豆騎士 悪天候編


「あ、いた!大将!」
 バンッと執務室の扉が開いてハボックが飛び込んでくる。ソファーで寛いでいたエドワードはハボックの顔を見て嬉しそうに笑った。
「少尉」
 ニッと笑う少年に手を伸ばすとハボックはギュッと抱き締める。突然の事にエドワードは金色の瞳を見開いた。
「な……どうしたんだよ、少尉」
 機会があってもなくても、いくらでも相手に触れたいエドワードに比べて、このシャイな年上の恋人はスキンシップが苦手だ。それがこんな人目もはばからず抱き締めてくるなど、嬉しい反面何事かと思ってしまう。
「いやだって、大将、もしかしたら出かけちまったのかと思って」
 ハボックはエドワードの肩に顔を埋めてモゴモゴと言う。
「台風すげぇし、こんな中行っちまったらって思ったら心配になって堪んなかったから」
 その言葉にエドワードはチラリと窓の外を見る。閉めていてさえゴオゴオと鳴り響く雨と風がガラスにあたって、表面を流れ落ちる水滴で外の景色は全く見えなかった。
「駅に電話してみたら列車止まってるいうしさ、流石の俺もこの雨風の中出てく訳ねぇじゃん」
 おかしそうに笑いながら言えばハボックは肩に埋めていた顔を上げてエドワードを睨む。
「でも、昨日会った時石の情報聞いたって言ってたし、大将なら台風なんてものともせずに出て行っちまいそうだって思ったんだよ」
 本気で心配してくれていたらしいハボックにエドワードの胸がほわりと温かくなる。エドワードは自分よりずっと体格のいいハボックの身体を両腕でギュッと抱き締めて言った。
「それでこの熱い抱擁ってわけ?嬉しいぜ、少尉」
「えっ?……あっ」
 ニヤリと笑って言う少年に、ハボックは今更ながらに自分がしている事に気付いたらしい。真っ赤になって突き放そうとするハボックをエドワードはギュウギュウと抱き締めた。
「ちょっと!離せよ、大将ッ」
「少尉から抱きついてきたんじゃん」
「だってそれは…ッ」
「嬉しかったぜ、少尉」
 そう言って笑えばハボックの顔が益々赤くなる。
(うわ、かわいいッ)
 十も年上の相手をつかまえてエドワードは内心思いながらハボックの頭に手を伸ばす。そのまま引き寄せてキスしようとすれば、背後からわざとらしい咳払いが聞こえた。
「ここがどこだか判ってるのか?鋼の」
 物凄く嫌そうな声にエドワードは渋々引き寄せようとした手を離す。その途端飛び退るように自分から離れたハボックを不満そうに見ると、振り返って言った。
「せっかくいいところなのに邪魔しないでくんねぇ?大佐」
「ここは私の執務室だ、馬鹿者」
 ロイはそう言ってわざと二人の間を通り抜けて椅子に座る。それから困ったように視線を泳がせているハボックを見上げて言った。
「ハボック、西区の商業施設で浸水が発生してるらしい。悪いが行ってくれ」
「ッ、アイ・サー!」
 ロイの言葉にそれまでの表情が嘘のようにハボックはピシリと敬礼を返して執務室を飛び出していく。
「少尉ッ」
 慌てて呼び止めるエドワードにハボックは一瞬だけ振り向くとニコリと笑って走り去った。
「大佐」
 思わずきつい口調で呼んで、エドワードはバンッと机に手をつく。ロイは睨んでくる金色の視線を平然と受け止めて言った。
「これがアイツの仕事だ。判ってるだろう?鋼の」
「…ッッ」
 言われて少年は唇を噛む。さっきまで自身がされていた心配を今度はその相手に向けながら、エドワードは窓の向こうで降りしきる雨を睨みつけた。


2009/10/08