| 09. 鎖骨 |
| 「ん……」 激しくも甘い時間が過ぎ去って、体に残る優しい余韻を味わいながらベッドに寄り添って横たわっていればハボックの逞しい腕がロイの体を抱き寄せる。その厚い胸に引き寄せられた拍子に目に入った鎖骨を見て、ロイが言った。 「知ってるか?ハボック。鎖骨がない動物は抱き締めるという行為が出来ないそうだよ」 「へ?そうなんスか?」 鎖骨に指を滑らせながら言うロイに、ハボックは白い指先が辿る鎖骨を見る。自分でも鎖骨に触れてみてハボックは首を傾げた。 「こんなもんが大事なんスか?」 「その骨がないと、前脚を内側に曲げて保持することが出来ないらしい」 「前脚」 自分の腕を前脚と言われてハボックは僅かに眉を顰める。そんなハボックの表情に気づいているのかいないのか、ロイは続けた。 「馬や牛は抱きついたりできんだろう?あれは鎖骨が退化しているからだ」 「ああ、確かに」 言われて四つ脚で歩く動物の姿を思い浮かべてハボックは頷く。腕の中で蘊蓄を垂れる恋人を抱き締めて言った。 「鎖骨があってよかったっスよ。おかげでこうしてアンタを抱き締められる」 ハボックはそう言うと己の腕がロイを抱き締められるのを確かめるように腕に力を込める。きつく抱き締められれば自然と鎖骨が目の前に迫って、ロイは浮かび上がる骨にカプリと噛みついた。 「ちょっと」 悪戯に歯を立てるロイにハボックは大袈裟に顔を顰めて見せる。そうすればロイは歯を立てたところに舌を這わせて言った。 「こんなしっかりした骨だと穴を開けるのは大変そうだ」 「はぁ?なんスか、それ」 歯で穴でも開けたいのかとハボックが言えば、ロイが眉を顰める。 「そんなことが出来るか、馬鹿」 「だってアンタが変なこと言うからっしょ」 言い出したのはそっちだと唇を尖らせるハボックにロイは答えた。 「この骨がどうして鎖骨っていうか考えたことはあるか?」 「生憎そんなこと一度だって気にしたことねぇっス」 「人間、あらゆることに疑問を持たないと成長せんぞ」 「あのね、ベッドの中でそんなことに疑問持ちたかねぇんスけど」 ちっとも色っぽい話じゃないとむくれるハボックに構わずロイは続ける。 「昔ある国でな、囚人が逃げないようにこの骨に穴を開けて鎖を通したんだ。だから鎖骨」 「えっ?骨に穴開けて鎖って、痛そう。つか、この骨に穴開けんの、大変じゃねぇ?鎖骨って折れやすい骨っしょ?」 無理じゃねぇ?と言うハボックにロイは肩を竦めた。 「さあな。実際開けたのを見た訳じゃないし」 文献だ、文献とロイは言って、ふぁぁと欠伸をする。ハボックの鎖骨に頭を預けて目を閉じるロイの白い肌に陰影を刻む骨を見つめて、ハボックは目を細めた。 「アンタの鎖骨になら鎖通してみたいかも。結構似合いそう」 「馬鹿か、お前。こんな細い骨に穴を開けようとしたらそれこそ折れる」 骨の細いロイの鎖骨は、触れてくるハボックの指より細く見えるほどだ。悪戯に触れてくる男の指から身を捩って逃れようとするロイを腕の中に囲い込んで、ハボックは笑った。 「大丈夫、細い鎖にするから。こっちの骨からこっちの骨に細い銀の鎖つけんの。きっと似合うっスよ」 「……馬鹿め」 クスクスと笑いながら右の鎖骨から左の鎖骨へと指を滑らせる男を、ロイは目尻を染めて睨む。囲い込むハボックの腕を強引に解けば、楽しそうに見つめてくる空色の瞳を見つめて言った。 「そんなことに使うよりこういう風に使う方がいい。違うか?」 そう言って腕を伸ばして抱き締めてくる細い体を抱き返して。 「そうっスね。やっぱ有効に使わなくっちゃ」 「だろう?」 見つめてクスクスと笑いあうと、二人は互いをきつく抱き締めて唇を重ねていった。 2012/07/14 |