空色の恋  〜 あるロイハボの日 〜


「きょ、今日ってもしかして……」
 ハボックはカレンダーを見つめて呟く。その途端嫌な記憶がドッと押し寄せてブルリと体を震わせた。
「このままここにいちゃヤバイ…ッ」
 ハッとしてリビングの扉に目をやると、ハボックは棚の中から紙を取り出し慌てて文字をしたためる。そうしてそのメモをテーブルの上に置くと、まだ起きてこないロイを置き去りにさっさと出かけてしまったのだった。

「隊長」
「うわあッ!!」
 背後からかかった声に詰め所の片隅で小さくなっていたハボックが飛び上がる。思いがけない大袈裟な反応に声をかけた部下が目を丸くした。
「どうしたんで?隊長」
「や、いや、なんでも………」
 あははは、と乾いた笑いを零すハボックを部下は胡散臭そうに見つめる。それでも必要な報告をして立ち去ろうとする背にハボックは尋ねた。
「なあ、大佐来てないか?」
「大佐?マスタング大佐ですか?来てないですけど」
「そっか……ならいいんだ、サンキュ」
 ハボックがそう言えば部下は肩を竦めて出ていく。パタンと扉の閉まる音を聞いて、ハボックはずるずると壁にもたれて座り込んだ。
「はあ……」
 今日、ハボックは朝から怯えていた。何故なら今日が6月8日だと気づいたからだ。
 6月8日。
 去年も一昨年もとんでもない一日だった。「ロイハボの日」と騒いだロイに散々良いようにされたからだ。
「今年こそは平穏無事に過ごしたい……」
 いたされる身としてはそう思うのは至極真っ当なことだろう。そう言うわけでハボックは朝からひたすらロイを避けて過ごしていたのだが。

「探しにも来ないなんて………」
 午前中いっぱい小隊の詰め所で身を潜めていたハボックはそう呟く。そもそも朝、メモ一つ残して家を出てしまったことを普段のロイならソッコーハボックに詰め寄ってくるはずだ。だが、実際にはロイは自分で探しにくるどころか誰かを呼びに来させることもしなかった。
「いくら忙しくてもフュリーくらい寄越しそうなもんなのに……」
 ハボックはそう呟いて苛々と煙草の煙を吐き出す。暫く眉間に皺を寄せて煙草を吸っていたハボックだったが、隠れ場所から立ち上がると詰め所を出て司令室へと向かった。
 司令室の扉を開ければ書類を書いていたらしいフュリーが顔を上げる。
「あ、ハボック少尉。午前中ずっといませんでしたね。どちらにいらしたんですか?」
「あ、うん……小隊の詰め所の方にいたんだけど。なあ、大佐、今日休み?」
 フュリーの質問に答えて、ハボックは逆に問い返す。執務室の扉を見つめるハボックにフュリーが答えた。
「いえ、いらしてますよ。朝から珍しく真面目に書類に取り組んでるって中尉が機嫌よくて」
 そう言うフュリーの言葉にハボックは目を見開く。暫くじっと執務室の扉を見つめていたが、コーヒーを淹れてくるとそれを手に扉を叩いて中へと入った。
「大佐、コーヒー持ってきたっス」
「ああ、ハボックか。ありがとう」
 ちらりとも顔を上げずにそう答えるロイに、胸の痛みを感じながらハボックは言った。
「あの……今朝は先に来ちまってすんませんでした」
「別に構わんよ。何か用事があったのか?」
「え?…いやあの、急ぎの書類出すの、忘れてて……」
 そう言ったハボックをロイは顔を上げて見つめる。その黒い瞳が漸く自分を見てくれた事にハボックはホッとした。
「なんだ、珍しいな。お前も私のことをとやかく言えた義理じゃない」
「はは……そうっスね」
 無理矢理に笑みを浮かべたハボックは、ロイの視線がすぐまた書類に戻ってしまったことにがっかりする。暫く書類に取り組むロイの黒髪を見つめていたが、おずおずと聞いた。
「あの、大佐……今日って、その…」
「今日?今日がどうかしたのか?」
 不思議そうに見上げてくる黒い瞳を見つめるうち、ハボックはこみ上げてくるものを必死に飲み込んだ。
「なんでもないっス…!」
 ハボックはそう言って執務室を飛び出した。

