04. 眼


「たーいーさー、朝っスよ。いい加減起きてください」
 耳元で言う声が聞こえてロイは眉間に皺を寄せる。しつこく「大佐」と呼ばれてロイは仕方なしに片目を開けた。
「もう、いくら休みだからって寝すぎっスよ。眼が溶けちゃっても知らないっスからね」
 眠そうに開いた片目を覗きこんでハボックは言う。それから窓に歩み寄ると厚手のカーテンを勢いよく開けた。途端に昼の明るい陽射しが部屋の中に降り注いでくる。
「ほら、大佐。すげぇ、いい天気。雲ひとつないっスよ」
 窓から見える空を見上げてそう言ったハボックは、視線を部屋の中に戻してブランケットの塊と化したロイを見て溜息をついた。
「もう、大佐ってば」
 呆れたようにそう言うと肩越しに窓の外を指差す。
「こんないい天気なのに、いつまでも寝てたらもったいないっしょ?ねぇ、ホントに気持ちいいくらいの空色だから。大佐ってば」
 ハボックはそう言うとブランケットの隙間から覗きこんだ。潜り込んでいたロイは、頭上に出来た隙間から入り込む光りに薄っすらと目を開ける。そうすれば視界に飛び込んできた綺麗な空色に笑みを浮かべた。
「空ならここからでも見える」
「えっ?」
 ロイの言葉にハボックは顔をベッドの位置まで下げた状態で窓を振り仰ぐ。木々の隙間から辛うじて見える空に顔を顰めた。
「ろくに見えないじゃないっスか。こんなとこから空の欠片見てないで、一緒に散歩行きましょう、散歩」
 そう言うハボックのベッドについた手がブランケットの隙間から見える。ロイは手を伸ばしてハボックの手首を掴むとグイと引いた。
「うわ…ッ?!」
 支えにしていた手をいきなり引かれてハボックはベッドに倒れ込む。気がついたときにはロイの身体の下に組み敷かれていた。
「な…っ、なん…ッ?!」
 見開く空色の瞳にロイは薄っすらと笑う。唇を寄せるとハボックの目元をペロリと舐めた。
「ほら、空ならもっと綺麗なのがここにある」
「…?!何アホウな事言ってるんスかッ!ちょっと、離してくださいよッ!!」
 そう言ってもがくハボックの瞳は困惑と羞恥と僅かばかりの怒りに揺れている。まるで景色を映し出す湖面のようにハボックの感情を映し出すこの空色の瞳が、ロイは堪らなく好きだった。
「ああ、そうか。お前には見えないんだな、この綺麗な空が」
 ロイはくつくつと笑ってハボックに口付ける。眼を開けたままねっとりと舌を絡めれば焦点が合わないほど近づいた空色の瞳が大きく見開かれた。ロイはそのまま眼を開けた状態でハボックの身体に手を這わせ始める。一瞬大きく開いた空色が戸惑ったように揺れたかと思うと、下からグイグイ押し上げようとする手の動きに気付いて、ロイは一度唇を離すとハボックの両手を一まとめに頭上へと押さえ込んだ。
「たいさっ!」
「綺麗な空を見せてくれるんだろう?」
「オレの目は空じゃねぇっ!つか、朝っぱらから何サカってんスかっ!!」
「お前が煽ったんだ、その綺麗な瞳で」
 そう言われてハボックが驚いたように目を見開く。ロイは指先で桜色に染まったハボックの目元をそっと撫でて言った。
「この目で見つめられるとゾクゾクする。この目を涙で濡らしたくなる、快楽に染めてやりたくなる」
「アンタ、何言って……」
「私だけを見つめて、私だけを映させたくなる……」
「た…さ…っ」
「私だけの空だ」
 ロイはそう言ってうっそりと笑うと、自分だけの空を雨で煙らせる為に深く口付けていった。



09/04/19