パラレル その後いくつ?  ハボハボ編その後


「ハボック!」
目の前に立ち竦むハボックの姿にロイは思わず手を伸ばすとギュッと抱きしめる。泣きそうに歪んだその顔は自分に
会えた喜びのためと疑わなかった。

「たいさ、帰ってこられたんスね…。」
「ああ、すまなかったな、一人ぼっちにして…。」
ロイはそう言うとハボックに口付ける。あまり反応のないハボックに訝しむ視線を向けた時、執務室の扉がノックされて
ホークアイが入ってきた。
「大佐!お戻りになられたんですね!」
「中尉、心配かけてすまなかった。なんとか無事に帰ってこられたよ。」
ロイがハボックを抱きしめたままそう言えば、ホークアイが満面の笑みを浮かべる。心の底から喜んでいる副官の様子
にロイが嬉しくなって何か言おうとした時。
「本当、間に合ってよかったですわ。では、さっそくお願いいたします。」
ホークアイはそう言うと机に歩み寄り山と積まれた書類の上に手を置いた。
「これが本日夕方までの分、こちらが明日の朝までの分です。サボってた分、キリキリ働いていただきますから。」
綺麗な、しかしあまりに怖ろしい笑みを浮かべながらそう言うホークアイをロイは口をあんぐり開けて見つめていたが、
ハボックの体を離すと数歩ホークアイに歩み寄る。
「中尉っ!私は別にサボってたわけじゃないぞっ。あちらの世界に行ってしまったのは不可抗力だし、そ、それに私は
 向こうの世界でも山ほど書類にサインしてきたんだ!!」
「向こうはむこう、こちらはこちらです。さあ、さっさと仕事に取り掛かってください。終わらない限り、今日は執務室から
 一歩も出られませんから。ハボック少尉、こちらへ。」
呼ばれてホークアイに歩み寄ったハボックの腰に手を回してクッと引き寄せるとホークアイが笑う。
「少尉はお預かりしておきます。早く返して欲しいのでしたら一刻も早く書類を終わらせてください。」
どうせならもう一人の大佐も一緒に連れてきてくれればいいのに、とボソリと呟いて、ホークアイはハボックの背を押して
出て行ってしまう。ハボックの気遣うような視線を最後に執務室の扉がバタンと閉まった。
「どうしてこうなるんだ…。」
後には呆然と立ち尽くすロイが一人取り残されていた。

