fireworks
ドンッという音が響いて、ハボックは車の窓から外を仰ぎ見た。そこでは暗い夜空に赤や黄色の大輪の花が咲いている。
「ああ、花火大会なんスね。どおりで人が多いと思った。」
ハボックは車を通りの脇に止めると夜空を見上げる。
「大佐、せっかくだからちょっと見物していきます?」
そう言ってシート越しに振り向いたハボックが見たのは妙に青ざめたロイの顔だった。
「大佐、どっか具合でも悪いんスかっ?」
ハボックは叫んで運転席を飛び出すと後部座席のドアを開けてロイの様子を見る。ハボックに肩を掴まれてビクリと体を
震わせたロイはゆっくりとハボックを見上げた。
「いや、大丈夫だ、何ともない。」
「何ともないって、アンタ、すごい顔色悪いっスよ?」
額に手を当ててくるハボックから身を捩ってシートに深く体を沈めるとロイは囁いた。
「何ともないから早く車を出してくれないか。」
「でも、具合悪いなら、少し休んだ方が…」
「早く出せと言ってるんだ!!」
突然大声を上げたロイをハボックはまじまじと見つめる。ロイは気まずそうに視線を逸らすと唇を噛んだ。ハボックはロイ
の真意がわからないものの運転席に戻ると車を出す。人ごみを抜けて暫く走ったところで、ロイがぽつりと呟いた。
「あの音が…」
「音?」
ハボックはハンドルを握ったままルームミラーでロイの顔を窺う。
「…連想させるんだ。爆撃の音を…」
小さく囁くロイにハボックはハッと息を呑んだ。次の瞬間ブレーキを踏むと、ハンドルを握り締めて搾り出すように言う。
「すみません…っ、オレ、無神経で…」
「お前の所為じゃない。私が弱いだけだ。」
そう言って俯くロイをルームミラーの中に見て、ハボックは胸が痛んだ。あのイシュヴァールの激戦のさなか、最前線に
ロイは立っていた。人間兵器としての働きを期待されて、耳を弄するばかりの爆撃を聞きながら、彼は何を思っていた
のだろう。普段の彼を見ていると気づかないが、その内面にどれだけ深い傷を負っているのかハボックには想像も
つかない。ただあの美しい花火が打ち上げられる音にすら辛い過去を思い起こすのなら、それはなんて悲しいことだろう
とハボックは思う。
ハボックはぐっとハンドルを握り締めると、運転席を出て後部座席の扉を開けた。
「ハボック…?」
見上げてくる黒曜石の瞳に微笑んで、ハボックはロイの手をとると車から引っ張り出した。そのまま手を取り道路脇の
細い道へと入っていく。
「ハボック、どこへ――。」
雑草の生い茂った道を登っていくハボックにロイは戸惑って声をかけた。まださほど遠くない所で花火の音が続いており
ロイは何となく落ち着かなかった。ようやくハボックが足を止めたのでロイはハボックと並んで立ち止まった。そこは
小高い丘の上で、頭上にはぽっかりとあいた空間が広がっていた。ドンッという音が聞こえて頭の上に焔の花が咲く。
息を詰めてそれを見上げるロイをハボックはそっと抱きしめると囁いた。
「オレ、大佐がどれだけ辛い思いしたか知りません。でも、ここは戦場じゃないし、綺麗な花火を見ても辛いと思うなんて
そんな悲しいことないから…。全部忘れるなんて無理だと思うけど、でも、オレ、大佐に花火を見て綺麗だと思って
欲しいし、一つでも悲しいことを楽しい思い出に変えてあげたいと思うし、それに…」
一生懸命言葉を紡ぐハボックをロイは目を見開いて見上げた。
「…すみません、うまく言えなくて…。オレ、大佐には幸せになって欲しいけど…でも、そんなのオレの思い上がりっス
よね…」
ハボックは唇を噛み締めるとロイの手を取った。
「ごめんなさい。もう、帰りましょう。」
そう言って歩き出そうとするハボックをロイは引き止めた。
「せっかくだからもう少しここにいよう…。」
ハボックを見上げてそう囁くロイにハボックは目を瞠る。ロイはハボックの胸に顔を埋めると言葉を続けた。
「お前がいてくれれば大丈夫だ。」
ロイの言葉にハボックはロイの体をぎゅっと抱きしめた。見上げるハボックの肩越しに綺麗な大輪の花が咲く。ロイは
うっとりと微笑むとハボックに口づけていった。
2006/7/31
先日、サッカー観戦に行ったらちょうど「ファイヤーワークスデー」とかでハーフタイムに花火の打ち上げがあったんですよ。目の前で上がる花火はとても綺麗
だったのですが、音が凄くて…。「ドンッ」とか「パチパチパチ」とか。夏になったら花火ネタと思っていたのですが、こういう音聞いたら思い出すんじゃないかなぁと
思ったらこんな出来に…。「jealousy」に引き続き、ロイのトラウマネタになってしまいました。私的にはこの話にエチはいらんだろうと思ってここで終わらせてますが、ハボロイラバーな方々には不満…っスかね?(びくびく)…あ、そうだっ、念のため。夏ですね企画で海に行くのはナシで…海パンのロイなんて想像つかないもん。