豆騎士 続・片恋編


「ただいまっ、少尉!」
 司令室に向かう廊下の途中、せっかくの長身を少しばかり猫背に丸めて歩く姿を見つけて、エドワードは大声で叫ぶ。そうすれば振り向いた空色が自分の姿を認めて優しく細められるのを見て、エドワードは満面の笑みを浮かべた。
「おう、大将、おかえり」
 そう答えるハボックのところで止まりきれず、エドワードは少し行き過ぎたところで足を止める。そうすれば、すぐに追いついてきたハボックの手が伸びて、エドワードの頭をポンポンと叩いた。
「元気そうだな、大将」
「当たり前だろ。少尉は相変わらずデカいな」
 エドワードは身長差を強調するようなハボックの仕草にわざと軽口を叩くように言う。少しは伸びているにもかかわらずちっとも縮まらない差を嘆けば、クスリと笑う青年にエドワードはまた彼のところに帰ってこられたのだと実感した。
 ロイの片腕であるハボックは気さくで人懐こい事もあって、エドワードにとっては彼を取り巻く大人たちの中で出会った当初から割と親しい存在だった。そんなハボックがエドワードの中でその存在の大きさを増したのは、ある小さな事がきっかけだった。
 捜し求めている石の情報が数回続けて空振りに終わり流石にへこんでいたものの、持ち前の意地っ張りと強がりがそれを外に出すことを良しとしなかった。普段通り、明るく元気に振る舞うエドワードを見ていたハボックがぽつりと言ったのだ。『辛いときは泣いていいんだぜ』と。それに反論しようとするエドワードの頭をガシッと腕に抱え込んだハボックが『今日の風は涙が出そうなほど冷たいなぁ』と言った時、強がりの少年の目から溢れた涙がハボックの軍服の袖を濡らした。少しして顔を上げたエドワードが『今日の風は冷たすぎる』と騒げば色の変わった軍服に気づかぬフリで笑ってくれたハボックが、エドワードの中で大きな存在になったとして何の不思議があったろう。
(まあ、少尉にとっちゃ特別なことでもないんだろうけどさ)
 彼のあの優しさは特別自分だけに向けられるものではないのだろう。それでもエドワードはハボックの優しさが嬉しかったし、もし出来ることならあの優しさを独り占めしたいと思う。
「あ、そうだ、少尉。俺、今回はちょっと長くここにいるんだけどさ、この間のシチュー、また食わせてくんない?」
「いいよ、ここんとこそんなに忙しくないし。そうだな、明後日の夜はどう?」
「オッケ、オッケ!やりぃ、少尉の料理、楽しみにしてたんだよ」
 司令部に来る前から考えていた言葉をさも今思いついたとでもいうように言えば、望んでいた答えが返ってきてエドワードは内心小躍りした。
「よし、少尉のシチュー、食えることになったし!大佐にガツンと一発言ってくるぜ!」
「あはは、程々にな、大将」
 優しく笑う空色にいつか自分だけを映させてやるのだと、エドワードはそう思いながらハボックが誰よりも敬愛してやまない錬金術師の部屋の扉に手を伸ばした。


2011/11/25