それでもハボックを取り返したい気持ちに勝るものはなく、終わってみればロイは明朝までの書類を定時からさほど
遅くない時間でやり終えていた。書類を確認にきたホークアイを前に、テストの採点を待つ生徒の心境を久しぶりに
味わっていたロイは、帰宅の許可をとりつけてホッとする。「やれば出来るのだから明日はもっと…」と呟いたホークアイ
の声は聞かなかった事にして、そそくさと司令部を後にした。警備兵をせっついて最大限スピードをあげた車で飛ぶ
ように帰ると、暖かい灯りの漏れる家の中に飛び込んだ。
「ハボックっ!」
「あ、たいさ。お帰りなさい。」
食事の支度をしていたのだろう、キッチンから出てきたハボックが微笑んで迎えてくれる。部屋を満たすいい匂いと
ハボックの笑顔にロイは改めて帰ってきた喜びを実感してハボックを抱きしめた。
「早かったっスね。今日は徹夜かと思いましたよ。」
「せっかく久しぶりにお前と会えたのに仕事なんてしていられるワケがないだろう。」
そう言いながらハボックの首筋に顔を埋めればハボックがくすぐったそうに首を竦める。そうして暫くおとなしくロイの
腕に抱かれていたハボックがポツリと呟いた。
「ねぇ、大佐がこっちに帰ってくる時って向こうのハボックとすれ違ったりしましたか?」
「いや、そんなことはないな。」
「ちらりとも?」
「チラリとも。」
そうなんだ、と呟いてため息をつくハボックにロイは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
「なんだ、アイツのことが気になるのか?」
「ありがとう、ってちゃんと言いたかったのに…。」
ロイの表情の変化に気づかずにそう呟いたハボックの顎をロイは乱暴に掴んだ。
「おい、なにが“ありがとう”なんだ?アイツなんぞに礼をいうようなことってなんだ?」
「えっ、…あ、あの…」
ようやくロイの機嫌が悪い事に気がついてハボックは言葉に詰まる。何か言わなくてはと視線を彷徨わせた途端、
ハボックの顎を掴むロイの指に力が入った。
「いっ…いた…っ」
「なんだと聞いている。」
「…オレが大佐に会いたいって泣き言言ったら慰めてくれたんス。」
「…どうやって?」
聞かれてハボックの目が大きくなる。反対にロイの目がスッと細くなった。
「どうやって、ハボック?」
「た、いさ…」
答えられないハボックに、ロイは二人の間であった事を察してハボックの襟首を締め上げる。
「お前っ、また…っ!」
「ま、まって…た…さっ」
ロイはハボックの襟首を掴んだ手をグッと捻るようにしてハボックの体を床に叩きつけるように押し倒した。
「この…淫乱の浮気者めっ!!」
「…浮気なんてしてないっ!!」
ロイの言葉に咄嗟に返したハボックをロイは憎々しげに睨み付ける。
「はっ、恋人以外の男に脚を開いておきながら浮気してないだとっ?淫乱なだけでなく恥知らずだな、お前は。」
冷たいロイの言葉にハボックの空色の瞳が大きく見開かれ、それから悲しそうに歪んだ。床に押さえ込まれてロイを
押し返していたハボックの体から力が抜け、ハボックは黙ったままロイを見上げる。その瞳に浮ぶのが何なのか、理解
出来ずにロイは苛々とハボックの頬を張った。
「なんだ、その目はっ!よりによってアイツなんかと…っ」
ハボックと同じ顔をしていながらまるで同じところのない向こうの世界のハボックは、ロイとは全く相容れない存在であり、
その存在に誰よりも大切に想っているハボックが身を任せたことがロイには赦せなかった。
「何度お前は私のものだと教えれば判るんだ。」
ロイはその黒い瞳に嫉妬の焔を宿してハボックを睨みつける。
「どうやって抱かれた?言ってみろ、この淫乱な恥知らず…っ!」
そう呻くように言ってロイがハボックのシャツに手をかけた時、ハボックが言った。
「責めるんなら責めたらいい…オレがどんな気持ちでいたか、知りもしないで…オレがどれだけアンタに会いたかったか、 
 どれだけアンタが欲しかったか、これっぽっちも知らないくせに…っ!」
大声を上げるでなく、だが酷く良く通る声でハボックが言う。
「アンタをこちらの世界に呼び戻す為ならオレが消えてもいいって思った。会いたくて会いたくて、辛くて苦しくて、でも
 どうすることも出来なかったオレをハボが抱きしめてくれたんスよ。オナニーしてると思えばいいって、大佐のことだけ
 考えてろって…。オレ、ハボに抱かれてる間中、大佐のこと呼んでた。ずっと、ずっと…。オレ、ダメなんスよ、アンタ
 のことになると、もう全然弱くって。アンタがいないって思っただけで心が軋んで、精神の箍が外れていっちまう。オレ
 をこんなにしたの、アンタなのに…っ!」
ロイは呆然としてハボックの言葉を聞いていた。空色の瞳に涙が盛り上がってポロポロと零れていく。ハボックはスンと
鼻をすすると言った。
「ハボがオレの心を繋ぎとめてくれたんスよ。オレを許せないって言うならもう、いっそのこと。」
殺してくれ、とハボックが囁く。ハボックは涙に濡れた目でロイを見つめる。
「そうしたら、これ以上アンタのことを好きにならないで済む…。」
「ハボ…」
「こんなにスキなのに、もうこれ以上スキになんてなれないと思うのに、どんどんスキって気持ちが降り積もって、もう…っ」
これ以上好きになりたくない、辛いのだ、と涙を零すハボックを見下ろしてロイは何も言えなかった。いつもいつも、自分
ばかりがハボックを好きになっていくとそうとすら思っていたのに。
ロイがそう言えば、ハボックが答える。
「そんなわけ、ないでしょう。でも、そう言っちまったら、自分の中で歯止めが効かなくなるから…。今ですら気持ちをもて
 余してるのに…。」
「歯止めなんて、そんなもの、必要ないだろうっ」
ロイはそう言ってハボックに口付ける。舌を絡めきつく吸い上げると唇を離してハボックの頬をなでた。
「もっともっと私に溺れてくれ…。」
「そんな…これ以上溺れるなんて…」
怖い、と呟くハボックにロイは噛み付くように口付ける。
「愛してるよ、ハボック。」
「オレも…オレも、たいさ…。」
そう囁くハボックを思い切り抱きしめて、ロイは誰よりも愛おしい存在に溺れていった。


2007/10/29


「ハボハボ編」のその後が気になります、とコメントをいただきましたので書いてみました(しつこい!)きっとまたロイに酷い事されると思ったでしょう?
私もね、そのつもりだったんですけども。だってあの、嫉妬の塊、独占欲の権化みたいな攻めロイがハボ同士のことを知ったら絶対黙ってないだろうって。
でも、この間受け同士の後話でお仕置しちゃったし、なんて思いながらつらつらと果いていたら受けハボがこんなことを口走ってくれちゃいました。
そんなわけで、この後ロイは思いっきり濃厚にハボを愛してあげたと思います〜。10日ぶりだしね(苦笑)
ハボハボ編その後、お楽しみいただけたら嬉しいですー。