剃刀


「大佐、朝飯の卵、オムレツと目玉焼きどっちに───」
 朝食の支度をしていたハボックは、卵をどう料理するか聞こうとキッチンを出る。廊下を歩きながら尋ねる言葉を口にしたハボックは、洗面所をひょいと覗いた途端言葉を飲み込んだ。
 洗面所の鏡の前ではロイが剃刀を当てていた。電動のシェーバーもあるのだが、何故だかロイはこの剃刀が好きなようでどんなに時間がない時でも剃刀を使っていた。鏡に映る己の顔をじっと見つめてロイは剃刀を滑らせていく。ハボックは洗面所の扉のところから鏡の中のロイをそっと見つめた。剃刀を当てるロイを見るのがハボックは好きだった。綺麗に爪を整えた長い指が鋭い刃を操り肌の上を滑っていく。それを見ていればハボックは無性にゾクゾクとして興奮してしまうのだった。
 洗面所に来た理由も忘れてハボックはロイが剃刀を操るのを見つめる。扉の陰から隠れるように見つめながらハボックはホゥと息を吐いた。
(大佐が剃刀使うの見るの、好きなんだよね……)
 何でだろうと不思議に思いつつハボックはロイを見つめ続ける。ハボックの視線の先でロイは丁寧に剃り終えると冷たい水を出しバシャバシャと顔を洗った。
「……」
 ふぅ、と息を吐き出してロイはタオルに手を伸ばす。柔らかいパイル地でそっと顔の水滴を押さえるように拭き取りながらロイはクスリと笑った。
「いつまでそこで見てる気だ?」
「ッ!」
 笑いを含んだ声にビクリと飛び上がったハボックは、決まり悪そうに洗面所の入口に立つ。
「気づいてたんスか?」
「鏡に映ってた。それに大体お前、私に話しかけながら来たじゃないか」
「あ」
 言われてみれば確かにその通りだ。モゴモゴと言い訳のような言葉を口にするハボックを鏡を通して見つめてロイは目を細めた。
「お前、私が髭を剃るのを見るのが好きだな」
「えっ?や、別にそんな事───」
「この間も見てた」
 否定しようとしてそう指摘され、ハボックは押し黙る。ロイはローションのボトルを手に取り肌につけて言った。
「剃ってやろうか?」
「えっ?でもオレ、もうひげ剃りしたし」
「電気シェーバーだろう?剃刀の方が剃り残しがない」
 おいで、と手招きされてハボックは洗面所に入る。困ったように視線をさまよわせるのに気づかぬフリで、ロイは洗面台の縁を示した。
「そこでいいから座って」
「でも大佐」
「黙っていろ」
 ロイは言って熱い湯を出しタオルを絞る。それをハボックの顔に当て肌を湿らせるとシェービングフォームを手に取った。シュッと泡を出しハボックの頬に載せる。剃刀を手にしてハボックを覗き込むようにして言った。
「動くなよ」
 言って刃を当てればハボックがピクンと震える。その様に笑みを深めてロイは剃刀を滑らせた。
(どうしよう……ドキドキする……)
 単に刃物を当てられる事に対する緊張とは違う緊張が体を支配する。視線を上げれば間近にロイの端正な顔が見え、視線を落とせば剃刀を操る長い指が見えるという状況に、ハボックは困りきって目をギュッと閉じた。だが。
(やば……目、瞑るんじゃなかった)
 目を閉じればロイの微かな息遣いや肌を滑る刃の感触を嫌でも感じてしまう。気にすまいと思えば思うほど意識はロイの唇から零れる呼気と肌に触れる剃刀の刃の動きを追ってしまい、ハボックは自分が興奮していることに気づいて狼狽えた。
(早く……早く終わりにして……)
 瞑った目を更にギュッと閉じてハボックは思う。もういいと叫びそうになった時、近くにあった気配が離れてロイの声が聞こえた。
「もういいぞ、顔を洗って」
「は、はい……っ」
 言われてハボックはホッとして蛇口に飛びつく。水を出してバシャバシャと乱暴に顔を洗うとハアと息を吐いた。
「ありがとうございます」
 差し出されたタオルを受け取ってハボックは言う。ドキドキと高鳴る鼓動を聞かれやしないかとタオルに顔を埋めるようにして拭いていたハボックは、ロイが背後に立っている事に気づかなかった。
「勃ってるな」
「ッッ?!」
 背後から抱え込むようにしてボトムの上から中心をキュッと握られ、ハボックは身を強張らせる。硬く芯が出来て布地の下で息づく中心をそっと揉んでロイは言った。
「興奮したか?」
「大佐……っ」
 耳元に囁く声にゾクリと背筋を震わせてハボックは身を捩る。逃れようとする体を抱き込んでロイはハボックの耳に吐息を吹き込むようにして言った。
「ここも剃ってやろうか?」
「アッ」
 言いながらロイは中心を握る手に力を込める。大きく震えて腰を引くハボックのボトムを弛めるとロイはスルリと手を滑り込ませた。
「これも、綺麗に剃ってやろう。あの剃刀で───興奮するだろう?」
「たい、さ…ッ」
 しっとりと湿気を帯びる茂みを軽く引っ張ってロイはハボックの耳を軽く噛む。指先に触れる茂みを絡めてクンクンと引っ張れば、それに合わせるようにハボックの体が震えた。
「頬に当てるだけでもゾクゾクしたろう?ここを剃ったら……もっとゾクゾクするだろうな」
「アッ、……くぅっ」
 触れる茂みが濡れてくるのを感じてロイは笑みを深める。股間を弄っていない方の手でボトムを引きずり下ろしてしまうと、ロイはハボックを洗面台に腰掛けさせた。
「たいさっ」
 双丘に触れるヒヤリとした感触に、ハッとしてハボックが声を張り上げる。降りようとしたハボックは、だがロイが剃刀を手に取るのを見て動きを止めた。
「好きだよな、ハボック……私がこれを使うのを見るのが」
「たいさ……」
「大丈夫、お前を傷つけるような事を私がするはずがないだろう?」
 ロイはそう言ってにっこりと笑う。
「綺麗にしてやるから」
 そう言うロイの剃刀を持った手がゆっくりと近づいてくるのを、ハボックは大きく見開いた目で食い入るように見つめたまま動くことが出来なかった。



2011/01/23