パラレル その後いくつ? ハボハボ編


執務室の扉を開けた途端、あのなんとも懐かしいというか嫌なというか、そんな揺れを感じて。気がついた時には――
「うわぁっ?!」
「いってぇっ!」
目の前に自分と同じ顔がいた。

「…え?」
見慣れた空色の瞳がまん丸に見開かれてる。その瞳の中に映るオレの顔。その目の所有者と同じ顔が目の中に
映っているっていうのも変な感じだ。
「ええ―――っっ?!なんでっ?どっ、どうなって…っ?!」
あー、喚くな、オレ。オレだってなにがどうしてこうなったか判んないんだから。って、妙に冷静だな、自分。
「えと…もしかして向こうの世界のジャン・ハボックさん?」
それでも、瞬時に状況を把握しようとするあたり、やっぱり軍人ってことか。不安そうに揺れる空色の瞳に唇を歪めて
笑うとオレは言った。
「そうみたい。なんかまたこっち来ちゃったんだな、オレ。」
「え、でも、今回はオレ、こっちに…。」
とそこまで言って、慌てて執務室の中を見回す。ここにいるはずの姿を見つけられず、目の前のオレは不安そうに
オレの顔を見た。
「じゃあ、大佐が…?」
「オレと入れ替わりにあっちの世界に、って事だろうな。」
「…そんな。」
お互いの顔を呆然と見合った時。
「何デカイ声出してんだよ、ハボ。」
バンッと音を立てて執務室の扉が開いてちょっと横に育ちすぎな体が飛び込んできた。あー、相変わらずこっちの世界
のブレダもいい腹してんな、とか思っていると。
「ハ、ハボックが二人っ?!」
ブレダが目を剥いて喚く。オレともう一人のハボックの顔を交互に見比べてよろよろと後ずさった。
「ド、ドッペルゲンガーかっ?」
違うって。大体ドッペルゲンガーって喋らないんじゃなかったっけ?つか、こっちの世界でもあるんだ、ドッペルゲンガー。
「どうしたんです、ブレダ少尉。素っ頓狂な声上げて。」
書類を持ったフュリーがブレダの後ろからひょいと顔を覗かせる。オレ達の姿を見た途端、手にした書類をバラバラと
ばら撒いた。
「え―――っっ?!なにっ、なんでハボック少尉が二人っ?!」
「ドッペルゲンガーだっ!幽体離脱だっ!」
「いい加減になさい。何を騒いでるの。」
喚く二人の後ろから冷ややかな声が聞こえてホークアイ中尉が顔を出す。その鳶色の瞳がまん丸に開かれてオレ達
を見た。うわ、中尉のこんな顔、初めて見るんじゃないだろうか。たっぷり30秒、オレ達のことを見つめていた中尉は
振り向かずに言う。
「ファルマン准尉。こちらに来てくれるかしら。みんな、執務室の中へ入って。鍵を閉めてちょうだい。」
さすが中尉。冷静だ。呼ばれてやってきたファルマンが細い目を目いっぱい開いて驚きを表している。だが懸命にも
何も言わずに執務室に入ると言われたとおり鍵を閉めた。
「床に座り込んだまま話というのもなんだから、とりあえずソファーに座ってもらいましょう。」
中尉の言葉にオレともう一人のオレがソファーに腰掛ける。ブレダたちもそれぞれソファーやら大佐の椅子やらに
腰掛け、中尉はオレ達の向かいに腰を下ろした。中尉はオレたちの顔を交互に見ると口を開く。
「私の目の錯覚でなければ、ハボック少尉が二人いるように見えるのだけど。説明することはできるかしら?」
「大佐の錬金術じゃないんですか?ハボックが二人いたらイイなぁとかって、あの大佐ならやりかねんでしょう。」
勢い込んでそう言うブレダを中尉が手をあげて止める。なに馬鹿なこと言ってんだよ、人体錬成は禁術だろうが。
「ブレダ少尉、あなたの意見はしまっておいて。今はハボック少尉に聞いているの。説明は出来る?」
改めて聞かれてオレ達は顔を見合わせる。もう一人のオレが中尉の顔を見て話しだした。
「原因そのものは判らないんスけど…。有り体に言うと、彼はパラレルワールドのアメストリスからきたハボック…さん
 です。」
「パラレルワールド?」
「ええ、前に大佐に聞いた話だと、この世界には平行して幾つも世界が存在していて、それぞれの世界にはおんなじ
 オレや大佐が存在してるんだって。で、何かの原因でその世界同士が接触してその弾みで平行世界の人間が
 こちらの世界の人間と入れ替わるんだって言ってました。」
もう一人のオレの説明を聞いても暫く誰も口を聞かなかった。当たり前だ。いきなりパラレルワールドとか言われても
信じられるはずがない。今、こうしてオレ達二人を同時に見ていなかったら瞬時に笑い飛ばされていただろう。
「今の口ぶりだと前にも同じようなことがあったのかしら。」
「…ええ。ひと月ほど前に。」
と、もう一人のオレがチラリとオレを見る。
「ハボック同士が入れ替わったんです。10日くらいで元の世界に帰れましたけど。」
「ひと月ほど前っていうと…あっ、なんかハボがやけにガラが悪かったあの時か!」
「んだよ、ガラが悪かったって!」
ムカつくことを言いやがったブレダを睨みつければ「怒んなよ。」と手を振った。仕方ないだろう、あの時はどうしていいか
判らなくて必死だったんだ。こっちの大佐は感じの悪いヤツだったし。
「それで、今回は姿が見当たらない大佐と、と言うことかしら。」
「…たぶん。」
その返事に皆が緊張する。そうだよな、オレがいなくなっても困んないけど、大佐がいなくなったら――。
「どうやったら元の世界に戻れるかはわからないの?」
中尉にそう聞かれてオレ達は顔を見合わせた。
「残念ながらわかんないっス。」
判るんだったらとっくに帰ってる。中尉は少し考えると執務室にいる全員に向かって言った。
「当分の間、大佐は病気だと言う事にしておきましょう。ここにいるメンバー以外にはこのことは洩らさないように。
 ハボック少尉。」
「「はい。」」
中尉に呼ばれてオレ達は同時に返事をしてしまう。中尉は困ったように笑って言った。
「ええと、パラレルワールドのハボック少尉。」
「はい。」
今度はオレだけが答える。中尉はオレを見つめながら言った。
「暫くの間、あなたは大佐の家にいてくれるかしら。」
「でも、オレ。出来ればここにいたいっス。」
間髪入れずに答えれば中尉が意外そうに目を見開く。
「前にこの世界に来た時も、今回も東方司令部にいたとき飛ばされてるんです。ってことはここにいたほうが帰れる
 確率が高いってことっスよね。」
オレの言葉に中尉が口元に指を当てるようにして考え込んだ。するとこの世界のオレが中尉に言う。
「昼間は執務室にいてもらったらどうっスか。行き帰りはサングラスするとかなんか被るとかして髪の色や目の色が 
 見えないようにすれば…。」
その言葉に中尉も頷いた。
「そうね。司令部にいたいという少尉の言い分もわかるし。いいわ、そうしましょう。でもくれぐれも気をつけてね、少尉。」
「「アイ、マム!」」
二人同時に答えれば中尉がくすりと笑う。フュリーとファルマンが物珍しそうにオレ達を見た。
「ホントにそっくりですねぇ。見分けがつきませんよ。」
フュリーが言えばファルマンが相槌を打つ。それに対してブレダが言った。
「そうか?よく見りゃ雰囲気違うぜ。」
「ええ〜、そうですかっ?」
わかんないですよ、とオレ達の顔をフュリーが覗き込む。
「やはり小さい時から知っているからですか。」
ファルマンが頷きながら言うのにブレダがあははと笑ってオレ達に言った。
「見分けられるかはともかく、どっちもハボックだと呼ぶとき困るよな。」
「お一人はファーストネームで呼んだらどうですか?」
そういうフュリーにオレは咄嗟にもう一人を指差す。
「んじゃ、こっちがジャンな。」
「なんでっ?」
「だってジャンなんて親くらいしか呼ばないもん。ヤダよ、こっぱずかしい。」
「それならオレだって同じだろっ!」
「先に言ったほうが勝ち。」
オレがピシャリとそう言えばみんながくすくすと笑った。
「じゃあ、こっちの世界のハボがジャン、あっちの世界のハボがハボックってことでいいな。」
ブレダがそう結論付ければ「よくない!」と叫ぶ一人を除いて皆が頷く。
「悪いな、多数決ってことで。」
そう言うオレをジャンが悔しそうに睨んだ。

