんはせっかくトリックオアトリートに来てくれた男の子にあげるお菓子がなくて悲しくなりました。そのとき、不意に
ジャンくんのおなかの虫がぎゅるるるるっと音を立てて、ジャンくんはあまりの事に顔を真っ赤に染めておなかを押さえ
ます。男の子は黒い瞳をまん丸に見開いて驚いていましたが、くすくすと笑うと言いました。
「おなかすいてるの?」
そう聞かれてジャンくんはおずおずと頷きます。
「お母さんは?」
ジャンくんが悲しそうな顔をして首を振るのを見ていた男の子は自分が持っていた袋を差し出して言いました。
「お菓子、一緒に食べない?」
「えっ?いいの?」
「うん、一緒に食べよう。」
にっこりと笑う男の子にジャンくんは顔を赤らめると俯いて小さな声でありがとうと言います。男の子と一緒に家の中に
戻るとリビングへと案内しました。
「ボクはね、ロイって言うんだ。」
男の子はボスンとソファーに座るとそう言います。ジャンくんはロイから少し視線を逸らして答えました。
「オ、オレはジャン…。」
ロイは袋を逆さにするとお菓子をテーブルの上にあけます。色とりどりのお菓子に目を見開くジャンくんに言いました。
「何か飲むものあるかなぁ。」
「え、あ…ごめん、水しか…勝手に飲むとおばさんに怒られるから…。」
せっかく一緒にお菓子を食べようと言ってくれたロイに水道の水しか出せないことが恥ずかしくて悲しくてジャンくんは
泣きそうになりました。
「おばさんと一緒に住んでるんだ。」
「うん、お父さんとお母さんは死んじゃったから…。あ、今、お水持ってくるね。」
ジャンくんはロイにそう言うとキッチンへ行こうとします。その背にロイが言いました。
「コップ、何も入れないで持って来て。」
「え?うん、いいけど…。」
何か飲み物を持っているのかしら、と思いつつ、ジャンくんはキッチンの棚からコップを二つ取り出すとリビングへと持って
来ます。ロイの前に二つ並べておけば、ロイはにっこりと笑いました。
「ボクはね、魔法使いなんだよ。」
「…うん。」
確かにロイは自分で言うとおり魔法使いの仮装をしています。だからなんだと言うんだろうと、ジャンくんが不思議そうに
ロイの顔を見たとき、ロイは腰に止めていたステッキを取り出しました。
「チチンプイプイのプイ!」
ロイがそう叫んでステッキを振ると、あら不思議。空だったコップにはオレンジジュースが入っていました。
「ええっ?!どうしてっ?!」
ビックリしてコップとロイの顔を見比べるハボックにロイは笑いながら言います。
「だって魔法使いって言ったでしょ?」
そう言うロイを呆然として見つめていたジャンくんはそっとコップに手を伸ばしました。一口飲んでみて目を瞠ります。
「…おいしい。」
こんなに甘くて美味しいジュースは飲んだことがありません。ジャンくんはロイの顔を見ると言いました。
「本当に魔法使いなんだ…。」
「さっきからそう言ってるじゃない。」
ロイは笑ってそう言うと、ジャンくんの前にお菓子を押し出しました。
「お菓子食べたら出かけよう。」
「えっ?出かけるって?」
そう聞いた途端、ジャンくんのおなかがまた激しく鳴り出します。顔を紅くするジャンくんにロイはくすくすと笑いました。
「ほら、早くお食べよ。」
「うん…。」
ジャンくんは頷くとクッキーの包みを開けます。口に入れるとふわりと崩れて、ジャンくんは口に広がる美味しさになん
だか泣きたくなりました。
「どうしたの?」
と聞かれてジャンくんは恥ずかしそうに答えます。
「こんなに美味しいお菓子食べたの初めてだし、それに…」
「それに?」
「オレの前で誰かがこんなにニコニコしててくれるの、お母さん達が死んでからは初めてだから…。」
おばさんもそのダンナさんも子供達も、いつでもジャンくんの顔を見ると「居候」だの「ただ飯食らい」だの罵ってばかり
