約束つづき


 まるで離したらそのまま消えてしまうとでも言うように、ハボックのシャツから手を離そうとしなかったロイだったが、それでも、暫くすると二人の側で辛抱強く待っていてくれた女性の存在に気がついた。ロイがハボックから視線を離して彼女を見れば、ロイに向かってにっこりと微笑む。
「よかった、ここがミスターの帰りたがってた場所なんですね」
 涙を薄っすらと浮かべてそう言う女性にロイが何か言おうとした瞬間、ドタドタと足音がしてブレダたちが駆け寄ってきた。
「ハボっ!!」
「しょういぃ!!」
 ガシガシと乱暴にハボックの髪をかき混ぜるブレダにハボックが言った。
「えっと…ブレダ、ただいま」
 確かめるように言葉を口にするハボックの顔をブレダが覗き込む。
「頭打ったのか?オレのことわかるか?」
「うん、ここに帰ってきたら色々思い出した。でもまだボーっとしてる」
「少尉っ、お帰りなさいっっ」
「ただいま、フュリー」
 泣き笑いするフュリーにハボックは答えて、それから自分達の側にいたエリカを指した。
「彼女がオレをここまで連れてきてくれたんだ」
 ハボックの言葉に一斉に向けられた視線にちょっと戸惑うエリカにブレダが言う。
「ありがとう。ホントになんて礼を言ったらいいか」
 ブレダはそう言うとエリカを中へと促した。先に立って歩くブレダ達に遅れて歩きながら、ロイは支えるハボックを見上げた。
「ハボック」
 言いたいことは山ほどある気がするのに、何も言葉にならない。万感の想いをこめて見つめればハボックが笑う。
「たいさ」
 ただその一言で全身が喜びに震えるようだ。ロイは幸せそうに微笑むと、ハボックの腰に回した腕に力をこめる。それに答えるように肩に回された手にぎゅっと引き寄せられて、ロイは泣きそうに顔を歪めた。
 二人が司令室に入っていくと、どっと拍手が沸き起こる。普段はクールなホークアイですら泣き笑いのような表情を浮かべて
ハボックを迎えた。「少尉、よく帰ってきたわね」
「ご心配おかけしました、中尉」
 ハボックの言葉に軽く頷くとホークアイはエリカを見た。
「あなたが少尉の命の恩人ですね」
 リザ・ホークアイです、と手を差し出すホークアイに続いて、皆が名前と共に手を差し伸べる。最後にハボックを支えたロイがゆっくりと手を伸ばした。
「ロイ・マスタングです。あなたには感謝しても仕切れない」
 エリカは差し出された手をしっかりと握ると緩く首を振る。
「エリカ・ローエンです。看護士をしています。ハボックさんを無事にお連れすることが出来て本当によかった」
 そう言って笑うエリカをまっすぐに見つめてロイが言った。
「あなたが困った時にはこのロイ・マスタングが必ず力になります。何をおいても駆けつけましょう」
 そう言い切る瞳にエリカは目を見開く。次々と同意の声があがるのに、エリカは戸惑うように首を傾げた。
「えと、ハボックさんはまだ入院していないといけないんです。先生から診断書を貰ってきてますので…」
 ホークアイは差し出された書類を受け取ると答える。
「すぐに病院に連絡を入れます。エリカさん、今夜はどうぞこちらに泊まっていってくださいね」
 ホークアイがそう言えばブレダ達がご馳走しますだのなんだのと口にする。それを見ていたホークアイは視線をロイに移すと優しく微笑んだ。
「大佐、少尉も疲れているでしょうから執務室で休ませてあげてください」
 そう言われてロイは僅かに目を見開いたがホークアイを見つめると言った。
「ありがとう、中尉」
 心からの謝意をこめて囁くロイにホークアイは頷く。ロイはハボックを支えながら執務室に入るとハボックをソファーに座らせた。
「たいさ」
 伸びてくる腕に逆らうことなくロイはハボックに身を寄せていく。ゆっくりと合わさった唇が瞬く間に深く交わり、二人はお互いを貪りあった。隙間なくぴたりと体を寄せ合ってロイはハボックの匂いを全身で感じ取る。長かった不在を埋めるように、二人は何度も唇を重ねたのだった。


2007/06/13