休日


「ジャン、これ、私が作ったジャム、入れておくから」
「お、黒スグリのジャム!大佐、好きなんだよ、これ。ありがとう、母さん」
 そう言う息子にアニタが笑う。
「せっかく来ても慌ただしく帰っちゃうのね。ホントアンタってばマスタングさんの事が一番なんだから」
「えっ?いや、ほら、大佐って一人だと何にもしないからほっとけないっていうかっ」
 真っ赤になって言い訳するハボックにアニタがクスクスと笑う。ハボックの鞄に荷物を詰めながら言った。
「いいわ、何より信頼しあえる人の下で働けるのだから、母さん達も安心だもの」
「母さん……」
 アニタの言葉にハボックはなんだか胸が詰まる。ギュッと手を握り締めて言った。
「うん、大佐の事、誰より信じてる。あの人にならどこまでだってついていけると思うよ」
 そう言う息子の頭をアニタは優しく胸に抱き締める。座り込んで息子の荷造りをする小柄な母親をハボックがギュッと抱き返した時、頭上から声が降ってきた。
「ジャンの顔を見なくて済むようになるのは嬉しいけど、マスタングさんの傍に行くってのが赦せねぇ」
 その言葉にハボックはアニタを離して立ち上がるとビリーを見下ろしてニヤリと笑った。
「ふふん、大佐の事はオレに任せてお前は勉強でもしてりゃいいんだよ」
 お前の出る幕はない、と自信満々に言うハボックをビリーはギッと睨む。
「ああっ?そう言っていられるのは今のうちだからな!俺だって学校卒業したらイーストシティに行ってマスタングさんの傍で働かせて貰うんだッ!でもって、必ずマスタングさんの心を俺のものにしてみせる!!」
 お前はそれまでの虫よけだ、と言うビリーの頭をハボックが思い切り小突いた。
「なにすんだよッ!この馬鹿ジャンっ!」
「うるせぇッ!誰がお前なんかに大佐を渡すかッ!」
 互いに小突きあってはぎゃあぎゃあと喚く息子達にアニタはため息をつく。荷造りの済んだ鞄の蓋を閉めて言った。
「いい加減になさい、二人とも。ジャン、急がないと列車に間に合わなくなるわよ」
「うわ、それは困るっ」
 ハボックは慌てて時計を見ると母の手から鞄を受け取る。彼女の体を片手でギュッと抱き締めて言った。
「ありがとう、母さん。体に気をつけて。また連絡するから」
「アンタも体に気をつけて。無理しないでね」
 長身の息子の胸に頬を寄せてアニタが言う。ハボックは体を離すとにっこりと笑った。
「じゃあ!父さんにもよろしく言っておいて」
「わかったわ」
 笑うアニタに頷いてハボックは最後にビリーの頭を小突く。
「イテッ!このやろうッ!」
「ちゃんと勉強しろよ、ビリー!」
 睨んでくる自分と同じ空色の瞳にそう言って笑うとハボックは鞄を手に家を出た。
「元気で、ジャン!」
「マスタングさんに迷惑かけたら承知しないからなッ!」
 玄関から出たところでそう言いながら手を振る二人に手を振り替えして、休暇を終えたハボックはロイの待つイーストシティに一目散に帰っていったのだった。


2010/01/12