写真屋
 
 
「よし、それじゃあこれで今までの事はすべて水に流すとしよう」
「マスタング大佐
 言ってロイが手を差し出せばケンはビクビクと自分のそれを持ち上げる。途端にガシッと握られてケンの頬が引きつった。

 東方司令部の広報部に在籍するケン・グラント准尉は本業の傍ら司令部の軍人達の写真をとっては売りさばくという趣味と実益を兼ねた商売をしていた。彼の撮った写真の中でも特にハボックを扱ったものは非常に高値で売買され、それに気をよくしたケンはハボックの写真集を出す計画を立てたことがあった。だが当然そこにはハボックは自分のものだと公言してはばからないロイの邪魔が入り、発売直前までこぎつけていた写真集は無残にも灰と化してしまった。その後も事あるごとにハボックの写真を撮ろうとするケンとそれを阻止しようとするロイはぶつかり合い――大抵はロイの圧倒的勝利でおわっていた――その二人の姿は東方司令部の一種の風物詩となっていたほどだったが、ついに今日、二人は和解を迎えたのだった。
(正直俺の方が一方的に被害を被ってたけどなぁ
 ニコニコと機嫌のいいロイを見ながらケンは内心そう思う。これまで自分が被った被害額は相当なものだ。それでも今後はロイの目の仇にされた挙句命の危険に晒される事はなくなるのだと思うとホッとしたのは嘘ではない。
(それにまぁ、一人じゃなければ少尉の写真撮影の許可も取れたしな)
 司令部の面々と一緒、とか、市民とのふれあいの場で子供達と一緒、とか、そう言うのであれば撮影を許可しようとロイは言った。そんな集団の中のハボックの写真ではかなり不満ではあったがそれでも全面撮影禁止となるよりはマシだ。もっともその写真を買った相手がその後ハボックの部分だけを切り取ろうがどうしようが、それは知ったことではない。

 ケンはニコニコと機嫌のよいロイにとりあえず和解記念にでもと二人のツーショット写真を撮ることを提案した。
「ツーショット写真?」
「ええ、写真は俺の本業ですし、せっかく仲良くしてもらえる事になったんでその記念にと思ったんですが。少尉もどうです?大佐と二人の写真」
 ケンはすぐ傍で二人の話を聞いていたハボックにそう尋ねる。するとハボックは顔を赤らめて答えた。
「えっ、いや、いいよ。そんなの恥ずかしいし」
「何を言うんだ、ハボック。せっかくグラント准尉が好意で撮ってくれようと言うものを断わるなんてそんな失敬な!」
 遠慮しようとするハボックにロイが大声で言う。そしていい事を思いついたというようにポンと手を叩くとケンに言った。
「そうだ、准尉。せっかくだからハボックが私のものだと判る写真を撮ってくれんか?」
「少尉が大佐のものと判る写真、ですか?」
「そう、例えばこうやって
 ロイはそう言うと傍らのハボックをグイと引き寄せる。ギョッとするハボックの顎を掴むと唇を寄せた。
「私とハボックの濃厚キスシーン
「ちょっ!や、めてくださいっっ!たいさっ!!」
 んー、と唇を突き出すロイをハボックが必死に押しやる。渾身の力を込めた抵抗にとりあえずキスを諦めるとロイはケンに言った。
「そうだ、こういう写真ならいつでも撮影を許可するぞ。撮りたければいつでも言いたまえ」
「はあ
「冗談ッ!そんな写真、撮らなくていいからッ!!」
 満面の笑みを浮かべるロイと真っ赤な顔で拒絶するハボックを見ながらケンは「ははは」と笑う。
(そんな写真、誰も買いたがらないって
 内心そう思ったが懸命にも声には出さずにいると、ロイがズイと顔を近づけてきた。
「グラント准尉、一つ提案だが」
「はあ、なんでしょう」
「写真集を売る倍の報酬を払うからハボックの痴態を撮って私にだけ譲ってくれ」
「えっ、倍の報酬で少尉の痴態ですかっ」
 とんでもない提案にケンがマジマジとロイの顔を見れば黒い瞳がしっかりと据わっている。どう答えたものかとケンが迷っている隙にハボックがロイの頭を思い切りド突いて言った。
「ケンッ!マジで受けとんなよッ!こんなの嘘だからなっ!」
「嘘なもんか、私は大真面目でイタッ!!」
「やかましいッ!このヘンタイオヤジッ!!」
 ハボックは容赦なくロイの頭をもう一度殴るとケンを見る。
「もう、この人の戯言聞いてたらキリないから!写真撮ってくれるならさっさと撮って終わりにして、ケン!」
「ああ、はい。判りました、少尉」
 二人のやり取りを目を丸くしていたケンはハボックの言葉にカメラを構える。カメラを向ければ今までのやり取りなどどこ吹く風でハボックの腰を引き寄せてにっこりと微笑を浮かべるロイと、眦を染めながらそれでもロイに寄り添って立つハボックの写真を撮りながら、ケンは先ほどのロイの提案を上手く商売に生かせないものかと考えるのだった。



2008/09/26