写真屋ケンちゃん その後のその後のその後 ロイハボ版


「例の写真、マスタング大佐のところに残ってるって知ってるか?」
「なっ…ホントかっ?!」
「ああ、グラントのところに燃やしに行った時、ちゃっかり持って帰ったんだってよ」
「なんてあくどいヤツなんだ…!」
 狭い部屋の中顔を付き合わせたマッチョ達は互いの顔を見渡す。
「…くそ、何とかその写真を奪えないか?」
「普段から少尉を独り占めしてるくせに写真まで…っ」
「せめて写真だけでも俺達が手にしたってバチはあたらんだろう」
「だが、これまでだってファンクラブの月間目標を達成する為に大佐に挑んだヤツらがどうなったか…」
 その声にマッチョたちは黙り込んでしまった。確かにこれまでハボックを独占しているマスタングに一矢報いてやろうと挑んだ男達は皆返り討ちにあっている。だが。
「おい、そんな事言ってこのままでいいのか?ブツは少尉のアノ写真だぞっ!」
「…シャワールームで盗撮したっていう、アレ、だな」
 その写真を脳裏に思い描いてマッチョたちはごくりと唾を飲み込む。ギラギラと光る目で互いの顔を見ると頷きあった。
「一人ではムリでも力を合わせればっ」
「そうだ、一致団結すればっ」
 そうだっ、だの、おおっ、だのという声が部屋のあちこちから上がる。
「「「少尉のアノ写真を我らが手にっっ!!!」」」
 邪まな想いをたっぷり載せた声が狭い部屋に響き渡る。こうして「ハボック少尉のヘアヌード写真強奪大作戦」が開始されたのだった。


「へっくしっ!」
 書類を書いていたロイが顔をふにゃんとさせてクシャミをする。ちょうどコーヒーを置こうとしたハボックは慌てて身を引くとロイに向かって聞いた。
「風邪っスか?」
「…いや、そうじゃないと思うが」
 なんか嫌なものが背筋を走った、と言うロイにハボックは目を細める。
「まぁた誰かの彼女盗ったとかそんなんで恨まれてんじゃないんスか?」
「おま…っ、人聞きの悪いことを言うなっ」
 大体自分はハボック一筋なのになんてことを言うんだとハボックを睨めば、ハボックは空色の目を逸らして唇を尖らせた。
「だって、アンタこの間…花屋のオネエチャンに…」
「なんだ、ヤキモチか?」
 にんまりと笑って手を伸ばしてくるロイをハボックは悔しそうに睨む。
「別にヤキモチなんて…」
 ロイはハボックの手を取るとその体を引き寄せた。顔を寄せて唇を舐めればハボックが微かに頬を染める。
「お前こそもう少し気をつけろよ」
「オレ?何を気をつけろって言うんスか?」
 きょとんとするハボックに口付けながらロイは言った。
「この間だってあんなあられもない写真を撮られただろうが」
「あっ、あれは…っ」
 ハボックはこの間ロイに見せられた写真を思い出して真っ赤になる。
「だってシャワールームにカメラが仕掛けられてるなんてフツウ考えないでしょっ」
「お前の場合はフツウじゃないんだから考えておけ」
「はあっ?なんスか、それ。フツウじゃないって、なに?」
 ワケがわからないと言う顔をするハボックにロイは大きなため息をついて見せた。それでも顔いっぱいにハテナマークを浮かべて首を傾げているハボックに、ロイは心底脱力する。
(どうしてこう、鈍いんだ)
 女性の比率の低い軍内部では手っ取り早く男に走ってしまう輩もいないことはない。それが戦地であればなおのこと。だが、こんなイーストシティの街中ですらハボックに想いを寄せる野郎が履いて捨てるほどいる事に、どうして本人だけが気がつかないのだろう。
(あんなにあからさまに態度で示されてるのに…)
 だが、ハボックが国宝級に鈍いからこそ余計な諍いが起こらずに済んでいるのかもしれない。そうだとしても男どものうざったい視線にハボックを曝すことを我慢できるほど、ロイは心が広くも我慢強くもなかった。
(やはりここは私がしっかりガードしてやらねば)
 ロイは心で拳を握り締めるとハボックを引き寄せ深く唇を合わせたのだった。


