写真屋ケンちゃん その後いつつ


 セントラルシティの司令部にある大総統の執務室の中、キング・ブラッドレイはたまたま手にした軍の広報誌の写真を眺めていた。
「最近は軍の広報誌の質も随分上がったようじゃないか」
 パラパラとページを捲りながらそう言うブラッドレイに補佐官が答える。
「はい、今の広報部はかなり腕のいい写真班を揃えているようです。中でもケン・グラントという准尉の腕前は相当なものだと聞いております」
 フムと頷いたブラッドレイに補佐官が思い出したように言った。
「そういえばちょっとそのグラント准尉の事で小耳に挟んだことがあるのですが」
「ほう、どんなことだね」
「それが、軍の、特にイーストシティの軍人達の写真を撮っては希望者に売りつけて小遣い稼ぎをしている様なのです」
 軍規に照らし合わせてもどうかと、と言う補佐官の言葉を聞きながらまだ目は広報誌を追っていたブラッドレイは、あるページでピタリとその手を止めた。
「これは誰だね?」
「は、どれでしょう」
 聞かれて補佐官はブラッドレイが指差す写真を覗き込む。その写真には東方司令部のロイ・マスタング大佐が写っていた。
「これは…マスタング大佐、ですが」
 いくらなんでも大総統がマスタングを知らぬ筈はないと恐る恐る答える補佐官に、ブラッドレイは苦笑するとマスタングの背後に写る金髪の青年を指差す。
「マスタング大佐なら知っておるよ。こっちの金髪の青年だ。彼は誰だね?」
 そう言われて改めて写真を見た補佐官は頭の中の軍人のリストを捲った。ようやく探し当てた一枚に補佐官は答える。
「彼は確かマスタング大佐の護衛官をしているジャン・ハボック少尉です」
「見目麗しい大佐殿には見目麗しい護衛官を配置するのか?」
 半ば呆れたように半ば感心したようにそう呟くブラッドレイに補佐官が言った。
「そう言えばさっきのグラント准尉の小遣い稼ぎのことで東方司令部ではちょっとした騒ぎが起こっていたようです」
「騒ぎ?」
「はい、グラント准尉がハボック少尉の写真を撮りためて写真集を作ったらしいのですが、それに気づいたマスタング大佐が発行前に大量の写真集を燃やしてしまったとか。その所為で、かなりの数の軍人がマスタング大佐に造反を企てたとかなんとか…」
「ほう…」
 たかが少尉一人の写真集でそんな事になっているとは東方司令部は随分平和だと思いながら、ブラッドレイはじっと写真を見つめる。そう言う自分がいるセントラルも最近すっかり平和になって退屈なんだと思った瞬間、ブラッドレイはニィッと唇を吊り上げた。
「イーストシティに出張するぞ」
「えっ?!でも、スケジュールが…」
「調整するのが君の仕事だろう」
 ビシリと言われて補佐官は飛び上がると出張の手配とスケジュールの調整の為に部屋を飛び出していく。一人残ったブラッドレイは写真を見つめながら呟いた。
「これで暫く退屈せずに済みそうだ…」
 腐腐腐と楽しげに肩を揺らすとブラッドレイは窓からイーストシティがあるはずの方角を見やったのだった。


「ハアックションッッ!!」
「風邪っスか、大佐」
 大きなクシャミをして鼻をすするロイをハボックが心配そうに覗き込む。その空色の瞳に笑いかけてロイは首を振った。
「いや、大丈夫だ」
 ロイはそう言ってハボックが持ってきた書類にサインするとそれを返す。その時、ゾクリと背筋を走った感触にロイはピタリと凍りつくと、あたりに視線を走らせた。
「大佐?」
 どうしたのだろうと聞くハボックには答えず、ロイは顎に手を当てるとじっと考え込んだ。心配したハボックがロイの名を呼ぼうとした瞬間、ロイは視線を上げるとハボックを見る。
「ハボ。私の側を離れるなよ。
「えっ?それってどういう…。何か危ないことでもあるっていうんスか?」
 驚いて聞き返すハボックにロイは僅かに眉を顰めると答えた。
「まだ、はっきりとは判らん。だが嫌な予感がする…」
「大佐…」
 不安そうな顔をするハボックに手を伸ばすとロイは笑ってその唇に口付ける。
