豆騎士 片恋編


「ただいまっ、少尉!」
 バタバタと大きな足音と共に聞こえた元気な声に、司令室に向かって廊下を歩いていたハボックが振り向く。鎧姿の大きな弟とは対照的に小柄な体で飛ぶようにかけてくる少年を見て、ハボックは空色の目を細めた。
「おう、大将、おかえり」
 エドワードはスピードを緩めきれずにハボックを少し行き過ぎたところで足を止める。ハボックは数歩歩いてエドワードに並ぶと金色の髪をポンポンと叩いた。
「元気そうだな、大将」
「当たり前だろ。少尉は相変わらずデカいな」
 少しは伸びたんだけどなぁ、となかなか縮まらない身長差を嘆くエドワードにハボックはクスリと笑った。
 いつの頃からだったろう。この十も年下の少年に恋心を抱くようになったのは。姉ばかり四人もいる末っ子で、小さな頃から弟が欲しいと思っていたせいで、自然と時折イーストシティに立ち寄るこの少年に目が向くようになっていたのかもしれない。たった十五でとてつもない運命に敢然として立ち向かっていくその力強い眼差しに、気がついた時にはどうしようもなく惹かれていた。ごく偶のほんの少しの邂逅に、交わされる短い言葉の端々に、エドワードの強さと優しさを垣間見る度ハボックは彼に惹かれ、この少年をその過酷な運命から守ってあげたいと思うようになっていた。
(まあ、大将にとっちゃ、そんなの余計なお世話ってとこだろうけど)
 元気よく旅の話を聞かせるエドワードを見つめながらハボックは思う。エドワードに惹かれている事は確かだったが、ハボックにはそれを彼に打ち明けるつもりはなかった。ハボックの想いは彼には必要のないものであり、ハボック自身、こうして時折エドワードとの間に小さな喜びを積み重ねる事だけで十分と思っているからだ。
「あ、そうだ、少尉。俺、今回はちょっと長くここにいるんだけどさ、この間のシチュー、また食わせてくんない?」
「いいよ、ここんとこそんなに忙しくないし。そうだな、明後日の夜はどう?」
「オッケ、オッケ!やりぃ、少尉の料理、楽しみにしてたんだよ」
 以前、たまたま食事に招いた時、出したシチューをまた食べられると嬉しそうに笑う少年に、ハボックもつられて笑みを浮かべる。
「よし、少尉のシチュー、食えることになったし!大佐にガツンと一発言ってくるぜ!」
「あはは、程々にな、大将」
 司令室の扉を開けて元気よく飛び込んでいく少年の背を見つめて、ハボックはまた一つ手にした小さな喜びをそっと胸に抱き締めた。


2011/11/23