女体


「どうだ、ハボック、見ろッ」
 ソファーで寛ぐハボックの前にやって来てロイが言う。ハボックはソファーに背を預けたまま、自分の前に仁王立ちしているロイを見上げた。
「どうだ、ってなんスか?」
 キョトンとして見つめてくる空色の瞳にロイは舌打ちする。腰に手を当て胸を反らしてハボックを睨んだ。
「なんスかとはなんだ!見れば判るだろうッ!」
 そう言われてハボックはロイを頭のてっぺんから爪先までたっぷり二往復見てみる。三往復目にロイの顔で視線を止めて言った。
「すんません、やっぱ判んねぇんスけど」
 申し訳なさそうな笑みを浮かべるハボックに、ロイの眉間の皺が深くなる。
「お前の目は節穴かッ?ほらッ、これだッ!」
 ロイはそう言うなりハボックの手をむんずと掴む。掴んだ大きな手を自分の胸に押し当てた。
「……………あれ?膨らんでる?」
 たっぷり三十秒は考えてからハボックが言う。ロイは漸く望んだ答えが返ってきて、ニヤリと笑った。
「ふふ、驚きのあまり声も出ないかッ」
 仁王立ちのままハボックの手を胸に押し当ててロイが高らかに笑う。声を発するのに時間がかかったのは、単に手を押し当てられた胸が膨らんでるいるのか、それともただ服がたわんでいるのか判断に迷ったからだけなのだが、ハボックは賢明にもその事は口にせずに言った。
「どうしたんスか?胸、腫れちゃって。どっかぶつけたんスか?」
 そう言いながらハボックは手を取り戻そうとする。だがロイは逆にハボックの手を胸にグッと押し付けて言った。
「腫れてるんじゃないッ!これは正真正銘女性の胸だッッ!!」
「……は?」
 ロイの言っている事が判らずハボックはポカンとする。それからパチパチと瞬いて言った。
「大佐って女の子でしたっけ?」
「お前、普段私のどこを見てるんだ。私はれっきとした男だッ!!」
「ですよねぇ」
 一応二人は(わり)無い仲だ。もう何度も夜を共にしている。組み敷いたロイの胸は白く滑らかではあったが膨らみはなかった筈だ。
「じゃあ、どうして女の子の胸なんかになってるんです?」
 ハボックはそう言って胸に押しつけられた己の手を見る。ハボックの視線につられて自分の胸に目をやったロイは、いつまで触ってるんだとハボックの手を払いのけて言った。
「女性になる薬を錬成したんだ」
「女性になる薬?そりゃまたなんで?」
 手を離してくれなかったのはアンタじゃないかと思いながらハボックが聞く。そうすればロイはツンと顎を突き出して答えた。
「お前、この間ボインの女性にみとれてただろう。だからボインになってやったんだッ」
 ハボックがほんの僅かでも自分以外の誰かにみとれるなんて赦せない。頬を赤らめて睨んでくる黒い瞳を目を見開いて見返していたハボックは、にっこりと笑って言った。
「ありがとうございます。でもオレ、大佐は大佐のまんまで好きっスよ?」
 性別すら関係ないと思うほどロイが好きなのだ。
(それにこれはボインじゃねぇし)
 ハボックは内心こっそり苦笑する。それでもロイの気持ちが嬉しくて愛情を込めて見つめてればロイが益々顔を赤らめた。するとその時、ロイの体からボンッと煙が吹き出た。
「……戻った」
「え?」
「まだ試作品だから十分しか女性でいられないんだ」
 悔しそうに言うロイにハボックはクスリと笑って手を伸ばす。ロイの腕を掴んで細い体を引き寄せて言った。
「気持ちだけ頂いておくっス。大佐は大佐のままでいてください」
 ロイの黒髪に顔を埋めながらハボックが言う。
(ううむ、ハボック悩殺にはちょっとボインに膨らみが足りなかったか)
 優しく抱きしめてくるハボックの胸に体を預けながら次回のリベンジを密かに誓ったロイだった。


2010/01/16