パラレル その後いくつ? ロイロイ編


積み上げていた書類の山の間から、一枚だけはみ出しているそれが気になって。エイッと引っ張り出したらグラリと
揺れた山に慌てて飛びつく。その途端、自分自身の体がグラリと揺れて。
「えっ?!」
「うわぁ!!」
ドサドサと音を立てて崩れる書類の山。空しく数枚の書類を握り締めて立っていた自分の前に。
「…え?」
黒い瞳をまん丸に見開いた自分が立っていた。

「誰だッ、貴様っ?!」
咄嗟に錬成陣を描いた発火布を嵌めてそう怒鳴れば、私とそっくりの顔をした男が顔を顰める。だが、何も答えずに
ソイツは私の背後の床を見ると私を無視してそこまで行き、落ちていた火のついた煙草を拾い上げた。益々眉間の皺
を深めて拾い上げた煙草をギュッと握り締めて火を消すと振り返って私を見る。その黒い瞳に浮ぶ苦悩とも哀れみとも
いえる光を見たとき、私の心に冷静さが戻ってきた。じっと見つめる相手を見返して何か言おうとしたのと同時にバンッ
と執務室の扉が開いてブレダ少尉が入ってきた。
「大佐っ?なにかありましたかっ?」
そう言った少尉の口が最後の「か」の形のまま凍りつく。そのまま目を見開いて私達を見ていたブレダ少尉は、あけた
口からとんでもない大声を上げた。
「はああっっ?!なっ、なんでっ!?なんで大佐が二人ぃっ?!」
あけた扉のところで立ちはだかってぎゃあぎゃあ喚いているブレダ少尉の後ろからフュリー曹長が顔を出す。
「なに喚いてるんです?ボク、サイン欲しい書類が――」
そう言ってブレダ少尉を押しのけて足を踏み出したその姿のまま凍りついたフュリー曹長の手から書類がバサバサと
落ちた。
「…ぎゃ―――っっ!!たっ、大佐が二人――ッッ!!」
執務室の入口で大の男が二人、喚きたてるその後ろから冷ややかな声がする。
「何をさわいでいるの、あなた達。いい加減になさい。」
頼もしい副官が二人の間から顔を出した。私達を見た彼女の鳶色の瞳がまあるく見開かれる。普段なにがあろうと
冷静沈着な彼女のこんな顔が見られるのなら、このわけの判らない状況も悪くない。ホークアイ中尉はたっぷり30秒
は私達に見入っていたが、やがて口を開くと言った。
「ファルマン准尉、こちらへ来てちょうだい。みんな急いで中へ入って扉に鍵を閉めて。」
呼ばれて入ってきたファルマン准尉が声を上げそうになって慌てて手で口を塞ぐ。扉に鍵がかかる音がしたのと同時に
中尉が口を開いた。
「大佐。一体どういうことか、この状況を説明していただけますでしょうか。」
そう言われても正直私にはまだ今の状況が理解できていなかった。その時、もう一人の私が手の中の煙草をみつめ
ながら口を開く。
「パラレルワールドだよ、中尉。」
「パラレルワールド?」
「そう。この世界には平行して幾つもの世界が存在している。そしてそれぞれの世界にはその世界のアメストリスが
 あってその世界の私や君が暮らしているんだ。それがパラレルワールド。」
その話、つい最近誰かにしなかったか?そうだ、あの可愛げのないハボックに。
「原因は判らないがそのいくつかある世界が何らかの理由で接触すると、その中の人間が入れ替わることがあるんだ。」
「では、ここにいる大佐はそのパラレルワールドの大佐だと?」
「そういうことだろうな。」
そう言って目の前の私の顔をした男が私を見る。
「ちょっと待て。それじゃあここは以前私の世界にやってきたハボックの世界か?」
「そうだ。」
「だったら私と入れ替わりに私の世界に行ったのは―――」
「ハボック、だろうな。」
そう言うともう一人の私は手の中の煙草見た。辛そうに眉を寄せるその顔に思わずこちらも胸が痛んだ私の耳に低く
笑う声がする。ぎくりとしてその笑い声の主を見れば、ホークアイ中尉がそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべていた。
「つまり今、ハボック少尉の代わりにこの世界には二人の大佐がいらっしゃるわけですわね。」
「そ、そうなるな。」
もう一人の私もあまりに綺麗な中尉の笑顔に気おされるようにそう答える。中尉は私ともう一人の大佐の顔を見比べ
るとにーっこりと笑って言った。
「片付けなくてはいけない書類が山ほどありますの。人手が倍に増えてとっても嬉しいですわ。」
そう言われて振り向いた机の上と周りには目が眩むほどの量の書類が散らばっていた。

