筋肉2


イーストシティの秋の恒例行事、陸上競技大会。軍代表のジャン・ハボック少尉の突然の出場辞退で、一部の観客が
「きっとまたアイツだ!!」と意味不明のことを喚きたてながら暴動を起こしかけるなどのアクシデントがあったりはした
ものの、それでも概ね順調に競技は消化されつつあった。もう一人の軍代表ホークアイは競技に出場する為用意を
すませ、競技場へと控え室からの廊下を歩いているところだった。
「あ。」
ガチャリと開いた男子選手の控え室のドアから顔を出したハボックがホークアイに気づいて小さく笑う。その表情で
またあの我が儘な上司に振り回されたのだと察して、ホークアイは優しく笑った。
「今から競技っスか?」
「ええ。運よく決勝に残れたの。」
「中尉のは運なんかじゃなくて実力っスよ。」
そう言って笑う青年がホークアイは純粋に好きだった。可愛いと思うし、幸せになって欲しいと思う。
(それをまたあの人は…っ)
内心ムカッとしながら表情にはおくびにも出さずにホークアイはハボックに言った。
「少尉は災難だったわね。」
「えっ?…あ、ええ、まぁ…。」
微かに目尻を染めて困ったように俯くハボックの肩を叩いてホークアイが言う。
「後できっちり懲らしめておくから。」
そう言ってにっこり笑うホークアイをハボックは目を丸くして見つめて、それからくすくすと笑った。
「それじゃ行って来るわね。」
手を振って歩き出そうとするすらりと伸びたホークアイの背にハボックの声がかかる。
「中尉、カッコいいっスね。」
肩越しに目を瞠ったホークアイは次の瞬間目を細めた。
「当たり前よ。」
「頑張って下さい。」
ひらひらと手を振って今度こそ競技場に向かって歩き出す。明るく切り取られた出口の向こうから吹き込む爽やかな
風が、ホークアイの髪を優しく揺すったのだった。


2008/8/29