薄暗い路地の片隅で少年は何度も唾を飲み込む。通りを行き過ぎる男の姿が目に入るたび足を踏み出そうとするが強張った体は言う事を聞かなかった。
親の借金の形に差し出されてあちこち売り飛ばされた挙句最後に行き着いた娼館。労働の担い手として買われたのだとばかり思っていた少年にとって、突きつけられた事実はあまりに衝撃的だった。まさか男に身を鬻ぐことを強要されるなどとは想像も出来るはずなく、だが逃げ出す事も出来ずに少年は男の性器を口で慰めることと、受け入れる為の準備の仕方を教えられた。
『しっかり喉を締めろ。舌を絡めて、絶対に歯をあてるんじゃないぞ』
少年の口中に滾る熱を押し込みながら黒尽くめの男が言う。ムッとする牡の匂いと先端から滲み出る苦い液体に少年が力なくもがけば男は少年の金色の髪を鷲掴んで強引に抜きさしした。
『ほら、しっかり咥えろッ。そんなんじゃ客を満足させられんだろうが』
涙を滲ませそれでも言われるままに必死に奉仕する少年に罵声とも言える指示を男は与え続ける。物慣れぬ幼い奉仕にそれでもいつしか極みまで昂った男は少年の口中に熱を吐き出した。
『んグゥッンンッッ』
逃れようともがく少年を押さえつけて青臭い液体を飲む事を強要すると、やっと男は自身を少年の唇から引き抜く。ゲホゲホと苦しげに咽る少年にローションを投げつけると言った。
『今度は解し方だ。自分で解して挿れてくれと強請るんだよ』
冷たくそう言う男に少年が嫌だと泣けば容赦なく拳が飛んでくる。
『お前は親の借金の形に売られたんだ。嫌だなんて言う権利はないんだよ』
そう言って笑う男に抗う術も持たず、少年は知りたくもない事を教え込まれていく。そうして今夜。
『客を取って来い。稼いでこなきゃお前の家に火をつけるからな』
そう言われて放り出されたものの簡単に出来る筈もなく、夜はどんどん更けていく。怯えきった少年は突然響いたクラクションの音に飛び上がると唇を噛み締めた。
「声、かけなきゃ……オレを買ってって」
ただの一度も愛してくれなどしなかった両親だったがそれでも断ち切るほどには冷たくなれなくて。少年は一つ大きく息を吸うと路地の端まで歩いていく。向こうから近づいてくる黒髪の男に声をかけるのだと必死に自分に言い聞かせて。
「オレのこと買ってくれない?」
ハボックは震える声で男に向かってそう告げる。驚いたように振り向く黒い瞳に。
運命の歯車はゆっくりと回りだしたのだった。



2008/07/24