「なに、ただの気のせいかも知れないし、そんなに心配するな」
 念のためだ、と言ってハボックを引き寄せながらもロイは絶対の感度を誇るセンサーに引っかかった以上、何かが起こるに違いないと、気持ちを引き締めるのだった。


「なにっ?大総統がっ?!」
「はい、あと1時間ほどでお着きになるそうです」
 ホークアイの言葉にロイは眉を顰めた。
「なんで突然来る事になったんだ?」
「さあ、特に理由まで連絡はありませんでしたから」
 そう言われてロイは更に眉間の皺を深める。
「何しに来やがるんだ、あのジジイ」
「大佐、少し言葉に気をつけてください」
 ぼそりとロイが呟いた言葉をとりあえず諌めてホークアイはロイに言った。
「ハボック少尉を出迎えに行かせましたから」
「なっ?!」
 ガタタッと音を立ててロイは立ち上がる。ホークアイを睨みつけると声を荒げた。
「どうしてハボックを行かせたんだっ?!」
「大総統からのご指名でしたから」
「大総統のっ?」
 嫌な予感はこれだったのかとロイは唇を噛み締める。
「あんのクソジジイ…っ!」
 グッと拳を握り締めるロイを見つめて、ホークアイはまた仕事が滞ると頭痛を覚えていた。


「それにしても突然ですな、大総統がお見えとは」
「うん。しかも出迎えに行って来いって、いいのかな、オレで」
 軍曹の言葉に頷きながらハボックはレールの向こうを透かし見る。そろそろ着く筈の列車に乗っているブラッドレイを出迎えにハボックは数人の部下を引き連れて駅に来ていた。暫くして列車の警笛が聞こえ、珍しく時間通りに列車が駅に滑り込んでくる。ハボックは列車から降りてきたブラッドレイを前にピシリと敬礼をすると言った。
「ようこそ、イーストシティへ。お迎えに上がりました、大総統閣下」
 流石に大総統の手前、完璧な敬礼を見せるハボックとその部下にブラッドレイは頷くとハボックに向かって言った。
「ご苦労。君がジャン・ハボック少尉、かな」
「はいっ、ハボックでありますっ」
 突然名前を確認されて、ハボックは内心ギョッとする。
(なんでオレの名前なんて知ってんの?)
 心の中で首を傾げたハボックにブラッドレイはにっこりと笑って言った。
「マスタング大佐の護衛官をしてるんだったな」
 そう言うブラッドレイに肯定の答えを返しながら、ハボックは大佐つながりか、と合点する。だが、次に言われた言葉にハボックは目を見開いて固まってしまった。
「どうだね、護衛官などやめて私の補佐官にならないか?」
「…は?」
「給料もいいし、何かとイイ思いもできると思うが」
 そう言ってずいと近づいてくるブラッドレイにハボックは顔を引きつらせて答える。
「お言葉ですが、サー。自分はいい給料もいい思いも特に望んではおりませんし、何より補佐官を務めるのは自分には荷が勝ちすぎているかと」
 背を仰け反らせて、それでもなんとか失礼に当たらぬよう言葉を選ぶハボックにブラッドレイは眉を跳ね上げるとフムと頷く。
「性急過ぎたか…」
「え?」
 ぼそりと呟かれた言葉を聞き取れずに目を見開くハボックにブラッドレイはニッと笑った。
「とりあえず、少尉。私を司令部に案内してくれるかね」
「Yes, sir!」
 やっとまともなことを言ってくれたとハボックはホッとするとブラッドレイを車へと案内する。そうしてブラッドレイを乗せた車は一路東方司令部へと走っていったのだった。


 東方司令部につくと、ブラッドレイはちゃっかり会議室を1つ自分用の臨時執務室にしつらえなおさせ、ドサリと椅子に座り込んだ。挨拶に来ると言うマスタングの申し出を断ると、ブラッドレイはある人物を執務室へと呼び出した。コンコンというノックの音にブラッドレイは入室を許可する。恐る恐る部屋に入ってきたのは広報部のケン・グラント准尉だった。
「おっ、お呼びでしょうかっ?」
