「ありがとう、ご苦労だった」
 ロイはそう言って車から降りると足早に玄関へと向かう。警備兵の視線を背に感じながら鍵を開けると中へと入った。ロイが灯りをつけるのを確認して車が走り去る音を聞きながらロイはリビングを覗く。ソファーの近くのスタンドだけが灯された部屋の中にはハボックの姿はなかった。
 今夜は会食で遅くなると言っておいた。先に寝ても構わないと告げはしたものの、ハボックはいつだってロイが帰るのを待っていてくれる。そんなハボックの姿が見えない事にロイは不安になりながら家の中を探して歩いた。
「ハボック?」
 声を張り上げて読んでもいらえはない。瞬く間に大きくなる不安にロイはバタバタと2階に駆け上がった。ハボックの寝室に飛び込み、そこにも姿が見えない事にゾッと身を震わせる。自分の命が危険に晒されるよりハボックを失う事に恐怖を感じて、ロイは開け放たれた窓から下を覗き見た。すると見下ろした庭の真ん中に金色の光が見えてロイは目を見開く。思わず窓から飛び降りてしまいたい衝動に駆られたが、懸命にもそれを押さえ込むとロイは慌てて部屋を飛び出し階下へと下りた。
「ハボック!」
 中庭に飛び出しながらそう呼べば、芝生の上に寝転んでいたハボックが体を起こす。ロイの姿を目にするとにっこりと笑った。
「マスタングさん、お帰りなさい」
「何をしてるんだ、こんなところでっ」
 駆け寄ってその体を抱き締めればハボックが驚いたように目を瞠る。困ったように首を傾げて答えた。
「何って、空を見てたんスよ」
「空?」
 その言葉に上を見上げるロイの腕からすり抜けて、ハボックは芝生の上にその身を倒す。そうすれば自然と見上げる空を見ながら言った。
「こうしてるとマスタングさんに抱かれてるみたいだなぁって」
 そう言うハボックの言葉にかつて彼を迎えに東部の人里はなれた彼の生まれ故郷に行ったことを思い出す。あの時もハボックは夜空を見上げてロイの瞳のようだと言ったのだ。ハボックを見下ろせば幸せそうな笑みを浮かべて夜空を見上げている。ロイはハボックの頬に手を伸ばすと言った。
「空なんかに抱かれてないで私に抱かれろ」
「マスタングさん
 驚いたようにロイを見上げるハボックに、ロイはうっとりと笑いかけると覆い被さっていったのだった。



2008/09/10