予定 その後


 もうとっくに時計の針は終業時刻を過ぎて、外はとっぷりと暮れている。ホークアイの監視下の下、溜めに溜めまくった書類にサインをしているロイのところへハボックはコーヒーを持ってきた。書類を少し寄せて置く場所を作るとコトリとカップを置く。それからソファーで書類の仕分けをしているホークアイのところにも同じようにカップを置いた。
「どうぞ、疲れたでしょう、中尉」
「ありがとう、少尉」
「どうです?終わりそうっスか?」
「そうね、あと1時間もあれば」
 にっこり笑うホークアイは昼間の彼女とはうって変わって機嫌がいい。いつでもホークアイにこういう顔をさせておいて欲しいものだとハボックが思ったとき、机の方からぼそりと呟く声が聞こえた。
「くそ……今日の予定が全部パアじゃないか……」
 ぴくりと肩を震わせてホークアイがゆっくりと立ち上がる。その動きにロイがギクリとして書類から顔を上げた。
「大佐。予定がパアになったのは私の所為とでも?」
「いやっ、そんなつもりで言ったんじゃっ」
「パアになったのはそれもこれも全部大佐の所為、ですわね」
「判っているともっ!私が悪かったんだ、私がっ!」
 慌ててそう答えるロイとホークアイのやり取りに小さくため息をついてハボックは何の気なしに壁を見る。そこには昼間ロイが貼った本日の予定表なるものが、大きなバッテン印をつけられて貼られたままになっていた。ハボックはバッテンだけでなく、思い切りペンで線を引かれた4つ目の予定を見て眉を顰める。
 『4.ユリアナ嬢と食事』
 線が引かれてもなおはっきりと読める文字にハボックは小さく舌打ちした。
(ったく、いつの間にこんな約束……)
 全く油断も隙もあったものじゃない。
(今夜はきっちり説明してもらおうじゃないっスか。)
 ハボックはそう考えて、残った雑務を片付けるべく執務室を出て行ったのだった。