 グラントは震える手を上げて敬礼すると必死の思いでそれだけを口にする。一体全体何がどうして一介の准尉でしかない自分を大総統ともあろう人が呼びつけるのだろうと、グラントは半ばパニックに陥っていた。可哀相なグラントにブラッドレイは座るように言うとコチコチに固まっている准尉に向かってにっこりと笑う。
「君達広報部が作っている軍の広報誌を見させてもらったよ。いや、なかなかどうして素晴らしいできばえだ」
「光栄ですっ、サー!」
 そんなことを言う為に自分を呼び出したのだろうかと、グラントが内心首を傾げながらも敬礼を返した時、ブラッドレイの瞳がスッと細められた。
「時に准尉。貴官の写真の腕前は大したものだそうだね」
「ハッ、写真家としてそれ相応の腕はあるものと自負しておりますっ」
 写真のことを聞かれればたとえ相手が大総統であろうとも、自分の腕を卑下するわけには行かない。グラントはビシッと背筋を伸ばすとそう答える。その様子にブラッドレイは満足げに頷いて言った。
「その腕前を生かしてなにやら写真集を作って売り出したとか聞いたのだが」
 突然自分の副業を指摘されてグラントはぎくりとする。もしかして肖像権とかそう言ったもののことで糾弾されるのかと冷汗を流すグラントにブラッドレイは言葉を続ける。
「この間はハボック少尉の写真集を作ったもののマスタング大佐に全て燃やされてしまったとか」
 囁くように言われた言葉にグラントは思わず席を立ち上がった。
「そうなんですっ!俺が命の全てをかけて作り上げた写真集をあの悪魔が全部燃やしちまったんですっ!しかも自分の分だけしっかり手元に残しやがって、その後何とか少尉の写真をゲットしようとした俺達のプロジェクトだってアイツの所為で潰されたしっっ!!」
「なるほど、それは悔しかったろう」
 ついうっかり拳を握り締めて叫んでしまったグラントは、聞こえた声にハッと我に返り恐る恐るブラッドレイを見る。グラントと目が合ったブラッドレイはにっこりと笑うと言った。
「協力してあげようか?」
「…え?」
「ハボック少尉の写真を撮って写真集を作りたいんだろう?協力してあげよう」
 突然の申し出をグラントは咄嗟には理解できずにブラッドレイを凝視する。そんなグラントを辛抱強く見上げながらブラッドレイ言葉を繰り返した。
「写真集を作る協力をしてあげよう」
「ほ、本当ですか、サー。でも、どうして…」
 ぽすんとソファーに座り込んで呆けたように聞くグラントにブラッドレイは楽しそうに言う。
「面白そうだから」
 そうしてその日、愉快そうに笑うブラッドレイと呆けたグラントの間で「ハボック少尉写真集発行プロジェクトその2」が動き出したのだった。


「くそう、あのジジイ、私の申し出を拒否しくさって…」
 ブラッドレイに体よく断られたロイが悔しそうにぼそりと呟くのを聞きながらハボックはコーヒーのカップを差し出す。どう宥めたものかと考えるハボックをじっと見つめるとロイが言った。
「おい、ハボック。お前、あのジジイに変なことされなかっただろうな」
「変なことって…」
 何もされてませんよ、と答えながらハボックは変なことなら言われたけど、と思う。
『私の補佐官にならないか?』
 そう言ったブラッドレイの言葉が思い起こされてハボックは小さくため息を吐いた。
(あんなの、ちょっとした社交辞令だよね。じゃなかったら大佐への忠誠心でも試されたのかな)
 このことをロイに言った方がいいのか、一瞬悩んだハボックだったが、もし言おうものならロイが荒れ狂うのは目に見えていたのでとりあえず言わない事にする。
(別に本気で引き抜くつもりがあった訳じゃなさそうだし、別に言わなくてもいいよね)
 そんなことを考えていたハボックにロイが手を伸ばした。
「おい、大総統には十分気をつけるんだぞ」
「やだな、気をつけるって何を気をつけるって言うんです?」
 そう言ってくすりと笑うハボックにロイが更に言い募ろうとした時。執務室の扉がノックされてフュリーの声が聞こえた。
「どうした?」
 とロイが問えば扉が開いてフュリーが顔を出す。