「それにしてもどうしてこうなっちゃうんだろう。」
ジャンがオレの前に湯気の上がる皿を置きながら言う。自分の分も持ってくるとテーブルに置いて向かいの席に腰を
下ろした。
「悪かったな、オレがこっちに来ちまって。」
「あ、そういう意味じゃないから。」
ジャンはオレの言葉に慌ててそう言うと皿をつつきながら続ける。
「だって、凄い不思議だろう?パラレルワールドがあるだけでも信じられないのにこうして入れ替わった人間と会える
 なんて。それも一度じゃないんだもの。」
「まあな。」
オレは頷きながらフォークを口に運ぶ。旨い。あ、これ、好みかも。
「これ、旨いな。」
オレが素直にそう言えばジャンが照れたように笑った。あ、かわいい。って、なに自分の顔見て可愛いとか思ってんの、
オレ。
「アンタの世界の大佐もこれ、気に入ってたよ。」
そう言われてオレはふと思い出した。そういえばコイツ、大佐と寝たんだ。大佐がこっちに来たとき、一度だけ。じっと
見つめれば不思議そうに首を傾げる。大佐と寝た、と思ったけど、不思議と腹は立たなかった。大佐から聞いたときは
すっごく腹がたったのに。
「ハボック?」
自身の名前で、呼びにくそうにオレを呼ぶ。まっすぐに見つめてくる瞳が綺麗だと思った。
「なんでもない。なあ、このレシピ、教えて。帰ったら大佐に作ってやるから。」
そう言えば嬉しそうに笑う顔にドキドキする。どうかしてる、こんなの、おかしいだろう。オレはそっと首を振るとガツガツ
とかき込むように皿を空にしていった。

