| 01. 髪 |
| やっと暑い夏も終わりを告げ、ようやく秋らしくなった今日この頃、昼寝をするには最適の季節だ。そうともなれば部屋にこもって書類仕事なんてやっていられる筈もない。 有能な副官の目を盗んで執務室を抜け出し、中庭の片隅で爽やかな風に吹かれながら午睡としゃれ込んでいると聞きなれた足音がしてまどろむ私の顔を覗き込む気配がした。まだ半分寝ている私の意識は目を開けることを拒否しているので、その気持ちを尊重して目を閉じたままでいれば呆れたような声が降ってきた。 「まぁたこんなところで寝て。」 声の主はそうぼやくと私を起こそうと肩に手をかける。 「大佐、起きてください。中尉がカンカンっスよ。」 目覚ましには最適な言葉を吐き出す男を、私は渋々と開けた目で睨みつけようとした。睨みつけるつもりで開いた視線の先。 一面の秋の空色をバックに陽に透ける金色の髪。短く切りそろえたそれは私を見下ろす体勢のため彼の端正な顔を覆うように垂れ下がっていて、まるで画家が描いた宗教画の神々を縁取る後光のように見えた。 「たいさ?」 目を開けたまま微動だにしない私を心配するかのように名前を呼ぶ。問いかけるように僅かに傾いだ首の動きに合わせてふわりとなびいた髪からは太陽の匂いがした。手を伸ばしてその前髪を引っ張ればハボックが僅かに目を見開く。何をしたいのだろうと様子を見ていた彼は、特別な意味はないのだと気づいて私の手を掴んだ。 「痛いっスよ、たいさ。」 小さな子供をたしなめるような優しい口調。 「ほら、起きて。仕事してくださいよ。」 そういえば当然私が起きるだろうと思っているハボックの手をグイと引いた。 「うわっ?!」 全く警戒していなかったハボックはいともたやすく私の胸に飛び込んでくる。胸にその頭を抱きこんで、蜂蜜色に輝くその髪に手を差し入れた。 「ちょ…たいさっ?」 その金色の髪を梳き、指に絡める。意外と柔らかくさらさらとしたそれはすぐに解けて指に残りはしなかった。それが気に入らなくて、5本の指でギュッと掴んでグイグイと引っ張れば流石のハボックも悲鳴を上げる。 「いっ…いたっ…たいさっ、痛いっ!やめ…んんっっ?!」 髪をグイと引っ張ったまま強引に口付ける。散々に口内を舐めまわした後唇を離せば、ハボックが目尻を染めて睨んできた。 「もうっ!なんなんスか、いったい…。」 ハボックはそうぼやくと力の抜けた手から抜け出して立ち上がる。私の腕を掴んで強引に立ち上がらせると服についた芝をパンパンとはたいた。 「ほら、もう戻らないと。」 そう言って歩き出すハボックの髪を風がなぶる。風にのってさらさらと彼の髪から金色の光が零れ落ちていくような、そんな気がした。 09/02/05 |