「大総統がハボック少尉をお呼びです」
「「えっ?!」」
 フュリーの言葉に顔を見合わせるとロイがキッとフュリーを睨んだ。
「どうしてだっ?!」
「しっ、知りませんよっ、僕はただ大総統が呼んでるとしか…」
 ロイの剣幕にビクビクしてフュリーが答える。ハボックは牙を剥くロイの肩を叩くと言った。
「オレ、大総統のところへ行ってきます」
「ハボックっ?!」
 ギョッとするロイにハボックはにっこりと笑う。
「車を出して欲しいとかそういうことかもしれないし、大丈夫ですよ。取って食われるわけじゃないんスから」
 にっこりと笑ってそう言うハボックに、とって食われてたまるかと内心叫びながらロイは言った。
「私も一緒に行こう」
 その言葉にフュリーが慌てて言う。
「あ、ハボック少尉一人で来て欲しいってことですので」
「そんな危険なところにハボック一人でやれるかーーッッ!!」
「ひいいっっ!」
 ぶち切れて怒鳴るロイにフュリーは慌ててハボックの後ろに逃げ込んだ。ハアハアと肩で息をするロイにハボックが苦笑して言う。
「大佐、危険なところって、相手は大総統ですし、何も危ないことなんてないっスよ」
 宥めるようにロイを見ると言葉を続けた。
「それにオレは男ですから、万が一なんてこともないでしょうし」
 間違っても押し倒されませんから、とへらりと笑うハボックにロイはふるふると拳を震わせる。
(どうしてコイツは危機感がないんだっっ!!)
 あれだけ暑苦しくマッチョ達に迫られながら、どうして自分が男に対するフェロモンを撒き散らしているのだと言う自覚がないのかと、ロイは眩暈を覚えた。
(万が一、大総統がハボックを押し倒すような事になったら…っ)
 ギリギリと唇を噛み締めるロイにハボックがにっこりと笑う。
「大丈夫っスよ。そんなに心配しなくても、オレ、大佐以外には触らせませんから」
「ハ、ハボック…。」
 蕩けるような笑顔でそう言うハボックにロイはズギュンと煩悩を撃ち抜かれて呆けてしまう。ロイがへらりと顔を崩している間にハボックは出て行ってしまい、暫くして我に返ったロイは慌ててハボックを追ったのだった。


 ブラッドレイの執務室となっている会議室の前に立つと、ハボックは姿勢を正して扉をノックする。
「ジャン・ハボック少尉です」
 そう名乗れば入室を許可され、ハボックは扉を開くと中へと入っていった。
「お呼びですか、サー」
 ピシリと背筋を伸ばして立つハボックの長身をブラッドレイは楽しそうに見上げる。椅子から立ち上がるとハボックの背後へと周り、扉の鍵をカチリと閉めた。
「あの…」
 何故鍵をかけるのだろうと、ほんの少し不安になってハボックはブラッドレイを見つめる。ブラッドレイはボタンを外して上着を脱ぐと椅子の背にそれをかけて言った。
「東部は暑いなぁ、少尉も暑いだろう。上着を脱ぐといい」
「は、でも自分は平気ですので」
 実際今日は涼しいくらいで、普段すぐTシャツ一枚になるハボックですら別に上着を脱ぎたいとは思わない。だが、ブラッドレイはスッと目を細めるとハボックに向かって言った。
「私は上着を脱いだらいいと言ったんだよ、少尉」
「…Yes, sir…」
 そう言われてしまえば抗える筈もなく、ハボックは「失礼します」と言って上着を脱ぐ。腕にかけた上着をハボックから取り上げて机の上に放り投げるとブラッドレイはハボックをじっと見つめた。
「なるほど、護衛官をしているというだけあっていい体をしている」
「あ、有難うございます、サー」
 そう答えたものの、周りを回りながらジロジロと見つめてくるブラッドレイにハボックは落ち着かずに唇を噛む。いきなり背後から抱き込むように胸を触られて、ハボックは思わず悲鳴を上げた。
「なっなっなになさるんでっ、サー!!」
 思わず両腕で胸を隠すように抱き込むハボックにブラッドレイが明るく笑う。
「いや、なに。よく鍛えられているようだなと思ってね」
(なんなんだよっ、一体っ!!)