「去年も一昨年もすげぇ大騒ぎしてたのに……」
 執務室を飛び出した勢いのまま司令室も駆け抜けて、ハボックはたどり着いた屋上の片隅で膝を抱えて呟く。はあ、と大きなため息をついて、屋上の柵の向こうに広がるイーストシティの街並みを見つめた。
「もしかしてオレのこと、どうでもよくなっちゃたのかな……」
 考えてみればこの1週間というもの、接待だ会議だと忙しくてロイと触れ合うこともなかった。昨日までは『ゆっくり眠れてラッキー』くらいにしか思っていなかったその事実が、ロイとの距離を表しているようでハボックはギュッと唇を噛み締めた。
「やだ……そんなの…」
 自分のことなどもう見切りをつけて、誰か綺麗な女性とつきあい始めたのかもしれない。もともとロイは筋がね入りのヘテロだ。どうしてこんな可愛さの欠片もないゴツイ自分に執着するのか全く判らなかったくらいなのだ。いつ何時ロイが女性との恋愛に戻っていったとしてもなんの不思議もない。
「たいさ………」
 ハボックは抱えた膝に顔を埋めるとポロポロと涙を零す。距離を感じて初めてどれ程自分がロイを好きか自覚するとは、なんて愚かで馬鹿なんだろうと思う。去年の今日も一昨年の今日も、嫌だと喚きながらもロイの好きにさせていたのは、結局自分もロイを好きでそうされたいからなのだと、漸く自分の中の恋心に気付いて、ハボックは零れる涙を止めることが出来なかった。

