筋肉その後


パタンと扉を閉じてフュリーが行ってしまうと、後には気まずい雰囲気が残された。壁に寄りかかったまま俯いている
ハボックに、その自覚のなさを諭そうとしたロイが口を開こうとしたその一瞬前。
「たいさのバカ…っ!」
ぼそりとそうロイを詰るハボックにロイはカッとなった。
「なんだとっ?!大体お前は一体いつになったら―――」
「オレ、一生懸命練習したのにっ」
ロイの言葉を遮るようにハボックが大声を出す。思わず口ごもるロイを睨んでハボックが言った。
「そりゃ、オレ達軍人になんて別に誰も期待してないし、ただのお祭りみたいなもんだろうけど、でも出るからには
 ちゃんとやりたいって…。仕事終わった後とか、昼休みとか、少しでも時間がある時に練習して。それなのに出るなっ
 て、なんスか、それっ!!」
そう言うハボックをロイは言葉もなく見つめる。ハボックが僅かな時間に練習していたのは知っていた。仕事をし、訓練
を終え、ロイの面倒を見て、長く忙しい一日が終わってさぞ疲れているだろうに、それでもハボックは走りに出ていた。
面倒くさそうな態度に反してハボックは存外マジメだ。引き受けたからには出来る限り最善の努力を惜しまない。その
事は今回に限ったことではなく、ロイは当然よく知っていた。ロイがハボックに「出るな」と言ったのはロイの単なる
我がままでしかなく。
(そんなことはわかってるんだ。)
それでもハボックを誰にも見せたくない。ハボックが自分以外の誰かに笑いかけるのが赦せない。狂おしいまでの
独占欲。
「お前が私をこうさせるんだろう…っ」
腹の底から振り絞るような声で呻く。ああ、多分今、自分はきっと酷く醜い顔をしているに違いない。そうは判っていても
止めることのできない自分勝手で理不尽な欲求。
「何が不安なんスか?」
その時ハボックが言った。
「オレはこんなにアンタが好きなのに。アンタが好きで何もかもアンタに差し出してるのに。」
そう言うハボックにロイは目を見開いた。
「オレが不安に思うのは、そりゃね、当然だと思うんスよ?だってアンタはアメストリス軍大佐で国家錬金術師でかの
 イシュヴァールの英雄焔の錬金術師だ。若くてカッコよくて女だけでなく男だってアンタに惹かれる。アンタの為なら
 命だって投げ出すってヤツ、それこそ掃いて捨てるほどいるでしょう?そんな中で差し出したオレの命なんてたいした
 もんじゃないかもしれないけど。でも。」
ハボックの空色の瞳がロイをまっすぐに見る。
「命も体も心も何もかも全部アンタに差し出してるのに、何もかも全部アンタのものなのに。」
何が不安なんだ、何が気に入らないのだと詰るハボックにロイは眩暈がした。
「むしろオレにはアンタがそこまでオレにこだわる理由の方が判らないっスけどね。まあ、自分なりに鍛えて努力して
 軍人としてのオレにはそれなりの自信と誇りがありますけど。でも顔かたちなんて10人並みだし、恋人にするなら
 もっとアンタに似合いの美人がいるでしょうに。」
そんな風に言うハボックこそ自分のことが判っていないとロイは思う。軍人としてその才能と忠誠心は文句のつけよう
もなくそのふてぶてしい態度を割り引いても側におきたいと思うものだ。だが、それだけならロイはハボックにここまで
執着しなかったような気がする。ハボックのその真面目でまっすぐな性質は自分にはないものだ。明るく誰をも惹き
つけるその性質は自分とはまったく異なるもので、だからこそロイは自分の中の欠けたものを埋めるかのようにハボッ
クを求めた。
(それに)
と、ロイは思う。ハボックは自分の容姿は10人並みだと言うが決してそんなことはない。青空を切り取ったような空色
の瞳はとても綺麗だし、光を弾いて輝く蜂蜜色の髪は意外と柔らかくていつまでも触っていたくなる。鼻筋の通った
顔は整っていてその色の薄い唇は貪りつきたくなるほどキュートだ。背も高く鍛えられた体は綺麗に筋肉に覆われ、
女性だったらあの腕に抱かれてみたいと思うだろう。それになによりその表情が好きだとロイは思う。楽しそうに笑う
顔も、嬉しい時細められる瞳も、拗ねて突き出される唇も、ちょっとハスキーなその声も。ベッドの中で蕩かして散々に
啼かせたくなる。
(大体なんで私より背が高いくせに上目遣いで見るんだか。)
ロイより頭1つ近く高いハボックは何故か上目遣いにロイを見る。どうやったら自分より背の低い人間を上目遣いに
見れるのか不思議なのだが、ロイはその目つきで見られるとどうにも抑えが聞かなくなってしまうのだ。
「要するに、なにもかも判っていないお前が悪い。」
「はあっ?」
ハボックが言葉に出している間、口には出さずに考えていたことはハボックに伝わる筈もなく、突然結果だけをつきつけ
られてハボックは目を丸くする。
「全部お前のせいだ。」
「なに勝手なこと言って…ちょっ、うわっ!」
ロイはハボックにしてみれば至極理不尽な結果だけを言うと、ハボックの体を壁に押し付けた。そしていきなりハボック