「はい、これ。」
ジャンはそう言うと袋からパンやらサラダやらを取り出してオレの前に置く。ちょっと遅めの昼飯にオレの腹がグウと
鳴った。
「ごめん、ちょっと午前中忙しくて。」
「いや、やっぱ大佐いないと大変?」
オレがパンの包みを開けながらそう聞けばジャンが苦笑した。
「どうしても急ぐ決済の書類なんかは将軍に回してるんだけどね。限度があるし…。大佐がいつ帰ってくるかわかれば
 いいんだけど。」
そう言って俯くジャンの睫が意外と長い事に気がついてオレは金色のそれをじっと見つめた。
「なに?」
不思議そうに見つめる空色の瞳に魅入られる。なんで?オレと同じもん、持ってるんだろう?オレの顔にも同じものが
本当についているのか?オレはもやもやとした気持ちを打ち消すようにパンにかじりつく。むしゃむしゃと食べながら
ジャンの顔を見ずに言った。
「なあ、午後から演習あるんだろう?オレが出ちゃダメ?」
「えっ?」
「だって一日中ここに籠りっきりでいい加減体がなまる。」
ね、いいだろう?って甘えるように聞けばジャンは困ったように目尻を染めた。うわ、なにその可愛い反応。オレだったら
考えらんない。
「中尉に相談してみる。」
ちょっと待ってて、と言い置いてジャンは執務室を出て行ってしまった。オレは一人になった空間にホッと息をついた。

結局「一度だけ」ということでオレはジャンの代わりに演習に参加させてもらえる事になった。司令部への往復でも外へ
は出てるけど、あの時だって顔を見られないようやたら気を使っていて、こうしてのびのびと外の空気を吸えるのは
久しぶりだ。隊の連中に檄を飛ばしながら元気溌剌駆け回っていたら、なんだか胡散臭そうに見られた。
「今日は随分ご機嫌ですな。」
苦笑交じりにそう言う軍曹の背後からぼやく声が聞こえる。
「なんか今日の隊長、可愛くない…。」
確かにそう聞こえてオレは思わず立ち止まった。なるほど、アイツ、小隊のアイドルなわけね。そう思ってジャンの顔を
思い浮かべれば何となく判る気がした。決して女の子っぽいとかそういうわけじゃなく、むしろオレとおんなじでどう見て
も男にしか見えない。それなのにあの可愛さはなんだろう。
(そういえばあの大佐がやけに“かわいい”を連発してたな…)
今なら何となくわかる気がする。オレは軍曹ににっこりと笑うと、なるべくアイツのイメージを壊さないよう、大人しくしてる
ことにした。