「どうして私がこんなところで書類にサインをしなくてはならないんだっ!!」
大量の書類に埋もれながらそう言えば机の上の書類の山の間からロイが答える。。
「仕方ないだろう、大佐なんだから。」
「これは私が溜めた書類じゃないぞ、お前のだろうが。」
「気にするな。」
気にするなってしないわけがないだろう。なんだってパラレルワールドに来てまで書類にサインしてるんだ、私は。
「大体ハボックのいない世界なんて…っ」
呻くようにそう言えばロイが苦笑した。
さっき、この状況について話し合ったとき、私の事をマスタング、こちらの世界の私をロイと呼ぶ事に決めた。どちらも
大佐では区別がつかず、不便だからだ。ロイはファーストネームで呼ばれる事に抵抗していたが、私が「マスタング
と呼ばれるのでなければ絶対にサインをしない」と言い張った為、中尉の一言でこう落ち着いたのだ。こちらの世界
でも中尉はやはり最強らしい。
「ハボックは…お前の世界のハボックは元気なのか?」
そういうロイにハボックが以前こちらの世界に来たことを思い出した。それと同時にハボックとロイが寝たことも。
「元気だとも。毎日たっぷり愛してやってるからな。」
私の言葉にロイは僅かに目を見開いて、それから思い出すように目を細める。懐かしそうに微笑むと言った。
「そっちのハボックは可愛いな。」
「こちらのハボックは可愛げがない。」
そう言えば面白そうな顔をするロイに言葉を続ける。
「お前、趣味が悪いぞ。同じハボックでもあのハボックのどこがいいんだ。可愛げはないし、態度は悪いし、いいところ
 なんてひとつもないだろう。」
「そんなことない。」
即座に答えが返ってきて、思わず目を瞠った。じっと見つめれば私の視線に気づいたロイが頬を染める。その可愛ら
しい様子にこれが自分と同じパーツを持った人間なのだとは俄かには信じられなかった。
「そりゃ、確かにちょっと強引なところもあるけど…でもいいところもいっぱいあるんだ。」
恥ずかしそうに、だがきっぱりと言いきるロイに肩を竦める。
「蓼食う虫も好き好きってことか。」
呆れたようにそう言ってやってから更に言った。
「そんなにお前のハボックに惚れてるなら人の物に手を出さないことだな。」
そう言われてロイは目を見開いた。それから辛そうに顔を歪めて言う。
「謝るつもりはない。」
「なんだとっ!」
別に謝って欲しかったわけではない。だがそんな風に言われて思わずカッとなって立ち上がればロイの瞳がまっすぐに
私を見た。
「あの時の私達には必要なことだったからだ。やましい気持ちもないし、謝る気もない。」
きっぱりと言いきるロイはまるで迷いがなくて、思わず返す言葉に詰まる。それでも黙っているわけにいかず、口を
開こうとした時、ノックの音と共に中尉の声がした。ロイが答えて中へ入ってきた中尉は私とロイの顔を交互に見る。
「書類を頂きに参りました。」
そう言って書類を確認し始めた中尉に、それ以上何も言うことが出来ず、私は顔を背けてソファーに腰を下ろした。

見慣れた、だがまるで知らない我が家に足を踏み入れる。きちんと整えられた室内に、そういえば意外と家事に長けた
もう一人のハボックのことを思い出した。きょろきょろと見回すうち、グウと腹の虫がなる。ぼんやりとリビングの中に
立っているロイに声をかけた。
「おい、晩飯はどうするんだ?」
「私は作れないぞ。」
さも当然という風に言うロイに眉間に皺を寄せる。
「私だって作れんぞ。」
そう答えて暫く互いの顔を見詰め合っていたが、次の瞬間、ロイが酒の収められた棚へ、私がキッチンの冷蔵庫へと
歩み寄った。冷蔵庫の中には色々と食材が収められていたが、その中からそのままで食べられるチーズとハムを取り
出す。バスケットの中から覗いているパンを取るとチーズとハムと共にリビングへと運んだ。その間にロイがグラスと
氷を用意して同じようにリビングへと運ぶ。二人して床にじかに座り込むと食事を始めた。
「やっぱりお前の趣味はサイアクだ。」
私がそう言えばロイがじっと見つめてくる。
「冷蔵庫の中にすぐ食べられるものが入ってない。」
私のハボックだったらもう少し何かしら用意して冷蔵庫に入れておいてくれるはずだ。
「昨日まで残業続きだったんだ、仕方ないだろう。」
ロイが庇うようにそう言う。その瞳に自分のハボックを思う気持ちが溢れていて、私は酒を煽るとロイに聞いた。
「どこがいいんだ。可愛げがなくてすぐたてつくし、小憎らしくて上司を上司とも思わない口をきく。どこがいいのか
 さっぱり判らん。」
私がそう言えばロイがくすりと笑った。
「あのハボックでなかったらお前の相手は務まらんな。」
そう言われて胸に開いた穴の大きさに気づいてしまう。今すぐにハボックに会いたい。今この瞬間、ハボックを抱きたい。
そんな風に思ってロイを見れば不思議な表情を浮かべて私を見ていた。哀しむようないとおしむようなそんな表情。
「あのハボックにはお前でなければダメなんだろうな。」
考えるより前にそう言っていた。ロイは大きく目を見開いて、それからくしゃりと顔を歪める。子供のような頼りない顔
に思わず手を伸ばして抱き寄せていた。
「ここでお前を抱いたらハボックはどうするかな。」
くすくすと笑いながらそう言えば。
「私相手じゃ勃たないだろう。」
平然とそうぬかすから。
「試してみるか?」
「お断りだ。」
そう言って不敵に笑い会う。ああ、私達には肌を重ねることは必要ないらしい。その代わりというように、互いのグラス
を満たしあって杯を重ねていった。

「帰るぞ。」
相変わらず書類に埋もれているロイにそう言えば驚いたように顔を上げて、それから笑った。
「そうか。」
どうやって、とは聞かない。どうやって、とも説明しない。私が私のハボックの元へ帰りたいと思うから帰るのだ。そう
思ってロイを見つめる私の視界がグラリと揺れて。
鮮やかに笑うロイの顔が見えたのを最後に私はハボックの元へと帰っていった。


2007/10/26


「パラレル」、「ロイ同士が出会ったら編」ですー。流石に今回はエッチ、入りませんでした(苦笑)でも、攻めロイ、意外と受けハボ以外には手を出さないんじゃ
ないかな〜って気がしたので。しかし、これを書いていて気がつきましたが、うちの4人のうち最強は攻めロイ、次が攻めハボ、次が受けロイ、そして究極の
受けキャラは受けハボだってわかりました(爆)あれ〜、書く前は受けハボ>受けロイだと思ってたんだけどな。最強の天然タラシは受けハボだったってことか!(笑)