の中心を思い切り握り締める。
「ひあっ…!なっ…」
逃げようとするハボックの脚の間に自分のそれをねじ込み、ロイはグッとハボック自身を掴んだ。握り潰さんばかりの力
にハボックは怯えてロイの体を押し返す。
「やめ…っ」
蒼褪め、震える手に反して、だがハボックの牡は徐々に熱を持ち始めていた。
「い、いた…やめて…つぶれる…っ」
「ウソをつくな、濡れてきてるぞ。」
実際ハボックの中心はしっとりと濡れてきている。ハボックはふるふると首を振ると震える手でロイを押し返した。
「マ、ジ…やめて…。」
壁に押さえつけられて俯くハボックの項を汗が一筋流れていく。ロイはその汗をぺろりと舐めるとハボックに言った。
「握り潰されたくなければ脱げ。」
言われてハボックがハッと顔を上げる。眦を染めてロイを睨むと言った。
「アンタ、ここどこだと思ってるんですっ?!」
ここはハボックだけに割り当てられた部屋ではない。競技会にでる選手なら誰もが使う控え室だ。今この瞬間にだって
誰かが入ってくる可能性がある。
「馬鹿言ってないで離し…あああっっ!!」
容赦なく握り締められてハボックは悲鳴を上げた。どっと冷汗が噴き出て、心臓が早鐘のように鳴る。息を弾ませながら
ロイの顔を見たハボックは、ロイの言っていることがただの冗談などではないと気がついた。何度も唾を飲み込むハボッ
クにロイが言う。
「もう一度やらないと判らないと言うなら――」
「待ってっ!」
恐怖に裏返った声でハボックは叫んだ。
「脱、ぐから…離してくださ…」
「脱げ。」
ハボックの言葉など聞かずに要求を押し付けてくるロイにハボックは目を瞠る。だが、再び力がこもって来る手のひらに
ハボックは慌ててハーフパンツのウェストに手をかけた。下着ごとずるりと下ろしたそれは当然、ロイの手に阻まれて
それ以上下ろせる筈もない。問いかけるように見るハボックのそこから一瞬手を離すと、ロイはするりと中に手を忍ばせ
今度は直にハボックの中心を握った。
「脱ぐんだ。」
急所を握りこまれた不自由な格好でハボックはハーフパンツを脱ぎ捨てる。ロイははボックの背を引き寄せると中心を
握り締めたままハボックに口付けた。
「ん…ぅう…」
舌を絡め取られ口中を嘗め回されるうち、ロイの手がゆるりとハボックを扱き出す。合わされる唇から熱い吐息が零れ
ロイの手の中のハボックが堅くそそり立っていった。
「くぅっ…んんっ…あっ」
ロイの腕を掴むハボックの指が震えて、熱を吐き出そうとしたその時、ロイの手がハボックを放り出してしまう。
「あ…?」
体を離したロイが部屋の中を歩き回るのを、ハボックは壁に寄りかかったままぼんやりと見つめていた。ロイは棚から
置きっぱなしになっていたワセリンを取るとハボックの腕を引く。高めるだけ高められて放り出された熱を持て余して
いたハボックは、ロイに引かれるままよろよろと部屋の中央に置いてあったベンチへと歩いていった。そのベンチに
両手を突かされ、突き出す格好になった双丘の間に、ロイは指につけたワセリンをグイと塗りこめる。
「ああっっ!」
指を突き入れられた衝撃に背を仰け反らせ、その後はぐちぐちと動き回る指の動きに耐えるようにハボックはベンチに
顔を押し付け、その淵を握り締めた。
「あっあっ…たいさっ」
ロイは無言のまま乱暴にハボックの蕾を解すと、ベンチに腰を下ろす。ベンチにすがり付いているハボックの体を引き
起こすとその体を背後から抱くように引き寄せた。
「あっ?たい…あああっっ」
そのままロイの脚の上に腰掛けるように体を落とされたハボックは一気にロイ自身に貫かれる。その衝撃で熱を吐き
出しながらハボックは悲鳴を上げた。
「ひああああっっ!!」
達して快感に震える体をロイが容赦なく突き上げる。ハボックは喘ぎながらも目の前の扉を涙の滲んだ瞳で見つめた。
二人が腰掛けているベンチは扉に向かって正面を向いてすえつけられ、もし、誰かが部屋の扉を開けたなら、二人の
姿が真っ先に飛び込んでくる。ハボックは快感に身悶えながらも、切れ切れの息の間でロイに言った。
「やめ…っ、誰か来たら…っっ!!」
いつ扉が開くかと思うとハボックは気が気ではない。それでもそんな気持ちに反して、ハボックの体は貪欲に快感を
拾い集めていた。
「やめて欲しくなどないだろう?こんなにぎゅうぎゅう締め付けておいて…」
ガツンと突き上げられてハボックの唇から悲鳴が零れる。快感に意識が朦朧としていた時、ガヤガヤと部屋の外から
人の声がした。
「…っっ!!」
ぎくりと身を強張らせたハボックをロイが乱暴に揺さぶる。ハボックは漏れそうになる悲鳴を必死に抑えながらロイに
言った。
「たいさっ…だれかきたっ」
「見せつけてやれ…がっちり咥えこんだ部分や、犯されて感じて勃起してる自身を。」
「たいさっっ」
数人の足音が部屋の前まで来ると声もはっきりと聞こえてくる。競技の感想などを言い合っている男達の声と共に
ゆっくりと回っていくドアノブをハボックは絶望に目を見開いて見つめていた。
ガチッッ!!
