05. 頬


「中尉はチークとかつけてるんスか?」
 机に身を乗り出すようにしてじっと見つめていたハボックが突然そんなことを言う。頬に強烈な視線を感じてはいたものの、まさかそんな事を聞かれるとは思ってもみなかったホークアイは目を丸くして言った。
「そうね、薄くだけど」
 任務でかけずり回っている時は流石に肌を保護するためのクリームくらいしか塗らないが、通常の業務の時は年相応の化粧はする。と言っても殆どノーメイクと思えるほどの薄化粧であったが、顔色がよく見えるよううっすらとチークを刷くのが常だった。
「やっぱ普通そうっスよねぇ」
 口調は納得したようなのに顔には納得できないという表情を浮かべているハボックにホークアイは首を傾げる。一体なにが言いたいんだと聞こうとして、ホークアイは思い浮かんだ顔に「ああ」と思った。
「大佐のほっぺはうっすら桜色ね」
「でしょうっ?」
 言った途端ハボックが机に張り付くほど乗り出していた体を勢いよく起こす。腕を組んで首を捻りながらハボックは言った。
「どうしてチークも塗らないのにあんなかわいい色してんだろ」
 かわいいというのは惚れた欲目と言う気がしないでもない。ホークアイがクスリと笑った時、執務室の扉が開いてロイが顔を出した。
「ハボック、ちょっと」
「はいはい」
 呼ばれてハボックは立ち上がるとロイに歩み寄る。頭一つ低いロイを見下ろすと、頬に触れて言った。
「大佐はチーク塗ってなくても桜色っスね」
「はあ?なに言ってるんだ、お前」
 唐突にそんな事を言われてロイが目を丸くする。柔らかく触れてくるハボックの手に、桜色だった頬を紅く染めて執務室に戻るロイを追ってハボックが中に入ると、パタンと扉が閉まった。
「何となく負けた気がするのは気のせいかしら」
 おそらくは仕事の話より桜色のほっぺの話題で盛り上がるのであろう二人の姿を想像したホークアイは、肩を竦めてそう呟いたのだった。


2010/04/29