 ハボックはそう叫びだしそうになるのを必死に押さえると唾を飲み込んだ。警戒するように見つめてくるハボックにブラッドレイはなんでもないようにサラリと言う。
「シャツを脱ぎたまえ」
「はぁっ?!」
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったハボックの無礼にはとりあえず目を瞑って、ブラッドレイはもう一度繰り返した。
「シャツを脱ぎたまえ」
「な、何言ってるんすか、アンタ…」
 思わず零してしまった言葉にハボックは慌てて口を押さえ込む。そんなハボックにブラッドレイは言った。
「三度目はないよ、少尉」
 そう言われてハボックは目を瞠ると仕方なしにシャツの裾に手をかける。ちょっと躊躇ってからグイと裾を引き上げると一気にTシャツを脱ぎ捨てた。
「ほう、いい体だ」
 ブラッドレイはそう言うとハボックの胸を撫で回す。無遠慮な手に唇を噛み締めるハボックの乳首をわざとらしく手のひらで撫で擦ると言った。
「無駄な筋肉がないな。いい鍛え方だ」
「あ、有難うございます、サー」
 震える声でそう答えるハボックにブラッドレイが更に言う。
「では少尉、ズボンも脱ぎたまえ」
 そう言われてハボックは空色の目を見開いてブラッドレイを見た。
「し、失礼ですが、サー…何の為に…?」
 突然呼び出されて服を脱げと命令されて、ハボックは混乱しきってブラッドレイを見つめる。ブラッドレイはアイパッチに指を這わせると答えた。
「なに、東方司令部の司令官を護衛する人間がそれにふさわしいかどうか確かめているだけだよ」
 ブラッドレイはそう言うと目を細めてハボックを見る。
「ズボンを脱げ、少尉」
「そ、それは…っ」
 シャツを脱ぐくらいならまだしも、本来ならそんな格好をすべきでない場所で下着1つになれと命じられて、流石にハボックも従うことが出来ずに立ち竦んだ。そんなハボックにブラッドレイがピシリという。
「マスタング大佐の護衛官は上司の命令を蔑ろにするのかね」
 そう言われてハボックは息を飲んだ。嫌だと拒絶すればロイに迷惑が掛かるかも知れない。そう思ってしまうと、もうハボックにはブラッドレイの言葉に抗う気持ちにはなれなかった。仕方なしに軍靴を脱ぎ、ズボンのベルトに手をかける。カチャカチャと言う音が妙に大きく聞こえてハボックの羞恥心を煽った。ベルトを外すとボタンを外しジッパーを下ろす。ハボックは真っ赤になって顔を歪めるとエイとばかりにズボンを脱ぎ捨てた。
「こっ、これでよろしいでしょうか、サー」
 泣きそうになりながら直立不動の姿勢を取るハボックをブラッドレイは満足げに見つめる。もう少しいい顔をさせてやろうかと、ブラッドレイが思ったとき、ドンドンと激しく扉を叩く音がした。
「失礼します、大総統閣下!こちらに伺っているハボック少尉にに緊急の用件があるのですがっ!」
 扉の向こうから聞こえる声にハボックはハッとして思わず声を上げる。
「たいさ…っ!」
 思いがけず涙声になってしまったそれに扉の向こうのロイが息を飲んだのが伝わってきた。ロイは更に激しく扉を叩くと声を荒げる。
「ハボック、ここを開けろっ!」
 思わずブラッドレイの顔を見たハボックにブラッドレイは肩を竦めると扉に歩み寄った。カチリと鍵を開ければバンッと勢いよく扉が開いてロイが飛び込んでくる。
「ハボ…っ?!」