 家に戻って遅い夕食を取り終えるとロイはいつものようにソファーへと移動する。そこでだらりと寛いで雑誌など捲っていると、ハボックがコーヒーのカップを手にやってきた。
「ありがとう、ハボ――」
 そう言って受け取ろうと差し出した手に、だがハボックはカップを渡そうとはせずにロイを見下ろす。その冷たい視線にロイは思わずぎくりとして出した手を引っ込めた。
「大佐。ちょっと聞きたいことがあるんスけど」
 ハボックはそう言うと手にしたカップをテーブルに置く。ソファーの背に手を置いて身を乗り出すようにしてロイの顔を見つめると言葉を続けた。
「大佐。いつの間にユリアナ嬢と食事の約束なんて取り付けたんです?」
「い、いつの間にって、この間視察に出たときだが」
「この間?3日前の?」
 こくりと頷くロイに、ハボックはその視察の間でロイが女性とそんな会話をする暇があったろうかと首を捻る。するとロイが自慢げに言った。
「ほら、お前が小さいレディの風船を取ってやった時があったろう?」
 そう言われてハボックは3日前のことを思い出す。子供が持っていた風船を飛ばして木に引っ掛けてしまい、それを見ていたハボックは木に登って取ってやったのだ。だが、そんなのはほんの僅かの時間でしかなかったはずだ。
「あの木の近くがちょうどユリアナ嬢の勤めるカフェだったんだ。何度か話をしたことがあるが頭のいい素敵なご婦人だぞ」
 にっこり笑ってそう言うとロイは言葉を続けた。
「もう少し話をしてみたくて食事に誘ったんだが中尉のおかげでドタキャンになってしまったな。今度お詫びも兼ねて食事に誘って―――」
「大佐」
 そのとき、自分の言葉に割って入ったハボックのどすの利いた声にロイは思わず口を噤む。慌てて見上げたハボックの瞳が剣呑に細められていて、ロイはソファーの上を後ずさった。
「ハボック……?」
 恐る恐る名を呼べばハボックの眉間の皺が深くなる。
「1つ聞きたいんスけど」
「なんだ?」
「オレと大佐って付き合ってるんですよね?」
「そのつもりだが」
「じゃあ、オレのこと、好き?」
「そ、そんなこと……」
 言うまでもないことじゃないか、とロイは思う。好きでもない相手と一緒に暮らしたり、ましてやあんな恥ずかしいことをさせるわけないじゃないか。ロイはそう思ったが、恥ずかしくて口を噤んだまま何も言わなかった。
「ねえ、ちゃんと答えてくださいよ。オレのこと、好きっスか?」
「そっ、そんなの言わなくても判るだろうっ」
「判りませんよ。よそのオネエチャンと食事の約束取り付けるような、そんなこと平気でやってんのに」
「別に食事くらいどうってこと―――」
「大佐」
 さっきよりも更に不機嫌さの滲む声にロイは口を噤む。ハボックがそこまで怒る理由がピンとこないものの、それでもこの状況がよくないものであることは流石のロイにも何となく察せられた。
「オレはね、大佐。自分が好きで付き合ってる相手が、他の人間と二人きりで楽しく過ごしてるのを我慢できるほど心が広いわけじゃないんスよ。むしろ、オレってすげぇ心の狭い人間なんです」
 ハボックはソファーの袖に背をつけてなるだけ距離をおこうとするロイにずいと顔を寄せると言う。
「この際だからその事をよっくわかってもらおうと思いますんで」
 これからゆっくり付き合ってください、そう言って伸びてきたハボックの腕をかい潜ってロイはソファーから転がり落ちた。テーブルの周りを回って四つん這いのまま逃げ出そうとするロイの足首をハボックの大きな手がグイと掴む。
「あっ!はなせっ……このっ」
 掴まれていない方の脚でハボックを蹴りつけると、ハボックは綺麗にそれを受け流して蹴りつけてきた方の脚も掴んでしまった。
「っとに足癖の悪い……っ」
「あっ、くそっ……このっ、はなせっ!」
 もがくロイの両脚をぐぐぅと引っ張ると、ハボックは床に座り込んだ自分の体をロイの脚で挟むように抱え込む。ロイは頭を床につけたまま両脚をハボックの腕に抱え込まれ、股間をハボックに突き出すように開かれていた。
「何するんだっ!」
 腹筋を使って起き上がろうとするロイの胸をポンと押して再びロイの頭を床につけさせると、ハボックは更にグイとロイの脚を引いて抱え込む。目の前のロイのズボンの前をくつろげながら答えた。
「お仕置」
 ハボックはそう言うとズボンの中からロイ自身を取り出す。先端をちゅうと吸い上げるとカプと咥えこんだ。
「ひあっ……やっ、やめっ!」
 ロイはハボックを振り払おうと体を起こそうとして、自分の股間の間から覗く自身を咥えたハボックの顔をばっちりと見てしまう。そのあまりに恥ずかしい光景にロイはみるみる内に真っ赤になった。
「あっ……やっ、やあ……っ」
 先だけ咥えたハボックが穴をちろちろと舌先で嬲りながらカリの部分を唇で引っ掛けるようにして擦る。片手で棹を扱かれて瞬くうちに熱が膨れ上がった。
「だめっ……でるっ……やめ……っ」
 ブルブルと震えるロイに構わず、ハボックは奥まで咥えると頬と喉を使って締め上げる。じゅぶじゅぶと擦られてロイは堪らず熱を吐き出してしまった。
「あああっっ」
 ビクビクッと震えながら熱を吐き出すとロイはぐったりと床に体を投げ出す。荒い息を零していると、ハボックがロイのズボンに手をかけ、膝辺りまでずり下ろしてしまった。そうしてロイの尻を両手で抱きしめるようにすると、指を1本蕾に差し入れる。
「んあっっ」
 ぴくんと体がはねるのも構わずハボックは差し入れた指をぐちぐちとかき回す。次々と沈める指の数を増やしながら再び立ち上がってきたロイ自身にねっとりと舌を這わせた。付け根から先端をぬるんと舐めあげ、舌先でツンツンと刺激する。その合間にも沈めた指でロイの感じるところを何度も擦りあげた。
「いっ……あっ……ああんっ」