回ったノブが硬い音を立てて止まる。外にいた男達は暫くガチャガチャとノブを回していたが、やがて大声で不満を
並べ立てながら立ち去っていった。
「あ…」
ハボックはロイの胸に背を預けるように脱力する。そんなハボックを背後から抱きしめながらロイはくすくすと笑った。
「残念だったな。入ってくればお前がイく瞬間が見られたのに。」
言われてハボックは、自分がドアが開くと思ったその瞬間熱を吐き出していた事に気がつく。呆然とするハボックから
ロイは自身を引き抜くと、ベンチにハボックを押し倒した。そうしてハボックの脚を抱え上げると一息に貫く。
「あああっっ」
「ハボック…っ」
貫かれながらハボックは圧し掛かってくるロイの体を押し返した。ぼろぼろと涙を零しながらロイを睨みつける。
「大ッキライだっ!…たいさなんてっ…キライ…ああっっ」
罵るハボックをロイは乱暴に突き上げた。ハボックは悲鳴を上げて、それでもロイを睨むとその肩口に噛み付く。
「っつ…このっ!」
走る痛みにロイはカッとしてハボックを乱暴に揺さぶった。ガツガツと突き上げられてハボックはもう、抵抗する気力も
なくしていく。ロイはハボックの体を引き起こすとベンチに座り、自分の脚の上に跨るようにハボックの体を貫いたまま
その背をかき抱いた。そうして噛み付くように口付けてハボックの口中を散々に貪る。
「ハボック…。」
「う…はぁ…。」
「訂正しろ…。」
「…え?」
「さっき言った言葉だ。訂正しろっ」
乱暴に揺さぶられて朦朧とした頭でハボックは頭の中でロイの言葉を繰り返した。だが、快楽と痛みとで霞んだ頭では
なにも思い浮かばない。
「キライと言ったろう、訂正しろ…っ」
そう言われてハボックは「ああ」と思う。ムチャクチャばかりするロイにカッとなって思わず口を突いて出た言葉。それが
本心から出た言葉かどうかなんて、ちょっと考えればわかりそうなものなのに。
「ハボックっ」
この男はなんてバカなのだろうとハボックは思う。大きな野望を抱き、それを成就させ得るだけの力を持ち努力を惜し
まず、いつか必ず彼は自分の望むものをその手にするだろう。そんな彼には望めば自分よりよほど似合いの相手を
側に置くことが出来るだろうに。
「アンタって…すげぇバカ…」
「なんだとっ」
ムッとして眉を吊り上げる男にハボックは小さく笑う。そうしてロイの背を抱きしめると唇を寄せていく。
「ハボ…っ」
ハボックは想いを込めて囁くと深く深く唇を合わせたのだった。

「おい、大丈夫か?」
ロイはベンチに腰掛けてハボックの金髪を弄びながら聞く。ハボックはベンチの両脇に脚を下ろすようにしてしどけなく
脚を開いた格好で、力なく横たわっていた。
「そんなこと聞くくらいなら加減してくださいよ。」
ハボックはそう言うと扉の方へ視線をやる。
「鍵、いつの間に閉めたんスか?」
「ワセリンを取った時にな。」
そう言うロイにハボックは思い切り顔を顰めた。
「騙すなんて…サイテー…。」
苦々しげにそう言えば
「興奮したろ?」
楽しそうな答えが返ってくる。
「なんでこんな男がいいんだろう…。」
ぼそりとハボックが呟けば、ロイの顔が近づいてきた。
「判らないならじっくり教えてやろうか?」
「結構っス。」
思いっきり嫌そうにそう言うハボックに、ロイは笑うとゆっくりと口付けていった。


2007/8/27


結局のところお互いベタ惚れなただのバカップルだっていうだけの話…(苦笑)