 ハボックをガードするのは自分の役目と思いはしたものの、やはり息抜きも必要とロイはホークアイがいない僅かな隙を突いて執務室から抜け出した。司令室を通る際、フュリーに「中尉に怒られるから仕事をしてくれ」と泣きつかれたが、怒られるのはどうもフュリーのことのようなので縋りつく部下は足蹴にしてとっとと部屋を後にする。ロイは今日の昼寝の場所はどこにするか、頭の中でいくつか候補を思い浮かべながら歩いていた。せっかくだからハボックが探しに来た時、ちょっと悪戯できる場所がいい、などと思いながら人のあまり来ない第二資料室の方へと歩いていると。
 ヒュッ!!
 飛んできた石をロイは軽く体を捻ってよける。身構えたロイの前に覆面をつけたマッチョが5人ほど現れた。
「痛い目にあいたくなければお宝をだせっ!」
「お宝?」
 叫ぶマッチョの言葉にロイは目を見開いて、次の瞬間にやりと笑う。
「ああ、お宝か。それならここにあるぞ」
 ポンと胸元を叩けばマッチョたちの目の色が変わった。バッと狭い廊下でロイを取り囲み機会を窺う。中の一人がロイめがけて襲い掛かってきたのを合図に、残りのマッチョたちも一斉に飛びかかってきた。
「寄越せっ!」
 伸びたきた手を払いのけロイは脚払いを食らわす。倒れてきた首元にエルボーを食らわせた。次の相手に蹴りをいれる体を背後から抱きこまれたが、逆に相手の体に身を預けると殴りかかってきた正面の相手の首に両脚を巻きつけそのまま捻って倒した。背後の相手を背負い投げの要領で向かってくる別のマッチョに投げつける。残りの一人が消火器を振り回すのをかい潜ってその鳩尾に思い切り拳を沈めれば、蛙が潰れたような声を上げて伸びてしまった。
「ふん。私からこれを奪おうなどとは100年早いわっっ」
 ロイは地面に沈んだマッチョたちに冷たい視線を投げつけるとそういい放つ。そうしてつまらぬものを殴ってしまったとパンパンと手をはたいて寝床を探してその場を後にしたのだった。


「大佐、見つけたっ!」
 ひんやりと湿った空気に支配された第二資料室の片隅で、どこから持ち込んだのか長いすに寝そべって昼寝をしているロイのところへハボックがやってくるとそう叫ぶ。腰に手を当ててロイを見下ろすと眉間に皺を寄せて言った。
「もうっ、中尉やオレがいないからってサボらんでくださいよ」
「ちょっとくらい息抜きしたっていいだろう」
「そういうことは仕事をちゃんとしてから言ってください」
 ハボックはそう言うとロイの手を取る。ぐいと引き起こしたロイの頬に傷がある事に気づいて眉を顰めた。
「大佐、どうしたんスか、この傷」
 朝はなかったっスよね、と心配そうに触れてくるハボックの手を取ってロイはニッと笑う。
「ちょっとな」
「ちょっとってなんスか」
 益々眉間の皺を深くするハボックの体をロイはグイと引き寄せた。
「心配するような類のものじゃない」
「でも…ちょっ、たいさっ、なにして…っ」
「少しだけ」
「中尉が待ってますってば」
「すぐ済む…」
「たい…っ、あっ…」
 ロイは囁きながらハボックの抵抗を封じ込めると、その肌に唇を寄せていったのだった。


「大佐っ、またこれっ!」
 ハボックはロイの腕をグイと掴むとその手首に走る傷に顔を顰める。ここのところ大した傷ではないにしろ生傷の絶えないロイをハボックはじっと見つめた。
「ああ、気にするな。ただのかすり傷だ」
「気にするなって言われたって気になりますよ。いったいどうしたっていうんですっ?」
 そう言われてロイは困ったように苦笑する。どこから漏れたのか、ロイがハボックの例の写真を持っているということがハボックファンのマッチョ達の間で知れ渡ってしまい、おかげで毎日のようにロイは襲撃を受けていたのであった。勿論そんなマッチョ達に後れを取るようなロイではないし、実際無傷でかわす事の方が多いのだが、如何せん本気で叩きのめすわけにいかないのが辛いところで、おかげで時折生傷をこしらえる事になるのだった。ハボックは理由を言わないロイを目を細めて見つめていたが、やがて1つ息を吐くと言った。
「判りました。大佐が理由を言わないんならオレも好きにさせてもらいます」
「ハボック?」
「オレ、できるだけ大佐の側から離れませんから。司令部の中でもきっちり護衛させてもらいます」
 そう言い切るハボックにロイは目を見開く。真剣なハボックの表情にロイはうっすらと笑うと言った。
「そんなに私が心配か?」
「当たり前でしょうっ!たとえどんな小さな傷だって大佐がつけられるの、オレ、我慢できませんから」
「ハボック…」
 ロイはそんなハボックをうっとりと見つめるとその耳元に囁いた。
「ハボック…傷が痛むんだ。」
「えっ?だったら医務室に…っ」
「舐めてくれ…」
「へっ?」
 下から覗き込んでくる黒い瞳にハボックはみるみる内に紅くなる。
「お前が舐めてくれればよくなる…」
「でっ、でもっ」
「ハボック…」
 ロイは囁いてハボックの口元に手首を寄せた。困ったように数度瞬いたハボックはそれでもおずおずと舌を差し出すとぺろりとロイの傷を舐める。
「もっとしっかり」
 ロイに言われてハボックは顔を赤らめながらも懸命に舌を這わせ続けた。


「あ、あ、あ、あんなこと少尉にさせて…っっ」
「何てヤツだっ、ロイ・マスタングっ!!」
「あっ!マスタングの手が少尉のあんなトコにっ!!」
 物陰から二人の様子を窺っていたマッチョ達がギリギリと歯を食いしばりながら呻く。ハボックのお宝写真を奪うどころかかえって二人のイチャラコぶりを見せ付けられて、マッチョ達は地団駄を踏んで悔しがったとか。


2007/09/26


「大佐が持ってるハボのお宝写真を狙うマッチョ達と日々戦いが繰り広げられているんだよ」って言ったら、「生傷こさえる大佐を心配してハボがみっちり護衛するようになって、余計にベタベタする二人を見てがっかりするマッチョ達が見たい」って言われたのでー。しょうもない話ですみません(汗)