 明るい居間で股間だけを、それも相手の顔に突き出すように曝け出して、ロイは恥ずかしさと同時に異様な興奮を覚えてしまう。さっき出したばかりだというのにもうすっかりと自身をそそり立たせて、その先端からとろとろと蜜を零していた。
「ん……くぅ……イヤ……いやぁ……っ」
「嫌じゃないデショ。こんなにヨダレ垂らして……」
 ハボックはそう言うと零れた蜜を舌で掬う。散々に嬲れば間を置かずにロイは二度目の射精をした。ハアハアと荒い息を零すロイにハボックは楽しそうに笑う。そして再びロイを追い上げる為ロイの中心に指を這わせた。
「あ……や……も、いやっ」
 ロイは紅く染まった顔を腕で隠してポロポロと泣き出してしまう。それでも容赦なくかき立てられる快感に、抗う術もなく熱を吐き出した。
「あ……ハボ……ハボっ」
「なんスか?」
 最初のうちロイの蕾を散々嬲っていた指は今はもう引き抜かれ、時折悪戯に蕾の淵に触れていくだけだ。快感に蕩かされたロイの体は、もっときつい刺激を待ち望んで力なく震えていた。
「ハボ……ねぇ……っ」
「はっきり言ってくれないとわかんないっすよ」
 そう言ってハボックはまたロイ自身に舌を這わせる。ロイが望んでいることなど判りきっている筈なのに意地悪くそう言うハボックをロイは悔しそうに睨んだ。それでも、ハボックの指先がするりと蕾に触れるたびひくりと蠢くそこにハボックの熱をねじ込んで欲しい欲求はもう抑えていられず、ロイは震える声でハボックに言った。
「ハボの……挿れて……おねが……」
「イヤです」
 強請れば叶えられると思っていただけにピシャリと拒絶されてロイは目を見開く。ハボックは薄っすらと笑いながらロイの中心を弄びながら言った。
「別にオレ、挿れたくないっスから」
「な、んでっ」
「お仕置だって言ったデショ。アンタがして欲しいことしてやったらお仕置にならないじゃないっスか」
 ハボックはそう言うと楽しそうにロイの中心に舌を這わせる。こみ上げる快感に体を震わせながら、ロイは涙を零した。
「やだ……んなの……いやぁっ」
 ふるふると首を振ってロイは涙に濡れる目でハボックを見た。
「ハボ……欲しい……っ」
 ロイは必死にハボックに手を伸ばして言う。
「ハボ……おねが、い……」
 しゃくりあげるロイを暫く見つめていたハボックはロイの手を引くとその身を起こしてやった。自分の脚の上に座らせると涙の零れる頬を手のひらで拭ってやる。
「そんなに欲しいんスか?」
 そう聞けばロイはコクコクと頷いた。ハボックはロイの体を抱き寄せるとその耳元に囁く。
「じゃあ、さっきの質問に答えてくださいよ」
「さ、さっきの……?」
「そう、さっきの」
 そう言われてロイは快感に蕩けた頭を必死に巡らせた。いつもは明晰な頭脳も膜がかかったようにハボックの質問が思い出せない。
「答えてくれないならあげません」
 ハボックの言葉にロイは新たに涙を零すと嫌々と首を振る。ハボックの頭を引き寄せて唇を寄せると何度もその名を呼んだ。
「ハボック……ハボ…っ」
 ハボックは縋りつくロイの頬を両手で包むと聞いた。
「答えて……オレのこと、好き?」
「あ……」
「こたえて」
 自分を見つめる紺青の瞳にぞわりと快感が背を駆け上がる。そのたった二文字の言葉を口にするのが、こうして嬲られるよりもっと恥ずかしくて、ロイはハボックの胸に顔を寄せた。
「たいさ……」
 耳元に囁く声にびくんと体が震える。キュッとハボックの背に回した手でシャツを握ると必死の思いで呟いた。
「す……すき……」
「ホントに?」
「スキじゃなかったらこんなこと、赦さない……っ、ハボだから……ハボだけに……」
 お前だけに赦すのだとそう囁くロイに、ハボックは噛み付くように口付ける。滾る己を取り出すと一気にロイを貫いた。
「あっあああああっっ!!」
 仰け反る体を引き戻して深いところを抉る。そのまま容赦なく抜きさしすればロイの中心から熱が迸った。
「あっ……ああっ……ハボ……ッ」
「た、いさっ」
 望んでいたものをようやく与えられてロイはうっとりと微笑む。その唇を己のそれで塞いできつく舌を絡めれば、ロイの手がハボックの背をかき抱いた。
「んっ……く……ああっ……イイっ」
 自分からも腰を揺らすロイをハボックは何度も突き上げる。嬌声を上げるロイの耳元にハボックは囁いた。
「もう、どっかの女に声かけたりしたらダメっスからね……」
「んんっ……ああんっ……ハボ……」
「オレの言ってること、聞こえてる?」
「ぅんっ……も、しない……しないから……っ」
 中に出してと呟くように強請るロイにハボックは眉を寄せる。
「っとに、性質(たち)わりい……」
 そう言いながらもハボックはロイの腰を抱えてきつく突き上げた。
「あっあっあっ」
 びゅくびゅくと熱を吐き出すロイの最奥を穿つとハボックは熱い飛沫を迸らせたのだった。


 くったりと胸に寄りかかってくるロイの髪を撫でながらハボックはロイの顔にキスを降らせる。ぼんやりとそのキスを受けているロイにハボックは言った。
「アンタ、さっき自分で言ったこと、忘れないでくださいよ」
「さっき?」
「忘れたとは言わせませんから」
 そんなことを言われても、快楽に蕩けていた頭は記憶がすっぽりと抜け落ちていて。
「もう女の子に声かけないって約束したでしょう?」
「えっ、そんなこと、言ったか?」
 思わず叫んでしまってから慌てて口を手で押さえたがもう遅い。
「たいさ……アンタって人は……」
 ジロリと睨んでハボックがロイに言った。
「今度やったら公衆の面前でアンタを抱きますからね」
 本気の瞳にごくりと唾を飲み込んで。ついうっかり予定表なんてバカなものを作ってしまったことで引き起こした事態にロイがたっぷりと後悔したことは言うまでもない。


2007/9/10


いっそ公衆の面前で抱いてみて欲しいと思ったり(←おい)