そうやって日々が過ぎていき1週間がたった。この間は10日で帰れた。今回も帰れるだろうか。
夕食が済んでジャンはソファーに座るオレの前にコーヒーのカップを置く。小さくため息をついたのをオレは聞き逃さな
かった。
「大佐に会いたい?」
そう聞けばジャンがハッとしてオレを見る。見開いた瞳が子供みたいでなんだか切なかった。
「ごめん、ハボの方がずっとキツイのに。」
そう言って顔を背けるさまが酷く頼りなげで、オレは腕を伸ばすとジャンの体を抱きしめる。驚いて逃げようとする体を
ギュッと抱き込んで離さなかった。
「ハ、ハボ?」
「大佐に会いたい?」
もう一度そう聞けばジャンはグッと唇を噛み締める。怒ったようにオレを睨むと呻くように言った。
「意地悪いこと、言うなよ。会いたいに決まってんだろ。」
ジャンはそう言うと目を逸らす。テーブルの上のカップを睨むように見つめたまま言った。
「この間の時は、辛かったけど大佐がいたから。あの人はオレの大佐じゃなかったけど、それでもそこにいるだけで
 随分と救われた。でも、今度は大佐がいない…。」
ジャンは辛そうに目を閉じると呟く。
「オレがこの世界から消えたら、大佐、帰ってくるかな…。」
「なに言ってるんだ?!」
突然変なことを言い出すから腕の中のジャンに声を荒げた。ジャンはオレの顔を見ると淋しそうに笑う。
「だって、この世界のパーツがいっぱいだから大佐、帰ってこられないんだろう?だったらオレが消えたら帰ってこら
 れるじゃん。」
「なに言ってるんだよ、それだったら消えるのはオレだろうっ?大体消えちまったらお前、大佐と会えないじゃないかっ!」
「うん、でも、大佐がこの世界に帰ってくるならいいかなって。」
「ジャンっ!!」
大声で呼べばジャンが目を見開く。くしゃりと歪めた瞳からぽろりと涙が零れ落ちた。
「ごめん…変なこと言って。でも…」
たいさにあいたい、吐息のような声にオレの中で何かが弾けた。ジャンをギュッと抱きしめるとその唇を奪う。強く押し
付けてそっと離せば驚いたように見つめる空色の瞳と視線が合った。
「うん…会いたいな、たいさに。」
オレ達の大佐に。
アメストリスに神が存在するとして、その神様とやらはオレ達をどうしたいんだろう。こんな風に何度も世界を行き来
させて一体何を見せたいと言うのだろう。
「ジャン…」
オレは囁いて口付ける。何度も何度も。相手はオレと同じ顔をした男で、それでもオレはジャンが愛しくて仕方がなかっ
た。本当なら決して会うことは叶わなかったもう一人のオレ。
「ジャン…。」
オレはジャンをソファーに押し倒すとシャツの中に手を忍ばせる。何か言おうとした唇を自分のそれで塞いだ。
「んっ…ぅんっ」
綺麗に筋肉のついた肌を撫で、乳首を摘めばジャンの体がビクリと震える。押し返そうとするのに構わず、ぐりぐりと
その膨らみをこねた。
「あっ…イヤだ…ハボ…」
ふるふると首を振るジャンの耳元に囁く。
「今だけ…オナニーみたいなもんだと思えばいいんだ…。」
「アッ、でも…っ」
「たいさのこと考えて…。」
オレ達の大佐のことを。一人で慰めるのは淋しすぎるから今だけこうして肌を合わせて。
「んっ…あ…」
ジャンのズボンを剥ぎ取り下肢を曝け出す。グイと脚を持ち上げて引くつくソコに舌を這わせた。
「やっ…んあっ…く…」
もがく体を押さえつけて丹念に慣らしていく。大佐にするときと同じように。ジャンのこと傷つけでもしたらあの大佐が怒り
まくるだろうな。
「ああ…」
後ろを弄られて、ジャンの中心は腹につくほど反り返っている。そういやオレ達、お互い禁欲生活だったもんな。そんな
事を考えながらオレは自身を取り出し解したジャンの蕾へと押し当てた。ぎくりと強張った体が逃げをうつより早くグイと
中へと押し進める。
「ヒッ…アッアアア―――ッッ!!」
悲鳴を上げる体を容赦なく突き上げる。熱い。物凄く熱い。すげぇ不思議な感覚。組み敷いて犯してるその顔はオレ
自身で。空色の瞳からぽろぽろと綺麗な涙を零しながら喘ぐ。
「んあっ…ああっ…た、いさぁ…っ」
啼きながら愛しい人の名を呼ぶジャンを揺さぶりながらオレの中に湧いてくるのはいくつもの愛しさ。オレの大佐への
愛しさ、突き入れるジャンへの愛しさ。オレ自身と、そうしてもう一人の大佐すら愛おしくて。
「ジャン…たいさ…っ」
オレはそう囁くと、ジャンの中へ吐き出していった。

そうして互いを抱きしめあってから数日後。執務室へと入りながらオレには判っていた。もう移動するのも4回目
だからか?揺らぐ視界の中でジャンが物言いたげに口を開く。オレはジャンに向かって微笑みながら唇を動かした。
ありがとう。
神様のどんな気紛れだか知らないけど、でも会えてよかったと思う。もうひとつのアメストリスのもう一人のオレ。
オレはジャンの空色の瞳を見つめながらオレの大佐のところへと帰っていった。


2007/10/25

「パラレル」ハボ同士があったら編ですー。「ハボ同士、大佐同士だったら…」ってコメントを頂いたのでつい…。もっと軽いノリになる予定だったのですが、
意外としんみりしてしまいました。しかし、ハボ同士でエッチを書く事になるとは…!ああ、予想外の展開!(おい)勢いってコワイ(苦笑)