| 豆騎士 無い物強請り編 |
| 「おう、ハボ。帰ってきてるぜ」 「ホントか?!」 演習を終えて司令室に戻ってきたハボックにブレダが言う。友人が指さした執務室の扉の中にいるであろう人物を思い浮かべて、ハボックはノックもそこそこに扉を開けた。 「たいしょ―――」 「でもさぁ大佐。その場合の構成式って」 かけようとした言葉に被さるように聞こえたエドワードの声にハボックは思わず口を噤む。ソファーに向かい合わせに座ったロイとエドワードが、どうやら錬金術談義に花を咲かせているらしいことに気づいて、ハボックは開いた扉をそっと閉めた。 「あれ?中にいただろう?」 執務室に入ると思いきや戻ってきたハボックを見てブレダが不思議そうに尋ねる。ハボックは曖昧な笑みを浮かべたが、なにも言わずそそくさと司令室を出た。その足で廊下の突き当たりの階段を上がり屋上へと出る。手すりに寄りかかってイーストシティの街並みを見下ろしたハボックは、はああ、と深いため息をついた。 「オレも錬金術が使えたらな……」 使えないまでもせめて理解出来ればと思う。ロイとエドワードが錬金術の話を始めてしまえば二人の存在は酷く遠く、ハボックには近寄り難くさえあった。そしてなにより彼ら錬金術師が抱える苦悩を、支えることも理解することも出来ずに見ていることしか出来ない自分が情けなかった。 「あーあ……」 ハボックはため息をついて遠い空を見つめる。手すりに載せた手に顎を預けてぼんやりと煙草の煙が空に吸い込まれて消えていくのを眺めていたハボックは、不意に肩を引く手にゆっくりと振り返った。 「……大将」 「なにやってんだよ、少尉。探したんだぜ」 ほんの少し不満を滲ませて言う少年をハボックはじっと見つめる。“おかえり”とも“会いたかった”とも言っていってくれないどころか腕さえ伸ばしてくれないハボックにエドワードは眉を顰めた。 「少尉?」 「大佐と話さなくていいのか?オレといるより大佐といた方が色々大将の為になるだろ」 ハボックはそう言って視線を逸らす。自分ではなくイーストシティの街並みを見つめるハボックに、エドワードはムッと唇を歪めてハボックの腕を掴んだ。 「大佐といた方が為になるってなんだよ。少尉は俺が帰ってきて嬉しくねぇの?」 「…………だってオレは大将の話し相手にも相談相手にもなれねぇし、ここにいられる時間は限られてるんだから有意義に過ごした方がいいに決まってんじゃん」 だから行けよ、と視線を合わせようともせずに言うハボックにエドワードはカッとしてその長身を強引に引き寄せた。 「俺は少尉と一緒に過ごしたいんだよッ!なんでそんな事も判んねぇんだッ!!」 声を荒げて睨んでくる金色の瞳にハボックは息を飲む。エドワードはハボックの腕を掴む手に力を込めて言った。 「限られた時間だから少しでも長く少尉と一緒にいたいんだ。少尉と過ごして元気貰って、そうして俺は旅に出られるんだから」 「……大将」 「そんな顔しないで笑ってくれよ、少尉。俺、少尉が笑って迎えてくれるって判ってるから旅に出られるんだ。ここに帰ってくれば必ず少尉が俺を笑って抱き締めてくれるって判ってるから旅を続けられるんだよ」 エドワードはそう言ってハボックを抱き寄せる。 「少尉がいるから頑張れるんだよ、俺は」 「たいしょ…ッ」 「笑って、少尉。俺、少尉の笑顔が一番好きだぜ」 そう言って口づけてくる少年の唇を、ハボックは泣き笑いのような表情を浮かべて受け止めたのだった。 2010/07/11 |