10. 肩


 弾けるような笑い声が聞こえて、公園を歩いていたロイは足を止めて振り返る。そうすれば父親に肩車されてはしゃぐ子供の姿が目に入った。
「肩車かぁ、子供の頃親父に強請りましたよ」
 ロイが足を止めたことに気づいたハボックが、同じように振り向いて言う。懐かしそうに目を細める横顔を見つめれば、ハボックがロイを見て言った。
「うちは兄弟が多かったから肩車して貰うのも競争で。誰が最初にして貰うかでいつもケンカしてたっスよ」
 そう言うのを聞けば金髪の男の子が父親の肩を取り合う姿が目に浮かぶ。クスリと笑ってロイは、肩車する父親の頭を抱え込むようにして話しかけている男の子を見て言った。
「私は肩車なんてして貰った記憶はないな。意外と怖がりだったんだ」
 肩の上に乗って立ち上がるというのがちょっとな、とロイは眉を顰める。それでも楽しげな親子の様子を見ていれば、ほんの少し羨ましそうに言った。
「でも、あんな風に楽しそうなのを見るとやって貰ったら楽しかったかもとも思うよ」
 楽しげな親子をそのままにロイはゆっくりと歩き出す。そうすればハボックが後からついてきながら言った。
「してあげましょうか?」
「はあっ?」
「肩車。今やっても結構楽しいと思うっスよ」
 ニコニコと笑って言う男をロイはまじまじと見つめる。それから呆れたようなため息をついて言った。
「何を言い出すかと思えば、お前、馬鹿だろう。いい年した大人が肩車して何が楽しいもんか」
「そんな事ないっスよ。やってみりゃ判ります」
 そう言って手を伸ばしてくるハボックからロイは後ずさって逃げる。
「大体お前、幾らお前より軽いとは言え大の大人を肩車なんて出来る訳ないだろうっ」
「でも演習でオレよりデカいヤツを担いで走ったりしてるっスから」
 要は持ち上げるコツとタイミングっスから、とハボックはニッコリと笑う。
「大丈夫ですって。絶対落としませんから」
「いや、だかな。持ち上げられる、られないと言う以前にだな」
 大人が肩車なんて恥ずかしいじゃないかと喚くロイに構わず、ハボックはロイの腕を引いた。
「いいからいいから」
 グイと引いて後ろを向かせるとロイの脚の間に首を突っ込む。
「わわわッ!」
 半ば強引に肩の上に座らさせられたと思うと、ふわりと浮かび上がる感触にロイは金色の頭にしがみついた。
「大佐ァ、大丈夫っスから顔上げて」
「え?」
 もみくちゃに頭を抱え込まれながらもハボックが頭上のロイに言う。その声に恐る恐る顔を上げたロイは見下ろす景色に目を見開いた。
「どうっスか?結構気持ちいいっしょ?」
 ハボックが言うとおり人の頭より高い位置にいれば何だか吹き抜ける風も違う気がする。背筋を伸ばして上を見れば近くなった梢に小さな花が咲いているのが見えた。
「確かに気持ちいいな」
「でしょ?」
 上から降ってきた声にハボックは笑って歩き出す。ぐらりと揺れて、慌てて金の髪を鷲掴んでバランスを取ったロイは、何だかワクワクして言った。
「ハボック、右だ、右。枝に鳥が止まってる」
「え?右っスか?」
「そっと近付けよ、そっとな……あっ、逃げた!ハボック、あっちだ!」
「えーッ、あっちってどっち?」
 身を乗り出すようにしてあっちだこっちだと指示を出すロイの声に従って、ハボックは公園を走り回る。すっかり子供に戻った二人が上げる笑い声が青空に吸い込まれていった。


2012/07/21