です。ただ一緒にお菓子を食べているそれだけの事にこんなにうれしそうな顔をするジャンくんをロイはじっと見つめて
いましたが、急に立ち上がるとジャンくんの手を掴みました。
「行こう!」
「え?行こうってどこに?」
「今日はハロウィンだよ。トリックオアトリートに決まってるじゃない。」
そう言われてジャンくんは悲しそうに目を伏せます。
「ダメだよ。だってオレ、衣装持ってないもん。」
「もう、ボクを誰だと思ってるんだよ。」
ロイはそう言うとステッキを振りました。
「チチンプイプイのプイ!」
そう唱えればジャンくんの服がカッコいいドラキュラの衣装に変わります。
「わあ、すごいっ!!」
嬉しそうに目を輝かせるジャンくんの手を取ってロイが言いました。
「さあ、行こう、ジャン!」
「うんっ」
そうして2人は手を繋いで外へと駆けて行きました。
ハロウィン一色の街の中をカッコいいドラキュラとかわいい魔法使いの衣装をした2人が歩いて行きます。すれ違う大人
たちは「ステキね」と笑いかけ、子供達は羨ましそうに見つめました。
「トリックオアトリート!」
ロイと2人でそう叫べば、家の人たちはにっこり笑って出迎えて、お菓子の袋を渡してくれます。走って笑って、頭を撫で
られては褒められて、ジャンくんはこんなに楽しいハロウィンは初めてでした。気がつけば袋の中はお菓子で一杯で、
頭の真上には細い月がかかっていました。
「もう、こんな時間…。」
そろそろ帰らないとおばさんたちが帰ってきてしまいます。帰ったときにジャンくんが家にいなかったらきっと物凄く怒る
に違いありません。ジャンくんはロイを見ると言いました。
「今日はどうもありがとう。とっても楽しかった…。」
楽しい時間というのはどうしてこんなに過ぎるのが早いのでしょう。でもきっと今夜のことは自分にとって一生の宝物に
なるに違いないと思いながらジャンくんはロイを見つめました。僅かな月明かりの中でロイの黒い髪はつやつやと光り、
黒い瞳は星の光りを集めたように輝いています。気がつけばジャンくんはロイを引き寄せてその桜色の唇にキスをして
いました。キスをしてしまってから、ジャンくんはハッとすると真っ赤になってロイから手を離します。
「ご、ご、ご、ごめんっ!!な、なにやってんだろっオレっ!!」
慌てて叫ぶジャンくんをロイは唇を押さえて見つめていましたやがてゆっくりと言いました。
「ボクと一緒に来る?」
「…え?」
「あのね、ハロウィンの夜、魔法使いは一生の伴侶を見つけることが出来るんだって。」
そう言われてジャンくんは空色の瞳を大きく見開きます。ロイはジャンに向かって両手を差し出して言いました。
「一緒においでよ、ジャン。ボクと一緒に魔法使いの国に行こう!」
「でも、オレ、魔法使えないよ?」
「大丈夫、ボクが教えてあげるから、ね?」
キラキラと黒曜石の瞳を輝かせて言うロイにジャンくんは抗うことなど出来ません。コクンと頷けばロイは嬉しそうに
笑いました。
「よし、決まり!それじゃあ魔法の国への扉を開くよ。」
ロイはそう言うとステッキで宙に文字を描きます。描いた文字は焔となって燃え上がるとそこには輝く扉が立って
いました。ロイはジャンくんに向かっててを差し出します。ジャンくんは泣きそうな顔で笑うとその手を取りました。
「これからはずっと一緒だよ、ジャン。」
「うん、ロイ…。」
頷くジャンくんの手を握ったままロイが扉に触れるとそれはゆっくりと開いていきます。仲良く手を取り合った2人が
扉をくぐると輝く扉は闇に溶けるように消え、空には細い月がかかるばかりでした。
2007/10/31
ハロウィン、ハボロイ版でした…。あーうー。すみません…一体なんだかな、な話ですねー。何でこんな話になったんだろう。最初は普通にハボとロイで
書くつもりだったんですが、気がついたらこんな話に…。よく判んない話ですみません。もっと精進しますー(汗)