豆騎士 続続・身長編


「まったくもう……ッ、あんな事聞くみんなもみんなだけど、大将だってあんなあけすけに言わなくても……ッ」
 ハボックは司令部の廊下をドカドカと靴音も荒く歩きながら呟く。羞恥と困惑と少しの怒りとで涙目になった目尻を赤く染めたハボックは、勢いよく曲がった角の向こうから来た人物と思い切りぶつかってしまった。
「うわっ?!」
「ッと」
 ぶつかった勢いのままハボックは後ろによろめく。長身のハボックとぶつかったにもかかわらず軽い驚きの声を上げただけの相手は、よろめくハボックの腕をグイと引いて支えてくれた。
「なにをやってるんだ、お前は」
「大佐っ?」
 半ば呆れたような声に視線を向ければロイが僅かに眉を寄せて立っている。ハボックの顔を見て一瞬目を見張ったロイは、ニヤリと笑った。
「なんだ、また鋼のに苛められたか?」
「ッ?!別にそんなんじゃねぇしッ!」
 からかうような言葉にハボックはムッとしてロイの手を振り払おうとする。だが、ロイは掴んだ腕を引き寄せるようにしてハボックに顔を近づけて言った。
「泣いてるじゃないか。どうせあのやんちゃ坊主に好き勝手なことされたんだろう?」
 可哀想になぁ、とロイは軽く首を振る。
「いっそ私に乗りかえないか?」
 ロイがそう優しく囁いた時。
「なに人の恋人にちょっかい出してんだよッ、このエロ大佐ッッ!!」
「大将っ?」
 ハボックを追いかけてきたエドワードが金色の目を吊り上げて二人に近寄ってきた。ハボックに身を寄せるロイから大事な恋人を引き剥がすように取り返すと、背後に庇いながらロイを睨む。
「アンタみたいのがいるからああやって虫よけをしなくちゃいけなく───」
「あんなもん大した役にたたん。むしろいらん興味を煽るだけだ」
 エドワードの言葉を遮ってロイはフンと鼻を鳴らした。
「お前はハボックをほったらかしにしている。コイツが他の誰かに心変わりしたところで責める権利はない、違うか?」
「な……ッ、俺は少尉をほったらかしになんて……ッ」
 ロイの冷たい言葉に反論しようとしてエドワードは言葉に詰まる。グッと拳を握り締めるとエドワードは踵(きびす)を返して走り去ってしまった。
「大将っ!……大佐!」
「事実だろう?現に鋼のだって言い返せなかった」
「だからって言い過ぎっス!」
 ハボックはそう言うとエドワードを追って走り去る。
「ちょっとした意地悪だよ、お前が鋼のに甘すぎるからな」
 その背を見送ってロイはそう呟いた。


「大将ッ、待って、大将!!」
 ハボックは扉を抜けて中庭に出たところで漸くエドワードに追いつく。腕を掴めばその手を振り払ったものの、エドワードはそれ以上は逃げずに立ち止まった。
「大佐のいう事なんて気にする必要ないから」
「でも本当の事だ」
 ハボックが言えばエドワードが背を向けたまま答える。暫しの沈黙のあと、ハボックが口を開いて言った。
「それでもオレは大将の事が好きだけど」
 その言葉にエドワードが弾かれたように振り向く。見上げてくる金色の瞳を見つめてハボックが言った。
「大将が旅に出てる間、オレの事なんてろくに思い出さないの、判ってる。でもオレは大将が好きだよ」
 そう言って笑う空色にエドワードは顔を歪める。何度も口を開きかけて、そうして俯くと吐き出すように言った。
「俺は卑怯だ。少尉の事ほったらかしにしてるのに、それでいて縛り付けておきたいと思ってる」
「うん、知ってる」
「俺はズルイ」
「でも好きだよ」
 その言葉にエドワードは顔を上げてハボックを見る。いつもと変わらない飄々とした顔で見下ろしてくるハボックをじっと見つめて、エドワードは言った。
「なあ、軍やめて俺と来ない?」
「それは無理、判ってるだろ?」
「大佐がいるから?」
 そう聞けばハボックが笑みを浮かべる。それを見てエドワードが吐き捨てるように言った。
「くそッ、あのエロ大佐っ!いっそぶち殺してやりたい」
「そんな事したらオレは大将を殺すよ」
 なんの気負いもなく吐き出された言葉にエドワードは目を見張る。それから目を逸らすとガリガリと頭を掻いて言った。
「なんで大佐より先に俺が少尉に出会わなかったんだろう」
「それを言うなら大将だってオレより先に大佐に出会ってるじゃん」
 おかしそうにそう返されてエドワードは鼻に皺を寄せる。
「諸悪の根源は全部大佐だ」
「でも優しい人だよ、こうやってオレ達に話す機会くれてる」
 そう言って笑うハボックにエドワードは不満そうに顔をしかめた。
「少尉がそんなだから心配になんだよ」
「なんで?こんなに大将一筋なのに」
「判ってるけどっ」
 笑っている年上の恋人にエドワードは視線を逸らして怒鳴るように言う。暫くの間空を睨み上げていたが、ハボックに視線を戻して言った。
「なあ、俺、そのうちデカくなるから」
「うん」
「大佐よりも少尉よりもデカくなって誰にも負けないイイ男になるから」
「うん」
「だからずっと俺といよう」
「うん」
 笑って頷く空色にエドワードはホッとしたように腕を伸ばす。
「まあ、デカくなったらもっと少尉の事啼かせちゃうと思うけどな」
「それは余計」
 もう、とため息を零す唇を引き寄せて、エドワードはそっと口づけたのだった。


2011/11/17