豆騎士 風貌編


「あっ、少尉、久しぶり!」
 エドワードが帰ってきていると聞きシャワーもそこそこに演習から戻ってきたハボックは、執務室の扉を開けた途端振り向いた少年の顔を見て目を見開く。扉のところで止まったきり入ってこないハボックに、エドワードは訝しげに眉を顰めた。
「少尉?どうかしたのか?」
 エドワードはそう言って立ち上がるとハボックの側にやってくる。ハボックの頬に手を当て空色の瞳を覗き込んだ。
「少尉?」
「えっ?あ、ああ」
 覗き込んでくる金目にハボックはぴくりと体を震わせる。パチパチと数度瞬いてエドワードの顔をじっと見つめた。
「大将、雰囲気変わってねぇ?なんか大人っぽくなったっていうか、顔つきがシャープになったっていうか」
 そう言いながら触れてくるハボックの手にエドワードはキョトンとする。自分でも頬に触れて首を傾げた。
「そうかな、自分じゃ判んねぇけど」
「絶対変わったよ、大人っぽくなった」
 ハボックはそう言って愛しげに目を細める。そうすればエドワードがニヤリと笑った。
「なに?大人っぽくなって惚れなおしちゃった?」
「大将」
 言われてハボックは顔を赤らめる。成長する事自体は好ましいことではあったが、辛い旅の中で必要以上に大人にならなければならないのではと思えば、ハボックは不意に胸が痛くなった。
「大将……、無理すんなよ。無理して大人になんてなんなくていいから…」
 ハボックはそう囁いてエドワードの頭を胸に抱え込む。金髪に髪を埋めるように頬を擦り寄せてくるハボックに、エドワードは目を見開いてもがいた。
「少尉っ、ちょ……苦しいって!」
「あ、ごめん」
 言われてハボックは慌てて手を離す。困ったように笑いながら言った。
「ごめん、なんか大将が遠くなっちゃうような気がして……」
 ごめん、と俯くハボックをエドワードは驚いたように見上げる。暫くハボックの顔を見つめていたが、やがて笑みを浮かべて言った。
「俺は俺だぜ、少尉。根っこは変わんねぇよ」
「うん、そうだよな」
「少尉の事、めちゃくちゃ愛してんのもなっ」
 エドワードはそう言ってハボックをグイと引き寄せる。ハッとして身を離そうとするのを赦さずハボックの頭に手を伸ばし、引き寄せて口づけようとした、その時。
「その辺にしておいてくれんか、鋼の」
 そう声が聞こえてハボックが飛び上がる。逃げようとするハボックの腕をがっちり掴んで、エドワードは嫌そうに顔を顰めて振り返ると言った。
「大佐、あと二十秒待っててくれてもいいんじゃねぇ?」
「じゅうぶん待ってやったろう?ここは私の執務室だ」
 ロイは机に肘をついた手でうんざりと額を叩きながら言う。真っ赤な顔で死にそうになっている部下に視線を向けて言った。
「少し早いが今日はもう帰っていい。続きはお前のアパートでやれ」
「たいさっ」
「ホント?やりぃっ」
 そう言えばハボックが益々顔を赤くしエドワードが目を輝かせる。
「ただし、明日に差し支えるような真似はするなよ」
「判ってるって、サンキュ、大佐!じゃ、行こうぜ、少尉」
「えっ、ちょ…待って、オレ、仕事がっ」
「大佐が帰っていいって言ったろ、そんなもん明日、明日!」
「大将っ、……ちょっと、大佐っ!そんなでいいんスかッ」
「早くいこうぜ、少尉っ」
 もうすっかりやる気モードの少年と、彼にずるずると強引に引きずられていくハボックを見送って、ロイはげんなりとため息をついたのだった。


2010/06/18