豆騎士 熱愛編 その後のその後のその後


「ただいま、戻りました……」
 執務室の扉をガチャリと開いてハボックが顔を出す。くたびれた顔で部屋の中を見回すハボックが誰を捜しているのか察して、ロイが言った。
「鋼のならもう行ったぞ」
「───そうっスか」
 ロイの言葉にハボックは一瞬目を瞠って、それからポツリと呟いた。
「ちょっと休んでいったらどうだ?」
「……いいんスか?」
 その疲れた様子にロイが言えばハボックがロイに視線を向ける。ロイが頷くのを見て、ハボックはソファーに腰を下ろした。
「ッ、〜〜ッッ」
 途端にハボックは声にならない声を上げて顔を歪める。それを見たロイがため息をついて言った。
「まったく、子供の好き勝手にさせるなんて」
 どれだけ甘いんだ、とロイが呆れたように言えばハボックが苦笑する。ロイはくったりとソファーに沈み込むハボックの隣に座って言った。
「お前が鋼のを抱こうとは思わなかったのか?」
 その方が自然だろうとロイが言う。そうすればハボックが困ったような顔をして答えた。
「だってオレがシたら大将、動けなくなっちまうじゃないっスか。すぐ旅に出んのに拙いっしょ?オレだったら多少きつくても何とかなるし」
「……まったく、ベタボレだな」
 呆れたような感心したような口調で言われて、ハボックが恥ずかしそうにボリボリと頭を掻いた。
「鋼のは気づいてないんだろう?」
「別にわざわざ言うことじゃないっしょ?オレはただ、大将が元気に出かけて元気に帰ってきてくれたらそれでいいんス」
 ハボックはそう言って窓の外へ目をむける。その瞳が弟と二人きり過酷な運命を切り開こうとしている大切な存在への深い愛情を浮かべているのを見て、ロイは尋ねた。
「鋼のと一緒に行きたいか?」
「えっ?」
「もし、お前がそうしたいと言うなら───」
「大佐」
 言いかけた言葉を遮ってハボックはロイの腕を掴む。ロイの顔を覗き込むようにしてハボックが言った。
「オレは大佐の役にはたってないっスか?オレは大佐に必要ない?」
「そんなことはないが」
「だったら!」
 ロイが発した否定の言葉に被せるようにしてハボックは声を張り上げる。
「だったらオレはここにいます。軍人として大佐の役にたちたいんス!」
「ハボック」
 真っ直ぐに見つめてそう言いきるハボックにロイは目を瞠る。それからフッと笑みを浮かべて言った。
「いいだろう、そう言うならたっぷり働いて貰うぞ」
「勿論っス」
 ハボックはロイの言葉にホッとしたように答える。照れたように笑うとハボックはゆっくりと立ち上がった。
「休ませて貰ってありがとうございました」
「ああ」
 答えるロイにハボックがピッと敬礼して執務室を出ていく。背の高い後ろ姿が部屋の外へと消えてパタンと扉が閉まるとロイはそっとため息をついた。
「怒るなよ、鋼の」
 二人の間に割り込む気は毛頭ないが、道を切り開くためにハボックはロイにとって必要不可欠な存在だ。多少の罪悪感と共に胸にあるのが優越感とは気づかぬふりで、ロイはエドワードがいる場所へと続く空を見上げたのだった。


2011/05/28

* この話は無料配布コピー本「ワガママな王様と純情な騎士」「小さな暴君とお人好しの騎士」に収録された「豆騎士熱愛編」「豆騎士熱愛編その後」の続きです。