 屋上を吹き抜ける風もいつしか冷たくなり、空はだんだんと明るさを失っていく。ハボックは強張った体を無理矢理に動かしてゆっくりと立ち上がった。屋上の柵にもたれて遙か下の地上をじっと見下ろす。
「飛び降りちゃおうかな……」
 ポツリとそう呟いた時、背後から声が聞こえた。
「いくらお前が頑丈でもそこから飛び降りたらただでは済まんだろうが」
 その声に慌てて振り向けば屋上の入口にロイが立っていた。
「全く、いい身分だな。結局今日一日サボリか、ハボック」
「大佐……」
 そう言って近づいてくるロイをハボックはじっと見つめる。一メートルほどの距離を残して立ち止まったロイにハボックは顔を歪めた。
「大佐、オレのこと嫌いになっちゃったっスか?」
「どうしてそう思うんだ?」
 問いかけに逆に問い返されてハボックは声を震わせる。
「だって……ッ、去年も一昨年も『ロイハボの日』とか言って騒いでたのに今年は何にも言わないし!ここんとこずっと、オレに触んないじゃんッ!」
 そう叫んだ途端、ぼろぼろと泣き出すハボックにロイは呆れた顔をする。その表情にハボックはますます傷ついて怒鳴った。
「ほら、やっぱオレのこと嫌いになったんだッ!オレのこと……ッ!」
 ワアワアと泣いて手の甲で顔をこするハボックにロイはくすくすと笑う。一メートルの距離を10センチまで詰めると涙に濡れる頬に触れた。
「まったく、極端な奴だな、お前は。迫れば嫌だと言って逃げるくせに、ちょっと距離を置けば嫌われたと泣くのか?」
 そう言って触れてくる優しい手にハボックはロイを見る。涙を浮かべる空色の瞳を見つめてロイは続けた。
「ここ暫くお前に触れなかったのは単純に仕事が忙しかったからだ。それはお前も判っていただろう?」
「………じゃあ、今日なにも言わなかったのはなんでっスか?」
 不安そうに尋ねてくるハボックにロイは薄い笑みを浮かべる。
「たまにはお前から欲しがってほしかったからな」
 その言葉にハボックが目を見開いた。まん丸に見開かれたその目元を撫でてロイが尋ねる。
「私が欲しいか?ハボック」
 尋ねる言葉にハボックは見開いていた目をくしゃりと歪めて答えた。
「欲しいっス……大佐のこと、すげぇ欲しい…ッ!」
「……キスを、ハボック」
 そう言われてハボックはロイの体を抱き締めて唇を重ねる。そっと触れてすぐ離れようとしたハボックをロイはグイと引き寄せて深く唇を合わせた。
「んっ…ッ、ンンッ!!」
 歯列を割って入り込んできた舌に己のそれを絡め取られてハボックが甘く鼻を鳴らす。貪るように口づけてくるロイの手が、ズボンの中へと忍び込んできてハボックは慌ててロイを押しやった。
「たいさっ」
「欲しいんだろう?」
「…ッ!!」
 ニヤリと笑って言うロイにハボックは目を見開く。ロイを欲しいと言った言葉に嘘はないが、だが自分たちがいる場所を考えればとても頷く事はできなかった。
「でっ、でもっ、ここ、屋上ッ!」
 屋上の入口には鍵がかかっているわけではない。現にこうして自分たちがいるように、多くはないものの全く人の出入りがないわけではないのだ。終業時間が近いとはいえいつ誰かが入ってくるか判らなかった。
「だから?別に構わないだろう?」
「や、でも、大佐ッ」
 構わない訳などないではないか。一応人並みの羞恥心とモラルは持ち合わせているのだ。その時、ロイの腕から逃れようともがくハボックの耳に低い声が聞こえた。
「私を欲しいと言ったのは、嘘か?」
「…ッ?!」
「嘘か?ハボック」
 見つめてくる黒い瞳にハボックは目を見開く。暫くそうして見つめていたがロイの肩口に顔を埋めて言った。
「嘘じゃねぇっス……」
「なら抵抗しないな?」
 その言葉にハボックがおずおずと頷けば、ロイは即座に下着ごとハボックのズボンをズボンを引きずり下ろしてしまう。ヒュッと息を飲むハボックに構わず、ハボックの体を反転させて柵に押しつけた。
「脚を開け」
 そう言われてハボックはそろそろと脚を開く。ロイは跪くと白い双丘を両手で割り開き、奥まった蕾に舌を這わせた。
「あっ」
 ぬるりと濡れた感触がして、ハボックは短い悲鳴を上げる。ぴちゃぴちゃとイヤラシく響く水音と這い回る舌に、ハボックは真っ赤になって荒い息を零した。
「んっ……は、ああ…ッ」
 誰か来たらと思おうと怖くて仕方ない。だがそれと同時にどこか興奮しているのも事実で、それを物語るようにハボックの楔は高々とそそり立ち蜜を垂れ流し始めていた。
「あっ、やんっ!」
 這い回っていた舌が離れたと思うと、今度は指が差し込まれる。ぐちゅぐちゅと掻き回されて、ハボックは喘ぎながらゆらゆらと尻を揺らした。
「凄いな、いつもよりぐちゃぐちゃだぞ」
 楽しそうな声が耳元で聞こえてハボックは居たたまれずに目を閉じる。
「い、言わないで……」
 自分自身自覚があるだけに言葉にされるとたまらない。ハボックはハアハアと息を弾ませながら肩越しにロイを見た。
「たいさ……も、ちょうだい………たいさの、オレん中挿れて、早く…っ」
「………随分素直だな、今日は」
「だって……んっ、オレっ、から……欲しがってほしいんでしょ…っ?……オレだって…いっつも大佐のこと……欲しいんスもん…ッ」
「お前…ッ」
「ちょうだいっ、オレん中、来てッ、たいさッ!!」
 涙で空色の瞳を潤ませ、素直に強請るハボックにロイの中で凶暴な感情が膨れ上がる。ロイは乱暴に指を引き抜き己を取り出すと、ハボックの腰を抱えて一気に突き入れた。
「ヒアアアアアッッ!!」
 ズブズブと熱い固まりに貫かれてハボックの唇から悲鳴が上がる。ガツガツと突き上げられて、ハボックは柵にしがみついて喘いだ。
「ヒッ……ゥアッ!!………アアッ、あっ、ヤアアアッ!!」
 熱い内壁を押し開き、こすり上げる楔の感触がたまらない。ロイに抱かれるようになるまで全く知らなかった快楽に溺れて、ハボックは自ら激しく尻を振りたてた。
「たいさぁッ!……んあっ!ヒャウウッ!!」
「…っ、ハボックっ!」
「アッアッ、……キモチイ…っ、イくっ、も、イくっ!」
 ハボックは喘ぎながらそう言って金色の髪を振りたてる。がんがんと容赦なく突き入れてくるロイを肩越しに見て、ハボックは言った。
「たいさ……中に出してっ、…一緒にイきたい…ッ」
「…ッッ!!」
「ッ?!…あ、おっきく……ッ?やああんッ」
 強請るハボックの言葉に埋められた楔がググッと嵩を増す。狭い内壁を押し広げられて喘ぐハボックを、ロイは乱暴に突き上げた。
「アッ、アアアッ!……た、…さっ!……アッ、アア───ッッ!!」
 最奥を抉られてハボックはびゅくびゅくと熱を吐き出す。きゅうと締め付けてくる蕾に、ロイも耐えきれずにハボックの中へと熱を叩きつけた。
「…っっ、…た……さ…、すき……」
 体の奥底を焼く熱に、ハボックは甘い吐息と共に言葉を吐き出すとゆっくりと闇に落ちていった。


2009/06/08



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ロイハボの日です。そんなネタで日記を書こうと思ったら思いがけず長くなってしまいました(苦笑)
珍しくハボから欲しがる話です。うちのロイハボのハボは恋愛ごとに関してはどちらかと言うと引き気味です。だからロイがガツガツ押さないと正直関係が成立しないわけで、普段はエロオヤジのロイとで上手くバランスが成り立っていたりするのですが。たまには欲しがってあげないと大佐も煮詰まっちゃうからね(笑)多分この後すっかりその気になったロイに散々致されて、結局今年も後悔するハボなのじゃないかと思います。そして絶対ギャラリーがいるよ!(爆)たとえ錬金術で扉開かないようにしてあっても、声、だだ漏れじゃん!……翌日大変です、ハボ(笑)
とりあえず、甘々ロイハボお届けのつもり。少しでもお楽しみ頂けてロイハボの日を幸せに過ごして頂ければ、とv