 ボクサーパンツ一丁で部屋の真ん中に立っているハボックの姿にロイは目を瞠る。ハボックに駆け寄ると背後にその体を庇うように立ってブラッドレイを睨んだ。
「これはどういうことです、大総統…!」
 事と次第によっては赦さないと睨むロイにブラッドレイは澄ました顔で答える。
「なに、東方司令部の護衛官はどの程度のレベルか確かめさせてもらっただけだよ。もし、優れた人物なら私の補佐官に引き抜くのも悪くないと思ってね」
「なっ?!」
 目を剥くロイを無視してブラッドレイはハボックに笑いかけた。
「そういうわけで補佐官の話、考えておいてくれたまえ」
 ギョッとしてハボックを見るロイにハボックは慌てて首を振る。ギッと睨んでくるロイに構わずブラッドレイは時計を見ると思い出したように言った。
「おお、もうこんな時間か。早く帰らないと今日中にセントラルに着けなくなってしまう」
 ブラッドレイはそう言うと二人に向かってにっこりと笑った。
「では世話になったな。ああ、見送りはいらんよ。また会おう」
 はっはっはっと笑いながら出て行くブラッドレイを呆然と見送っていたロイはハッとしてハボックを見ると言う。
「ハボック、お前…っ!!」
「何にもされてませんっっ!!」
「あれほど気をつけろと言っただろうっ!!」
「だって、護衛官としてどんなもんか確認するだけだって…」
「おーまーえーは〜〜〜っっ!!」
 ギリギリと歯を食いしばって唸るロイは、ハボックが泣きそうになっているのに気づいてガックリと肩を落とした。
「とにかく服を着ろ」
「アイ、サー」
 慌てて服を身につけるハボックの瞳を見つめるとロイは言う。
「いいか、これからは何を言われようと人前で安易に服を脱ぐな。いいなっ、ハボック」
「……」
「返事はっ?!」
「Yes, sir!!」
 慌てて敬礼を返すハボックにため息をつくとロイはそっとハボックを引き寄せた。
(あのクソジジイ、結局何しに来やがったんだ…っ)
 苦々しげに思って、ロイは絶対にブラッドレイを大総統の椅子から引き摺り下ろすことを改めて心に誓ったのだった。


「どうだね、いい写真は撮れたかな」
 駅まで送ってくれたグラントにブラッドレイは聞いた。
「はいっ!おかげ様でバッチリいい写真が撮れましたっっ!!」
 興奮に顔を赤らめて答えるグラントにブラッドレイは笑って頷く。ブラッドレイがハボックを呼びつけた会議室の中、身を潜めたグラントはブラッドレイに命じられるまま服を脱いでいくハボックの姿を隠し撮りしていたのだ。
「これで写真集を作ることが出来ますっ!!」
 嬉しそうに言うグラントに頷いてブラッドレイが言った。
「写真集完成の暁には是非私にも一部譲ってくれたまえ」
「Yes, sir!!」
 感激して答えるグラントの肩を叩くとブラッドレイは列車に乗り込む。ゆっくりと走り出す列車に身を任せながら呟いた。
「楽しい一日だった」
 これでまた激務にも耐えられるというものだ、ブラッドレイは満足げに笑うとそっと目を閉じた。


2007/10/01


なんかついに大総統閣下まで巻き込んで、どこまで引っ張るんだ写真屋ケンちゃんになってますが…。だって出演依頼があったんですものー。そうしたらやっぱり「呼んだかね」って出てきてくださいました(苦笑)しかし、口調がよくわかんない…。もうハボックはただのおバカじゃないかと思わなくもありませんが、楽しんでいただければ〜。
しかし、これでハボックの写真集は発売となったのでしょうかね…?